超人計画編-14 大勢
「さすがに多い」
冒険者たちは減ることはなかった。鍛冶屋の武器強化が受けられなくなるかもしれない、そんな噂は人を呼び集めていた。
もはや強化された武器を持つ冒険者たちは数えるほどしかいなくなっていたけれど、武器強化を待ち望む冒険者たちが強化できなくなるかもしれないと暴動を起こすかのような勢いで集まり続けていた。
鍛冶広場は戦場となり、鍛冶屋は扉を閉めこの喧騒が静まるまで閉店を決め込んでいた。
「ザイセイアさん!」
僕は叫んでいた。「戦わなければならない理由を教えてほしい!」
死の恐怖も当然あった。けれどザイセイアさんの戦わなければならない理由がなくなればこの戦いは一瞬で終わるのだ。
「失敗作を破壊しなければならない。父さんが望んでる」
「失敗作ってコジロウのこと?」
「コジロウが失敗作なわけないじゃない?」
「それは父さんが決めることだ。そして父さんはボクさまが戦わない可能性も見抜いたうえで、失敗作や、それに通ずる者たちが現れたときに戦わざるを得ない状況を作った」
「それが今ってことじゃんか?」
「そうだ」
「それだけじゃ、戦わなければならない理由は分からない。追い込まれてる理由はなんなんだ?」
「答えられない」
そう言って胸を抑えてザイセイアさんはまるで申し訳ないと顔を歪める。
「だけど戦わなければならない」
ザイセイアさんはそう告げる。
まるで助けを求めているようだった。いやいや戦わされているがその理由は言えない、だから見つけて打開してくれと言わんばかりだ。
「聞いたか! だから俺たちが助けるんだ!」
強化できないかもしれない、自分たちが強くなれないかもしれない、そんな脅迫概念に囚われた冒険者たちはザイセイアさんの意図を読み取れてないように思えた。
ザイセイアさんが本当に僕たちを殺すつもりであれば、この機に乗じて殺すことも冒険者達を扇動することもできた。
けれどザイセイアさんはそうはしなかった。
だからやっぱりザイセイアさんには何かあるのだ。戦いたくないけれど、戦っている理由が……。
僕の思考を邪魔するように冒険者の濁流が襲いかかってくる。
「このままじゃ数で負けるわよ」
いくら冒険者を一撃で無力化したとしても、数が違っていた。
こちらは四人しかいない。体力疲労と精神摩耗でいずれは力尽きる。
冒険者の数は増え続けている。武器強化の恩恵がほしいからだけ云々ではなく、この機に乗じての力試しや下剋上狙いもあるのかもしれない。
ただ騒ぎたい冒険者が騒いでいる冒険者に追従するように、騒ぎが起こっている渦中で当事者になりたいように。
「気分爽快、元気爆発、人がゴミのようにいるっしょ!」
「相変わらず例えなのか適当なのかわからないが大勢の冒険者がいるとは、ここが死に場所か……」
「いやあ、それは生き様、はたまた生きがいっしょ、ガリガリガリーくん」
「ガリーだ。覚えろ、アールビー」
「アールビーっしょ。そっちこそ覚えろっしょ」
「いや、あってるだろ……」
面倒臭げにガリーはため息をつく。
一緒に冒険するようになったと聞いたけれどその関係は今も続いていたようだった。
「アンナポッカが買い物中にこんな騒動に巻き込まれるとはやっぱりここが死に場所か」
死にたがり屋のガリーは〈悪運〉持ちのためその悪運が尽きるまで死ねない運命にあった。
そんなふたりがこの場に現れた。
「寄ってたかってひどいっしょ」
「大勢と戦って死ぬ、そうかここが死に場所か」
僕たちと冒険者の間に割って入るようにアールビーは立ちふさがる。
適当な口調とおどけたような笑顔でまるで道化師のように見えるアールビーは初めてガリーの目の前に現れたときからランク6で今もなおランク6のまま健在している。
「オイラ様は誰かって? 誰が呼んだかランク7に一番近い男っしょ!」
それはランク7の冒険者がいないときに言える言葉だよなーと思いながらも、アールビーとはそういう男だった。
「オイラ様は剣盗士、剣盗技能で戦いにも健闘し」
微妙に韻を踏みながら、アールビーは、突然現れたアールビーを油断しきった冒険者のなかで、剣に分類される武器を全て盗んでいた。
気づいたときにはもう遅い。ほぼ8割の冒険者の武器が盗まれていた。
これもガリーの〈悪運〉の効果なのだろうか、と思うほどに冒険者の武器に偏りが生まれていた。
とはいえそもそも冒険者の武器の傾向は剣が多いのも事実。
武器強化してほしい冒険者が前に出て戦う剣士系複合職が多かったのも一因かもしれない。
アールビーの適当な口調とおどけた表情は初対面で自分が強いと思っている冒険者ほど油断を生む。
おそらく僕たちを囲う冒険者でアールビーの存在を初めて知った者は彼がランク6とは思わないだろう。
武器がないことに気づいて予備を出したところでそれが剣ならまたアールビーに盗まれるだけだ。
僕たちは無手の冒険者たちから気絶させていく。武器は僕たち冒険者に大きく結びついている。技能のほとんどは武器ありきで設定されている。
体術は全員が使えるものではあるけれど、ランク7になって終極迷宮に突入して初めて、技能と同じように闘気を宿した体術を特典として得られる。
剣を盗まれるということは剣士系複合職には致命傷にも近い。
ガリーとアールビーの連携で冒険者の数が圧倒言う間に減っていく。
それでも限がない。ピークは過ぎたのかもしれないけれど冒険者の数は未だに多い。
「何か策はないの?」
アリーが問う。流石に疲労の色が見えた。ジネーゼも【不在証明】を使用していない。精神摩耗がひどいのかもしれない。
ジェニファーは燃料切れで動きが鈍くなってきている。
僕も少し頭痛がし始めていた。精神摩耗の警告だった。
「ザイセイアさんが戦う理由が分かったかもしれない」
ザイセイアさんに理由を問うたびに行っていた仕草が僕は妙に気になっていた。
それがもしかしたらザイセイアさんからのヒントなのかもしれなかった。
「アリー。分の悪い賭けがあるんだけど……」
「失敗したらどうなるの?」
「きっと僕は悪者になる。善意に満ちた冒険者が僕の行為を拡散して立ち直れなくなるかもしれない」
「それは大変ね」
「そう大変なんだ」
「でも私はいてあげるわ。あんたがどうなろうとね」
嬉しくなってアリーを見ると、アリーは視線を逸らしていた。目を合わせるのが照れくさいのだろう。
ジネーゼがじと目で僕たちを見ている。
「だったら、分の悪い賭けもそう悪くはないね」
「具体的にはどうするの?」
「まずはザイセイアさんを殺す。もちろん本人に許可をもらってからね」




