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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-62 毒花


 アドラクティアの森。

 エースの死体の横に座ってディエゴは話し出す。

 エースを見つめる様はまるでゾンビとして生き返らないように見張っているようにも映った。

 近くにアルとリアンが座り、ディエゴが語り始める前にはユーゴとサンス、それぞれを背負ったトワイライトとサスガのふたりが到着していた。

 そこにジネーゼの姿はなかった。

 勝手に、というと表現は悪いが、参加したジネーゼにも知る権利があった。だから聞いていたとしてもディエゴも咎めはしないだろう。

 ジネーゼという要素が加わることでエースを追い詰められたのは事実だからだ。

 それでもジネーゼは誰にも断りも入れずひっそりとその場から立ち去った。

 リーネの遺体を放置するわけにはいかない。

 冒険者墓地のような聖水が撒かれた場所に土葬しなければ、土壌に蓄積していく魔力が死んだ冒険者の体をスケルトンやゾンビに変えてしまう。

 スケルトンやゾンビが廃れた教会の近くにいるのはそれが理由だ。定期的に聖水が撒かれているからこそ冒険者墓地は冒険者の肉体が安らかに眠れる場所になっていた。

 だから放置などできない。

 語ることなく、敵対した冒険者も強敵と戦って散った冒険者も、全て神聖なる場所に埋葬するのが大陸の冒険者の常識だ。

 もっとも空中庭園では火葬が一般的のため、そういう事象は起こらないが、焼いて灰にするという忌避する大陸の冒険者も多い。

 そのあたりは文化の差だろう。

 なんにしろ、ジネーゼはリーネの埋葬を優先した。

 エースの無差別な専用技能によって殺されたリーネとジネーゼは何よりきちんとお別れをしていないのだった。

「強くなるじゃんよ」

 背負うリーネにジネーゼは語りかける。眠るように死んでいるリーネはもちろん何も答えてはくれない。それでもいつものようにジネーゼに呆れながらも聞いてくれているように見えた。

「あんた、最近色ボケすぎ。あっちは恋人いるんでしょ? ワンチャンとかあるわけないじゃん」

 ジネーゼが諦めきれない、そうわかっているからこそリーネはそう忠告した。

「いつか後悔することになるよ」

 おそらくその恋路についてのことなのだろうが、レシュリーにアピールする一心でエースとの戦いに参加したのは事実だ。

 後先考えなかった結果、別の意味で後悔が待っていた。

 だからこそ、その解答だった。

「なにそれ、答えになってないし」

 リーネならそう言って呆れそうだった。

 それでもそれがジネーゼを思いやってのことだとジネーゼはわかっている。

 近かったという理由だけでジネーゼはアメリアの冒険者墓地に土地を購入した。

 そんな理由だとリーネは呆れるだろうか。

 けれど海が近くて潮の匂いがして、ベルドの丘の野菜の花々の匂いがする。

 毒の匂いとはかけ離れているけれどジネーゼはそんな匂いも好きだった。

 小さくはないけれど多少は業火な墓石を選んで、リーネの墓標としてた。

 潮と作物の匂いがするその墓地の一角に立てたリーネの墓に、リーネが好きだと言っていた花――リフレシアンを捧げる。

 店には売っていないけれど、ジネーゼはいつも【収納】していた。

 リフレシアンはきれいな花だけど毒性のある花だった。

 華々しい姿をしているからこそ外敵を守るためにその力を得たと言い伝えがあった。

 リフレシアンの毒がジネーゼだとしたらリーネはリフレシアンの花だろう。

 一輪のリフレシアンのそれこそはジネーゼであり、リーネだった。

「強くなるじゃんよ」

 しばらく祈り、墓にもう一度誓う。

 ――頑張んなよ。

 そんな声が聞こえたような気がして振り向く。にしてはリーネらしくもない言葉だったけれど。

「らしくないじゃんよ」

 そうつぶやいてジネーゼは歩き出す。

 後ろを守ってくれていた彼女はもういない。

 それが妙に悲しくなって、もう一度振り向く。

「――あぁ」

 悲しさがまたこみ上げてきたジネーゼは泣いた。

 泣くだけ泣いて。

 今度は振り向かずに歩き始めた。

 前へ前へ。

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