超人計画編-5 炎氷
「ただいまでござる」
変わらぬ姿でコジロウが戻ってきた。
「おかえり」
僕とアリーも何も変わっていなかった。
「随分と世界は様変わりしたようでござるな」
「うん」
コジロウがいない半年の間、キングが南の島を支配し、クイーンが空中庭園を支配し、そして世界中が疫病禍に陥っていた。
世界はある意味で様変わりして、僕とアリーもようやくその変化に対応でき始めていた。
そんな感じだ。
「でそっちはどうなの? 戻ってきたということは手がかりを得たんでしょ?」
「もちろんでござる。ただ、それに関しては少し相談があるでござる」
「もちろん手伝うよ」
「そうね。それをいちいち頼むのは水臭いわよ」
僕たちが言うとコジロウは首を横に振った。
「むしろ逆でござる。これは拙者のわがままでござるが、この決着だけは拙者で、いや拙者たちだけで着けたいのでござる」
「その、拙者たち……のたちには私たちは含まれてないわけ?」
「そうでござる。できれば関係者だけで着けたいでござる」
「関係者……それはコジロウの過去に関するってことだよね?」
「そうでござる。もちろん決着をつけたら全部話すでござる」
「なるほど……」
「どうでござるか?」
僕はしばし思考する。コジロウの意見はもちろん尊重したい。
「いいんじゃない?」
アリーが告げる。「確かにコジロウを手伝うつもりでいたけど、コジロウがそう言うならそれを尊重してもいいんじゃない。こっちはこっちでジョバンニとかの依頼もこなしていかないといけないし」
「それもそうか。できれば手伝いたかったけど」
「わがままを言ってすまんでござるな」
「良いわよ。あんたのわがままぐらい。こっちには融通の効かないわがままがもうひとりいるし」
アリーが僕のほうを向いて、コジロウが笑う。
「でちなみにその関係者って誰?」
僕は興味本位で聞いてみる。
コジロウは関係者である、ほかのふたりの名前を告げる。
予想外のふたりだった。
***
レシュとアリーと別れ、自分の過去に決着をつけるべく動き出したコジロウが向かったのは、まだキング支配の名残が残る南の島だった。
「ニヒードを探せ! 南の島から逃げ出したという情報はまだない! あいつは暴虐の王に従った悪徳商人だ!」
叫び声が聞こえる。
エースを復活させるためにキングはニヒードにクイーンが残した難題の品々を集めて持ってこさせた。
それだけでなくニヒードは王の左腕だった。
キングが支配していたとき、奴隷のような自由を奪われた南の島の人々はその怒りをニヒードにぶつけた。
キングの死後、ニヒードの生死は不明。死んでいるのであればユグドラ・シィルの樹に名前が刻まれているはずだが、それも見つかっていない。
だからどこかに潜んでいると半年経った今でのあのときの怒りを忘れないと人々は戻れない過去への苛立ちを見つからないニヒードにぶつけていた。
「ここでござるな」
そんななか、コジロウはレシュリー名義の会社に赴いていた。ここに関係者のひとりがいた。
レシュリーのこの会社は戦闘の技場の運営に関わっている。
順調に経営できているのか、少しだけ活気があるように思えた。
「あれっ? どうしたのっ?」
珍しい人を見つけた、と言わんばかりに駆け寄ってきたのはシュキアだった。
「おお、シュキア殿でござるか。実はフレアレディ殿に用があるのでござるよ」
「キミが? フレアレディに? 何の用か分からないけど呼んできてあげるよっ!」
渡りに舟だった。どうやってフレアレディに取り次ごうかコジロウは迷っていただけにありがたかった。
シュキアの言付けを受け取ったフレアレディがやってきたのは数分も立たずのことだった。
「いったい……」「何の用だー?」
あいも変わらず、右半分が炎の紋様、左半分が氷の紋様の衣装をきている。
見る人が見れば奇人変人に見えるのかもしれない。
「過去のことで話があるでござる」
「場所を……」「変えようー」
***
「で……」「過去のこと、とはー?」
「過去の記憶がないのでござろう。そして弟さんとは血の繋がりがないでござるな」
「驚いた……」「どうしてそのことをー?」
「実は拙者も過去の記憶を持たぬのでござる」
「もしかして……」「関係があるのかー?」
「あるでござる」
「私は……」「俺はー」
フレアレディはそういうといきなりその炎と氷の模様が半分ずつ模られた服を脱いで素肌を見せ、そして普段している化粧を落としていく。
服の炎の紋様だった右半分は女らしい体つきで肩に丸みがあり、氷の紋様だった左半分は男らしい体つきで化粧を落とした眉はきりっとしていた。
「自分が……」「どうして違うのかー知りたいー」
どうして自分の体の作りが違うのか。それが知りたかった。
「過去はどうでもいいのでござるか」
「一方で過去を……」「知ることは良くもありー」「悪くもある……」
うむ、とコジロウは頷く。
「それに……」
フレアレディは言う。
「弟を引き取ってからー」「目標ができ……」「過去はどうでもよくなったー」
「それは一理あるでござる」
そうなのだ。過去に触れられることは気分の良いことではなかったがそれでもアリーと出会い、レシュリーと合流した後は、その日々が続けばいいと過去のことをあまり考えなかったのは事実だ。
「もし、自分の正体を知りたいと思うのでござれば、コーベック山に来てほしいでござる」
「……」
フレアレディは即決できなかった。
「迷いは重々承知である。それだけを教えたかったのでござるよ」
「あなたは……」「過去を」「知りたいのか……?」
「今は知りたいでござるよ。後悔してしまったでござるからな」
知らなかったがゆえに、過去に影響しているのであろう誰かが鮮血の三角陣で出てきた結果、致命傷を負い、弟子になってくれたふたりを失う結果につながったとコジロウは考えていた。
あの時ほど過去を知りたいと思ったことはなかった。
過去を知り受け止めて、その結果何を知るのかは分からない。
それでもコジロウは知りたいのだ。知ったうえで前に進みたいのだ。




