沁情切札編-54 忍耐
王が布告するなか、ジネーゼはもう何もできなくなっていた。
【究極二択】を再び使われたわけではないが恐怖がそこにはあった。
もう一度死ぬわけにはいかない。
今までの大胆さをちょっとだけ冷静さに配分し直したような判断だった。
リーネが死にジネーゼが生き返り、【不在証明】によって一矢は報いた。
それも十分すぎる一矢。
これ以上、ジネーゼができることはない。
そういう意味も含めて、ジネーゼはこの戦いを見守るしかない。
そこにいてけれどもそこにはいないなような存在で。
あえて悪く言うのなら、いてもいなくても関係ない。
それでもそうだとしても、ジネーゼが現状を作ったのが事実。
バトンタッチだ。
リーネだって嫌な顔はしないだろう。
ディエゴやジャックもようやく訪れた好機を喜んでいた。
だとすれば、生き返り、一度は折れかけた心を奮い立たせたかいがあったのだろう。
ジネーゼはリーネのため、そして密かにレシュリーのためを思っての行動だったが、レシュリーもジネーゼに期待していた。
そういう意味ではレシュリーとその時だけは通じ合っていた。
「ビーフ or チキン?」
王は問う。ジネーゼもディエゴもジャックも【防音栓】を展開しているため、【究極二択】は通用しない。
けれど通用しないと確定したわけではなかった。
そのため、自らが問いかけ、そして反応がないことで【究極二択】が使えないとキングはきっちりと判断する。
とはいえここで判断したからもうキングは使わないだろうと判断したディエゴが【防音栓】を解除する可能性だって存在している。
だからこそ、通用しないから使わないという選択肢ではなく、通用しないかもしれないが時折発動するという選択をしていた。
そうすることで少なからずディエゴは【防音栓】を維持している魔力分が消費される。
些細なことだが、キングはすでに長期戦になるだろうと踏んでいる。
そうなるとキングが有利になるのは一目瞭然。
分かっているからこそディエゴとジャックは畳みかけていた。
ジャックが壓力と腕力で近接を圧倒しながら、ディエゴもなお、中距離で無詠唱魔法を連発する。
これが特典を得た冒険者の力だった。
キングに耐えているという感じはなかった。
多少の衝撃はあり、傷も増えているが、致命傷には決してならず、ただただ仁王立ちだった。
ランク7のディエゴと、ランク8のジャック。
相手は本来なら蹂躙されるべく存在のはずだが、キングからそれは感じさせられない。
ただそれが長く続けば変化が訪れる。
今まで耐えている様子がなかったキングは怒涛の連続攻撃に堪えているという感じで、わずかに攻撃を止めたりしている。
一方でジャックとディエゴは完全に疲弊していた。
攻撃の手を休めず長時間。
当然の結果だった。
「一分、ひとりでやれ」
ジャックにディエゴが言う。
一方のディエゴは後ろに下がり、
「数多の精霊よォ、俺の声を聞きやがれ」
祝詞を唱える。
それは今までのディエゴには考えられないぐらい丁寧な詠唱だった。
「南に熱さ。北に乾き。西に熱さ。東に乾き。南西に熱さ。北東に乾き。南東に熱さ。北西に乾き。南々西に熱さ。北々東に乾き。南々東に熱さ。北々西に乾き。南々々西に熱さ。北々々東に乾き。南々々東に熱さ。北々々西に乾き。南々々々西に熱さ。北々々々東に乾き。南々々々東に熱さ。北々々々西に乾き」
結界内で静かにディエゴが吠える。
「鬼が如し炎よォ、延々と続き全てを燃やし尽くせぇ【鬼炎万丈】!」
現れたのは鬼の形相をした炎。
〈氷質〉グロージズが使用したときよりもふた回り大きい。
炎鬼が肥大しながら炎を撒き散らし、キングを包み込んで爆発。
ジネーゼもジャックも大丈夫かと言わんばかりの熱気と高温な結界内を駆け巡る。
やがて炎が消え、消し炭になったキングがそこに佇んでいた。
けれど、
「一手遅かったな。結界内でなければ月や星々の角度で気づけたかもしれないが結界内では気づけなかったか?」
キングは再生していた。
チッ、とディエゴは舌打ちする。
丁寧に詠唱をしすぎたことを後悔する。
キングの早期突入特典〔不眠不休〕が発動したのだ。
「ならばもはや王にしてエース、エースにして王でいる必要がないな」
キングは堪えるまで耐えて耐えて耐えて、機会を作り出したのだ。




