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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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超人計画編-15 渇望

「ザイセイアさん。僕はあなたを殺します」

 アリーに告げた通り、堂々と潔く僕はザイセイアさんに宣言する。

 冒険者たちが殺気立つのがわかった。

 無理もないあろう。

 続けて言う。

「ザイセイアさんが、戦いたくなくて他にしたいことがあるなら、それを強く強く願ってください」

「ボクさまがやりたいこと?」

「はい。本当にやりたいことです」

 殺意をあからさまに向けてくる冒険者たちを気絶させながら問う。

 僕の宣言とは裏腹に、ザイセイアさんに僕の殺意は全く伝わってないはずだ。

 それを理解してくれれば僕が何かをしてくれる可能性に気づく。

「でも分の悪い賭けになるのは確かです」

「失敗したらどうなる?」

 ザイセイアさんも問う。「ザイセイアさんは死に、きっと僕はあなたを殺した悪者になる」

「成功したらどうなる?」

「もう戦わなくていい。理想の生活が待ってる」

 僕の評判がどうなるかは成功しても分からなかった。一度殺さなければならない事実は覆らない。

「なるほど。ちなみにボクさまを空高く運んでいくことはできる?」

「可能だよ」

 僕は即答する。僕が想像していた予想の懸念をザイセイアさんは教えてくれる。

「なら分かった。殺してくれ。ぼく様は解放されて鍛冶をやりたい。鍛冶をし続けたい。それだけが願いだ。それができないなら死んでいるようなものなんだ」

「じゃあ行く」

 僕は【転移球】を【造型】すると冒険者が襲いかかってくる。

「何を企んでいるか知らないが、殺させはしない」

「理解できないならおとなしく見てて!」

「うるさい。俺は強くなるんだ。あんたみたいな元から強い人間なんかに分かるかよ!」

 棘のある言葉にわずかに力が入る。

 少しムキになって殴っていた。

 僕がかつて落第者と呼ばれていた過去を知らない冒険者なのだろう。

 僕も最初から強い冒険者だったわけではないよ。

「その気持ち、分かるよ」

「分かられてたまるかよ!」

 気絶間際、その冒険者はそう言った。

「気にしないっ!」

 複雑な気分をアリーが一括する。僕の心情が抉られる前にアリーが気分を切り替えてくれた。

 今は目の前に集中する。

 ザイセイアさんを掴んで空中へと転移する。

「空中で打ち抜きます」

「巻き込まれないように」

「うん。ありがとう。キミこそ、強く願って」

「ああ。願いはずっと変わらない」

 その決意を聞いて僕はさらに上空へとザイセイアさんを【転移】させ、そのまま頭を【豪速球】で撃ち抜いた。

 即死したザイセイアさんの身体が爆発する。

 ザイセイアさんが戦いたくないが戦わなければならないと言いながら癖のように胸を触っていたのはこれを僕たちに報せるためだったのだろう。

 僕の言葉でそれに気づいてそれに乗ってくれた。

 意外と爆発が強く爆風にのって降下が加速する。

 空高くと提案したのはザイセイアさんが戦わなかった場合に周囲も巻き込んで自爆するように仕組まれていたのだろう。

 だからザイセイアさんは戦わざるを得なかったのだ。

 それに冒険者が同調し、どうすればいいのかわからなくなった。

 僕の提案は渡りに船だったのだろうか。けれど死のリスクは相当な恐怖のはずだろう。

 それでも受け入れてくれたザイセイアさんを僕は救いたかった。

 よしっ!

 ここからが僕の分の悪い賭けの始まりだった。

「信じてるぞ」

 【蘇甦球】を作り出した僕は希望を乗せて投擲する。

 初回突入特典〔最後に残ったものは(パンドーラー)〕によって希望は上乗せされる。

 ザイセイアさんへと【蘇甦球】が染み込んでいく。

 生き返らなかった。

「大丈夫、きっと大丈夫!」

 もう一度【蘇甦球】を投擲。ザイセイアさんの身体も落下を続けて地面が近い。

 冒険者たちが爆発があったこともあり空を見上げていた。

 ザイセイアさんの死体も見えているのだろう。戦闘は止まっていた。

 ザイセイアさんに【蘇甦球】が染み込んでいく。

 地面によもや激突する、というところで、ザイセイアさんの意識が覚醒する。

 光りに包まれ、地面に寝そべった状態からゆっくりと立ち上がっていくようなまるで奇跡のような光景だった。

「なんだよこれ」

 冒険者たちが唖然とする。こんなにも間近で大勢に死者蘇生を見られたのは初めてかも知れない。

【転移球】で地面へと着地。頭痛がしてちょっとよろけて、すぐに支えられる。

「よく頑張ったわね」

 支えてくれたのはアリーだった。

「生き返ってくれて良かった」

 僕が立ち上がろうとすると、先に立ち上がったザイセイアさんが傍に寄ってくる。

 冒険者たちは先程の喧騒を取り戻すかのように立ち上がっていた。

「ありがとう」

 ザイセイアさんが頭を下げ、お礼を述べる。

「どういうこと……?」

 当然、冒険者たちは唖然とする。

「ボクさまのために戦ってくれた冒険者たちすまない。ボクさまは心臓に爆弾を埋め込まれていてね、だからボクさまは爆弾を取り除いてもらうために彼を挑発して喧嘩を売ったんだ。ボクさまに加勢してくれた冒険者たち、本当にすまない」

 本当にすまない、とザイセイアさんはもう一度謝った。

 まだ理解が追いついてない冒険者もいたが、それでも冒険者たちは戦いをやめて去っていった。

 ザイセイアさんが殺されないと分かったのなら戦う理由はなくなる。

 ザイセイアさんの謝罪は僕の立場を悪くしないための行動だろう。

「もう一度感謝するよ、レシュリー。ボクさまはこれでようやく父さんにも邪魔されず鍛冶をし続けることができる」

「なんとか爆弾に気づけてよかったです」

「正直アウトギリギリのグレーゾーンだった。ボクさまはそれを告げることも禁止されていた。流石は歴戦の冒険者。感心したよ」

 直接語らない理由はやっぱりそうだったのか。

「それと伝えなければならないことがひとつ。しっぱ……いやコジロウという人はコーベック山に向かったのだろう?」

「そう聞いてる」

「なら……手伝いにいったほうがいい」

 なぜならあそこは……とザイセイアさんはその理由を教えてくれる。

「確かにそれはちょっと心配だね」

「手伝ったらコジロウが怒りそうだけど今更よね、こうして知らないところで巻き込まれたわけだし」

「じゃあ決まり手伝いに行こう。ジネーゼはどうする?」

「どうするもこうするも、気絶した冒険者も放ってはおけないじゃんか。手当たり次第に宿屋とかに突っ込むじゃんよ」

「あー、それはすごい助かる」

「仕方ないから任せるじゃんよ」

 ジネーゼがちょっと疲れ気味に笑った。確かに激戦だった。ジネーゼにとってはその前にオミとの戦闘もあったのだ。相当なものだろう。

「また、何かあったら応援呼ぶよ」

「そのときはよろしくじゃん」

 手を振るジネーゼに見送られてレスティアの出入口に差し掛かると鍛冶屋の大群が見えた。先頭にはジョバンニもいる。

 到着が予定よりも早い。

「どこか行くのかい?」

「そうよ」

「あとはお願いします」

 軽く挨拶して、ジェニファーが発進させていた飛空艇に乗り込んだ。

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