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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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超人計画編-10 羨望

 ウガテーは女冒険者を殴り殺して逃亡していた。

 ウガテーはDLCを使った第ⅶ世代の冒険者で、新進気鋭の獣化士だった。変身時に防具が頻繁に壊れるため薄着を好んでいた。今日も薄着でへそが見え、そこから割れた腹筋が見えていた。

 髪は肩ぐらいまで伸びている。どこかの機会で切りたいと思いながらも時間がなく仕方なく後ろで結いでいた。

 ひげが多少生えて剃れなかったのも忙しさの象徴だろうか。

 その日は相棒のヒガミーと酒場に依頼を請負に来ていた。

 ヒガミーはふくよかな体格だが、口から出る言葉には優しさがあり、いつもウガテーを気遣ってくれていた。

 その日ウガテーは女冒険者にこう言われた。

「男らしくて格好いい」と。

 途端にウガテーはブチギレて女冒険者を殴り殺していた。

 そうしてウガテーは相棒を放ったらかしにして逃亡した。


 ***


「なんであの人を殺したじゃんよ」

 声の主の姿は見えなかった。

 けれど森の中だ。声が聞こえる以上、どこかにいるはずだろう。

 ウガテーは目を細めて自分を狙いにきた暗殺者を探す。

「あの女は俺のことを男らしくて格好いい。そう言った!」

「それは褒めてるじゃんか!」

「俺のことを男らしいと言ったということは、性的に見ている、そういうことだろう? それは非難されることではないか?」

「意見が穿ち過ぎじゃんよ」

「それにあの女は格好いいと言った。容姿弄りが叫ばれる昨今! 負の表現は元より、ひとりを持ち上げるような表現で、周囲が負だという印象を与えていいのだろうか?」

「昨今ってどこのことじゃんよ。自分たちの界隈だけの極論みたいに聞こえるじゃん!」

「極論ではない。俺が格好いいと言われることで、相棒のヒガミーは勝手に俺と容姿を比較されているではないか。あの女はヒガミーに対しては何も言わなかった。自分勝手な基準でヒガミーと俺の容姿を弄ったのだ」

「つまり容姿を弄られて性的な目で見られたから殺したじゃんか?」

「そうだ。さらに言えば相棒が間接的な容姿弄りによってその尊厳を踏みにじられた」

 動機としては複雑だが、ようは納得できない事象を力で解決しただけだ。

 現場にいたわけではないが「男らしくて格好いい」は褒め言葉だろう。

 その言葉でキレられたら世も末だ。けれどウガテーは違うのだ。

 穿った価値観、独特の常識や認識すらも個性と言えば個性だ。

 全否定するのも違うのだろう。もちろん全肯定するのも違う。

「理由は分かったじゃんよ。でも殺しは殺しじゃん。殺さず主張をすればよかったじゃんよ」

「今まで主張したことはあったが、誰も理解しなかった」

「今回は違ったかもしれないじゃん」

「幾度となく主張して疲れたのだ。どうせ理解してくれないだから理不尽でも押し通すべきだと思ってしまったのだ」

「……」

 そこでウガテーは得物である大斧を構え、主張をやめた。

 悟ったのだ。

 衝動的であると決めつけられたからこそ、緊急的に捕縛または討伐の依頼が発行され、ジネーゼがやってきたのだと。

「隠れてないで出てこい」

「暗殺士にそれを言うなじゃん。けどまあ、もう目の前にいるじゃんよ」

 一瞬だった。ウガテーの首が切れ、血が飛び散る。声の主ジネーゼが【不在証明(アリバイ)】によって近寄り一瞬にして仕留めたのだ。


「羨ましいんだぜ、それとか。ジヴンもそれとかが欲しかった」


 ウガテーが死んだ途端、ジネーゼの前に男が姿を見せる。

「誰じゃん?」

「ジヴン名乗る必要とかあるか?」

「どうみてもあるじゃんよ。唐突に自分の前に現れてそれが欲しかった、とか言われても分からんじゃんよ」

「そうか。それとかもそうか。ジヴンはオミ・"???"・シュタイナーとかいう男だ」

「なんて言ってるじゃん?」

「ああそうか。ジヴンの正式名称は認識しないと聞き取れないとかなんとかそういう風に決まっているとか父さんは言っていた」

 警戒は解けない。

「何にせよ、だ。ジブンはその固有技能とかが欲しかった。父さんに頼んだのだが"???"が限界で【不在証明(アリバイ)】のような技能はついぞ手に入らなかった」

「つまり【不在証明(アリバイ)】を持っていることが羨ましいってことじゃん?」

「ああ。ジヴンが欲しかったものだ」

「こんなもの、自分が欲しくて手に入れたものでもないじゃん」

 経緯を知らないものは羨ましがるが、この【不在証明(アリバイ)】はリーネの死に起因するようなものだ。大切な誰かを失って手に入れているのだ。複雑な気持ちがジネーゼには拭えないでいる。

「それがあれば人目を気にすることとかがない。それは素晴らしいことだろう。一方的に見れ、相手は見られていると気づかないわけだ」

「覗きかなにかがしたいってことじゃんか?」

「断じて違う。要は一方的なアドバンテージとかがほしいのだよ」

「なるほど。確かに透明になれるのは確かにアドバンテージかもしれないじゃん」

「だろう。そんな技能をジヴンは欲しかった。けれどジヴンは手に入れれなかった。だから羨ましい」

「主張は分かったじゃん。で自分はどうしたらいいじゃん?」

「いなくなれ、とか言ったらどうする?」

 そこでようやく殺気が飛んでくる。ジネーゼは【不在証明(アリバイ)】を使って急ぎ後退。木陰へと姿を隠す。

「隠れたって無駄だ」

 ジネーゼが隠れていた樹を一刀両断。「そこにいるとかジヴンには見えている」

 オミが宣言する。

「【不在証明(アリバイ)】で透明になれるというアドバンテージとかがあるならどうするべきか。それすらも見えれば、そのアドバンテージはなくなる。ジヴン、お前が木の陰に隠れてるの見えてますから! このオミ・"透視"・シュタイナーとかには!」

 残念と言わんばかりにしっかりと視認できているジネーゼに向けてオミは大剣〔硬水飲みのゴハンデル〕の切っ先を向けた。

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