鉄拳
24
やがて虚空へと放り投げられた【蘇生球】がレシュリーの死体へと落ちてきた。
【蘇生球】がレシュリーの身体に入り込み、そして――
目覚めた彼はアリーたちに鉄拳制裁を受ける。
***
無事に生き返った僕は、直後殴られた。滅多打ちだった。爛れた頬を押さえて、痛みを堪える。
アリーはともかくネイレスとコジロウからも殴られた。メレイナは躊躇ってくれたが少し涙目だった。無茶しすぎたようだった。
「へへっ……」
それでも生き返ったことの安堵感から笑みが零れた。
「笑うな。キモい」
アリーがそう言ってくる。酷い。それほど顔の皮膚が爛れているらしい。びっくりだ!
「あと気づいている?」
「何が?」
「やっぱり気づいてないのね。仮面、取れてるわ」
「嘘……ホントに?」
「たぶん、死んだからよ。バッカじゃないの」
「あー、なるほど。それは迂闊」
「どうするのよ」
「えっと、どうも……しない?」
「何それ……」
「でもどうもできないよね。もうバレちゃうよね?」
「まあいいではござらんか。毒素を封印する実力を持っているのでござる。人体実験に使われる懸念も過ぎ去ったとみるのが妥当でござるよ」
「そうね。ま、当分は集配員が追いかけてくると思うけど、まあなんとかなるでしょ」
「そういうもの?」
「そういうものよ」
「とりあえず危険は去ったって教えに行きましょう」
***
「誰だ、お前? 新たな敵か? 敵なのかっ!?」
すごく残念なやつ、つまりアクジロウが僕の顔を見て叫ぶ。それにつられて身構える鍛冶屋数人。爛れた顔が魔物に見えたらしい。そんなに酷いのか。
「これがヒーローの中身よ」
アリーが僕をこれ扱いした。
「どぅおええええええええええええ!」
到底好きにはなれない叫び声を上げてアクジロウは驚く。
「大袈裟すぎる」
「爛れた顔が何を言ってんのよ」
「あー、爛れてたっけ?」
「爛れてんのかよ!」
アクジロウのツッコミが鬱陶しい。
「とっとと治してもらいなさいよ」
気づいたリアンが駆け寄ってくる。
「仮面取ったんですね」
「むしろ取れたというか……」
「リアン、それよりも治療してあげてくれ」
僕を見つめるリアンをアルを急かす。
「そっ、そうでした」
慌ててリアンは祝詞を唱え、癒術が発動。
【整顔】によって爛れた顔が整えられていく。体にも爛れている部分があったりするのだけどそれは自然治癒に任せることにしよう。
これ以上リアンに頼っていられない。
「レシュリーさんたちが来たところを見ると毒素は封印できたんですね?」
僕は頷き、同時に違和感。今までは仮面の力でレシュリーが勝手にヒーローに置換されていたために自分の名前が妙にむず痒い。
「そっちは何もなかった?」
「言いにくいですが犠牲者がふたり。あの弓士です。実力があるから大丈夫だと過信していたのが仇になったみたいです」
「アルのせいじゃないよ。私の魔法展開も遅かったし」
「それでも救えた可能性が拭いきれない」
唇を噛締め、アルは震えていた。
「まあいいじゃねぇーか」
アクジロウはそれでもお気楽だ。
「これ以上、犠牲は出ねぇんだろ。それだけでもよしとしようぜ」
「あの……それよりも毒素はどうするんですか? 持ち主を決めないと……三日足らずでまた出てきますよ?」
メレイナの言った新事実に全員が驚く。
「それ、初耳ね」
「す、すいません。言うのが遅くて」
「でもどうするわけ? 持てるのは召喚士に限るわよね……?」
「その召喚士もなるべく若い人がいいでござるな。死んだら出てくるのでござるし」
「だったらそれなりに経験がある人のほうがいいわ。新人に持たせて変に殺されでもしてみなさい」
「そもそも僕が原因で投球士系複合職がいないってこと気づいてる?」
「あんた、自虐はやめときなさい。あんたの失敗で自分の力に見切りをつけた奴らが悪いのよ」
「で結局、どうするでござるか?」
「アタシに心当たりがあるわ。詳しくは言えないけどたぶんずっと封印できる」
「ならネイレスに任せるけど……反対の人はいるかな?」
アクジロウが手を挙げるかもという懸念はあったが反対はいなかった。
「意外ね。素直に信じてもらえるとは思わなかったわ」
ネイレスが言った。
「ちょっとはアタシを疑ったりしないわけ?」
「まあ仲間だし」
僕は言う。
「というかあんたが変なことしたらまたこいつが止めるだけでしょ」
アリーが僕を指す。ごもっともです。
「それもそうね」
ネイレスは笑った。
「メリーもついてきてもらっていい? おじいさまの墓前に報告するならきちんと見届けたほうがいいわ」
「はい、お付き合いします」
「封印したらとりあえずここに戻ってくるから、それまではここに居てもらってもいいかしら、レシュリー?」
「それはいいですけど……」
「レシュリーの保護者さんも良いかしら?」
「当たり前じゃない。あんたも私も墓前に報告する義務があるでしょーが! そして保護者じゃないっ!」
「じゃ恋人なの、アリテイシア?」
「そっ……それも違うっ!」
アリーをからかったネイレスは休むことなく、メレイナとともに去っていく。
ふたりを見送ったあと、僕は周囲を見渡す。あーあ、すごい有り様だ。
僕はまだまだ未熟だ。そんな分かりきっていたことを改めて認識した。




