表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
594/874

沁情切札編-60 其一

 ジャックの手記 その1


【1】

 ランク8になるための試練、悪戯の(ミスチヴァス)聖域(サンクチュアリ)は世界の耳:カルデラ湖にある。

 それは周囲の村々の情報から確かだ。

 カルデラ湖はガーデット旧火山の噴火口にできた湖で、終極迷宮の入り口のひとつでもある。

 しかし、実際に周囲の村人に調査したところ、その入口を見たことはない。

 そこで考察した。

 湖のなかにあるのではないか、と。

 調査には【呼吸補助(ブレスコーチ)】の魔巻物を使えば問題ない。

 とはいえ村人の中には湖に潜ったものもいるという。

 さらに考察を進める。

 その村人は湖底まで潜れていないのではないか。

 しかしそれはすぐに否定される。

 その村人は湖貝という、そこでしか取れない高級な貝を拾うために冒険者を雇っていた。

 その冒険者は【呼吸補助(ブレスコーチ)】によって行動をともにし――そう考えると冒険者を雇った村人は、【呼吸補助(ブレスコーチ)】もなしに湖の中を動いていたのだから考察のしがいがある。

 独自の進化を遂げて、エラ呼吸ができる、というのはどうだろうか。

 論外だ。その本人に鰓などなかった。肺が常人よりも大きいのかもしれない。

 ――考察が脱線していいた。

 冒険者たちがいうには湖貝は湖底に張り付いている。その貝を採取している間に周囲を見回ったようだが、特に入り口のようなものはなかったと証言している。

 

【2】


 翌日、直々に調査を開始。

 驚いた。

 そこには大きな入口があった。

 冒険者たちや村人たちの証言は嘘、と結論づけるのは考察が足りない。

 考察するに終極迷宮の入り口と同じだろう。ランク6以下の冒険者には認識できないのだろう。レベルが高ければもしかしたら違和感を覚えるぐらいの可能性はあるのかもしれない。考察を完璧にするには分析がまだ足りない。

 その仕組をひとまずは【認識阻害(ランクインビジョン)】と命名する。

 【呼吸補助(ブレスコーチ)】の時間制限を懸念したが、中に入るとすぐに上昇し、空洞が広がる。

 しばらく歩くとそこには冒険者の服と武器が転がっている。

 それには違和感があった。

 考察しないまでも、死んだ冒険者の武器や防具は【収納】によって出し入れできる。その冒険者の防具や武器がそのままに放置されている。

 長らく年数が経っているせいか、こうして触っただけで少し剥がれてしまっている。

 誰もこの地に訪れなかったせいかこれほどまで原型をとどめているのは珍しい。

 湿度などの状況を考慮しても、β時代初期ぐらいの武器や防具の構造のような気がしてならない。

 その初期にここにたどり着けた冒険者はおそらく魔法剣士イルキしかないだろう。

 ともすれば、ここにある二人分の武器と防具の残りひとつはパートナーだった投球士エージの可能性が高い。

 だが、そう考察するとおかしな点が見つかる。

 エージは当時、ランク5だった。だとすれば「ランク6以下の冒険者には認識できない」という前提からおかしくなる。

 色々な考察を繰り返しているうちに、ふと原点草原のことを思い出す。

 あの草原はランク2の冒険者さえいれば原点草原レベル2まで、ランクが満たない冒険者も侵入できた。

 つまり、イルキとエージが仲間であるという認識さえあれば、ふたりはこのなかに入ることも可能ということになる。

 であれば、ここがイルキとエージの最終決戦の地なのかもしれない。

 言い伝えではイルキは死に、エージは行方不明というらしいが、その言い伝えはここにある武器と防具が残っているという時点で覆るのかもしれない、と単なる言い伝えに一考の余地が生まれた。

 時間があれば考察したい。

 なにせ、この世界の冒険者であれば一度でも【収納】された武器防具は、死後は闇市に送られる。そして出しっぱなしにするなどという不便を許容する冒険者はいない。

 そうなっていないということはつまり――(破れていて読めない)



【3】


 空洞の先には大きな扉があった。エイジとイルキの墓標である空洞が静謐だとすれば扉の奥から聞こえるキィ、キィと大音量はまるで祭りの会場だった。

 扉を開けるとさらに大空洞。奥行きは見えない。

 そこにひしめくのはグレムリン(機壊魔)だった。

 数え切れないほどの悪戯好きの悪魔の中央、そこに一際大きい個体がいた。

 グレムリンマザーズ(機壊魔母)

 数分おきに卵を排出し、子どもを爆発的勢いで増殖させる。グレムリン(機壊魔)の母親。

 悪戯好きの悪魔の故郷――だからこそ悪戯の(ミスチヴァス)聖域(サンクチュアリ)か。

 考察するに、おそらく合格条件はグレムリンマザーズ(機壊魔母)の撃破だろう。

 簡単に思えるがグレムリンマザーズ(機壊魔母)の排出は無限湧きに近い。

 排出は数分おきに、卵の総数は数百個から、孵化は数秒もない。付加した子どもたちは時間経過で成長し、一分後には成体になる。

 その頃にはすでに卵が排出されている場合もあるのだ。

 だとしたらグレムリン(機壊魔)を無視してグレムリンマザーズ(機壊魔母)を倒すのが妥当に思える

 考察を重ねた結論は――(文字が掠れていて読めない)


 後悔したの一点に尽きる。熟考したつもりだったが、浅慮だったと言わざるを得ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ