超人計画編-7 依頼
「コジロウにアエイウにフレアレディ……って異色よね」
「三人にまさか共通点があるなんて思いもよらなかったけど、でも終極迷宮がそういう情報をくれたのなら間違いないよ」
「コーデック山のシュタイナー研究所だっけ? 場所を教えてくれたのはやっぱり……万が一を考えて、よね?」
「うん。だから僕たちはこうしてレスティアに居続けているわけだし」
ディオレスの秘密基地はレスティアにある。だからこうして待ち人が来るのを移動もせずに待っていた。
秘密基地に入るつもりはないと明言したため僕たちはその待ち人であるジョバンニと酒場で待ち合わせしていた。
「お待たせしたね」
「オヒサシブリデス」
ジョバンニとともに現れたのはジェニファーだった。
「久しぶりだねジェニファー」
言うと女形機人は僕に抱きついてきた。
「寂しいときはそうやるってアップデートが入ったみたいだね」
ジョバンニが笑う。
「ちょっと、変なこと覚えさせないでよ!」
「アプデは、作り手がこれがいいかも、と思って入れたものだよ。メンテしかしてないボクに関与できると思っているのかな?」
「調子いいこと言わないでよ」
とはいえ、放ったらかしにしていたのは事実だ。
ジェニファーの頭を撫でてなだめるとなぜだかアリーが少しだけふくれっ面になっていた。
「まあ真相はどうあれ。依頼の件、早々に引き受けてくれてありがとう」
そう言ってジョバンニは強化素材と呼ばれる鉱石を取り出す。
「これが例の武器強化の?」
「うん。そう」
丁寧に机に置かれた強化素材は鉱石とはいうもののきっちりと整った形をしていた。
「鉱石というか四色の結晶って言ったほうがいいかな。ちょうどこの大きさに加工したものを同色で10個用意して1強化かな」
「え、結構値が張りません?」
「どうだろ。店売りされているのは結構安いよ。それこそランク3であれば+3ぐらいにはできる。無理をせずともね」
「だとしたらジョバンニは何を調べてほしいの?」
「知りたいのは武器の強化の仕方さ」
「強化の仕方?」
「と言っても材料を揃えてくれれば教える、とはいう確約はもらっているんだよね」
「ということは僕たちはその素材を集めてくればいいの?」
「そうなんだけど、一応挨拶はしておいてほしいかな」
「うん。代わりに対応するとは当然言うけどさ。何か違和感が?」
「うーん、違和感はあるよ。突然現れて武器の強化ができるなんて言われて信じれると思うかな」 「確かに」
「世界改変によってできるようになった、と言われればそれまでなんだけどさ、それって普通は一念発起の島で起こることなんだよ」
一念発起の島は商人などの冒険者以外を選択肢に入れる場合に通う島だ。
そこで新技術に触れることが可能で、もちろん鍛冶屋に弟子入りなどでもいいのだけれど最先端を学びたい場合は誰もが通る道だった。
「そこで手に入れた技術なら他でも知っている人がいる。そして複数人いれば広がるのも早い」
「てっきり良くないことが起きててそれの阻止かと思ったよ」
「まあ良くないといえば良くない。普及しないせいでその鍛冶屋ひとりに負担がかかりすぎている。需要と供給でいえば1対100ぐらいかな」
「それは負担が半端ないね」
「どのぐらいで普及できるかわからないけれどマニュアル化して武器鍛冶が、その彼の強化もできるようになれば、彼の負担も楽になると思うんだ」
「確かに。ジョバンニ的にもそれは改造とか類ではなく真っ当なものなんだよね」
「そうだね。実際にアクジロウの武器を強化して解析してみたけれど悪影響は見当たらなかった。むしろその利点に驚いたかな」
「利点?」
「うん。実際+3ぐらいでランクを1上げるぐらいの強化ができる。だからこれほど人気になって需要が逼迫している」
「なるほどね。理由は分かったよ。でその人はどこにいるの?」
「鍛冶広場に行ってみるといいよ。彼の名前はザイセイア。悔しいけれど現時点で唯一武器強化ができる鍛冶屋だよ」
***
ジョバンニに言われた通りに鍛冶広場へと向かってみる。レスティアの市場から少し外れた鍛冶屋が集まる場所がある、その中心が鍛冶広場だった。店を持たない鍛冶屋でも鍛冶の腕前を披露できる設備が揃っていた。だからこそ鍛冶広場。
確かにそこには人だかりができていた。依頼をしようと訪ねた冒険者だけじゃない。その武器強化を一体全体どうやるのか、興味津々な鍛冶屋がそこかしこに存在していた。目で盗もうとしているのか。けれどジョバンニが解析してもさっぱりということはそんじょそこらの鍛冶屋が見様見真似でできる代物じゃないんだろう。
「キミがザイセイア?」
「なんだ? 強化依頼なら今は受け付けてない。ボクさまの後ろにある山を見てみろよ」
その山は武器が積まれた山だった。それが今受けている依頼ということだろうか。
「いや違くて」
「ジョバンニサマカラノイライノケンデスヨ」
ジェニファーが無機質な声で喋り、ザイセイアの体がびくりと動いた。
「ああ、キミか。突然喋らないでくれよ。ボクさまはキミが苦手だ」
「ジェニファーなにかしたの?」
「イエ、イゼンモコウヤッテハナシカケタダケデス」
「でジョバンニ? ジョバンニさんか。依頼の件を放棄するとかか? ボクさまは構わないがそれじゃあいつまでも教えられないぞ」
「いや、それも違うわ。私たちが代わりにその依頼を受けるって話。別にいいでしょ。それで素材を取ってきたらジョバンニに教えてあげて」
「そういうことか。ジョバンニさんもいい人だな。他の人に取ってこさせて自分の手柄のようにボクさまに渡せばいいのに」
「ジョバンニはそういうところ律儀なの。商売相手には信用してほしいのよ」
「そういうことなら、というかそういうことじゃなくても文句はないよ。ボクさまはこの通り、一件でも依頼をこなしたくて出歩けないだけなんだ。そのせいで教えるための素材すら取りにいけないんだよ」
「なるほどね。だったらその素材を取りに行ってくるよ」
「ああお願いする。でどこから取ってくればいいかはすでに聞いているのか?」
「一応ね。コーセウス山脈だよね?」
「ああ。そこで鶏冠鉱を1000個用意してほしい」
「1000個? 多くない?」
「ボクさまではなくジョバンニさんの注文だ。一人分なら5個でいい」
「そっか。多くの人に教えたいって言ってたもんね」
「ザイセイア的にはそれでいいの?」
「ああ。依頼が来るのは嬉しいが、依頼がこんなにも多いものだとは思っていなかった。不満をぶつけてくる人も多い。これが人のためになるのであれば、素材さえあればいくらでも万人に教えよう」
「デハコチラニ。ヒコウテイヲタイキサセテイマス」
ザイセイアへ断りを入れた僕たちは、ジェニファーに誘導されて、停泊してある飛空艇へと乗り込む。
長い間ジョバンニに預けていた飛空艇スキーズブラズニルに久しぶりに搭乗する。
きちんと整理整頓されて清潔なままだった。
「管理ありがとう、ジェニファー」
「イエ。シゴトデスノデ」
そうは言うもののどこかジェニファーは嬉しそうだった。




