超人計画編-8 鬼剣
「父さんは言っていた」
コーベック山に向かう道すがらであった。
まるで辻斬りのように、通り魔のようにコジロウの前に現れた冒険者はそう言った。
「失敗は成功の母。けれど失敗が成功であってはならないのds」
「シュタイナーの関係者でござるか?」
コジロウは聞き返す。
「その通り。orsmの名前はセンセイ。センセイ・"???"・シュタイナー。父さんに言われたとおりにomeを倒すものds」
「なるほど。なぜこのタイミングで拙者を狙い出したのか皆目検討はつかぬでござるが……狙ってくるのでござれば容赦はせぬよ」
コジロウが加速してセンセイへと先制攻撃を仕掛ける。
センセイは避けることもせず、がしんとコジロウの忍者刀〔仇討ちムサシ〕を受け止める。
「ふむ。直線すぎたでござるか」
終極迷宮で素早さに頼り切る場面が大きかったせいか、軌道がまっすぐ過ぎたと反省。一方でその速さを受け止めれる実力があると判断できる。
「さすが、aitの代物ds。強度が違う強度が!」
受け止めたセンセイは長直剣〔後手後手のロイス〕を褒めちぎる。
「orsmはやはり父さんの成功品ds。そして同様に成功品であるaitの代物が加わって、orsmはランク5にしてomeと渡り合える」
「やはりなにか秘密がある、ということでござるか……」
自らを完成品と呼ぶこと、そして先程の名乗りの際に聞こえなかった"???"の部分、おそらくそれがセンセイに隠された強さの秘密となる。
ランク差がある分、ステータスとしてはコジロウのほうが上。それでも計り知れない何かがある。
「特典を考えないで良い分、気が楽でござるが……」
「何をごちゃごちゃ抜かしていms」
特典の部分が聞こえなかったからだろう。ランク7になっていないと終極迷宮の用語は聞き取れない。
反対に言えば、コジロウのつぶやきを聞き取れた耳の良さがある。
センセイの体型はどちらかといえば男性時のコジロウに近い。長身で細身。けれどコジロウを打ち負かせるほどの膂力があるように感じられた。
コジロウが速さだとしたらセンセイは力というイメージだろうか。
ぶおんっ! と轟音とともにコジロウの横を衝撃波がすり抜けていく。自慢の速度がなければ避けきれなかった。
横薙ぎの一撃【鬼剣刃】、そこから副次的に発生する衝撃波だった。この衝撃波も合わせて【鬼剣刃と言えた。
アルの剣技というよりもアネクの剣技に似ている。
コジロウ自身、ふたりの剣士の太刀筋をそこまで見たわけではないが、力強く豪快だった。
流派に囚われない基本的な剣技は、冒険者自身の特色が強く出る。
仮にアルが使用すれば【鬼剣刃】は速く繰り出され、副次的に出せる闘気の衝撃波は速く長い。これをアネクが繰り出せば、衝撃は短く太いものになるだろう。
もちろん、冒険者が使用する武器や熟練度にも影響されるが、【鬼剣刃】だけで見れば、センセイの熟練度は相当なものに感じられた。
再度、接近しようとしたところで【鬼剣刃】が再び襲来。
油断したわけではなかった。それはランク的優位から生まれた油断でもない。
【鬼剣刃】から繰り出された衝撃波が先程から想定したものよりも五倍は太い。
「闘気をそんなにも調節できるのでござるか」
驚きを隠せなかった。技能は性格をも映し出す。大雑把な性格の冒険者は細かい調節はできないが、繊細な性格の冒険者は大胆な大きさを出せないことが多い。それを覆すように自由自在だった。
「常識に囚われていては駄目でござるな」
自分の杓子定規が通用しない、と改めて認識する。よくよく考えれば終極迷宮から外に出てから久しぶりの戦いではあった。
こちらでの感覚が戻ってないのかもしれなかった。
「やはりomeは失敗作dsか。いや違いmsね。orsmが成功品過ぎるのds。それにaitの武器も、orsmの力を引き上げるのに十分過ぎるのds」
愉悦に浸るようにセンセイは宣言した。
「もはや勝利を確信した。弟たちには申し訳ないdsがやはり父さんがorsmに指示をくれたのはorsmなら勝てるからdsね」
言ってセンセイは剣を前に構える。
「やることはただひとつ。みせてあげms。これが成功品たるセンセイ・"剣士"・シュタイナーの至高の剣技ds!!!!」
至高の剣技として放たれたのは、先程と変わらぬ【鬼剣刃】。
けれど違うとすればその【鬼剣刃】は先程と闘気の量が違っていた。
コジロウは真っ向から受け切るようなスタイルを得意としていない。
速度を上げ、回避すべく動き回る。来る一撃を避け、必殺の一撃を入れる。
コジロウの特典は基本的に乱戦で効力を発揮する。多くの敵を屠りながら素早さを上げていく。
一対一において、その特典はあまり効果がないのだと浮き彫りにされている気分だった。
影師たるコジロウは【強影分身】を発動。
影法のひとつであるその技能は、影分身よりも精度の高い分身を作成するのものだ。
「そんな撹乱は通用しないds」
強気の宣言通り、放たれた【鬼剣刃】の副次的な衝撃波は分身を飲み込んでいく。
その衝撃波が信じられないぐらい大きいのだ。
致命傷は避けられぬでござる……コジロウはそう判断する。
センセイ・"剣士"・シュタイナー。聞こえなかった"???"が"剣士"だと判明したとき、剣技熟練度の強化か何かが施されていると判断したが、それだけではない何か、特に武器に何か秘密が隠されているようにも思えた。
ランク5では説明できない何かがある。
やはり手伝ってもらうべきだったでござるか。コジロウは自分のわがままを押し通そうとしたのを恥じた。
自分でケリをつけたかったというのは本音だが、どこかに自分の過去を知ってほしくなかった部分もあったのだ。自分で語るのと知られてしまうのではかなりの差がある。
そんなコジロウの前に突如現れたのは
「エミリーはどこだ?」
アエイウだった。
センセイを怒鳴りつけるように、コジロウとその衝撃波の間に立ちはだかった。
「ぬぉ!」
衝撃波の闘気が見えていなかったのは立ちはだかってようやくどういう状況か理解する。
だが、「ぬん」とまるでアエイウの筋肉に弾け飛んだように衝撃波が掻き消える。
その肉体は確かに傷ついていたが、すぐに再生する。
「狂戦士dsか」
アエイウの体は強靭だったが、より強靭に、進化していた。
「エミリーはどこだ!」




