沁情切札編-53 対策
結界に閉じ込められたエースにまず届いた洗礼は魔法の嵐だった。
【吹水】【雷鳴】【宵闇】【弱炎】【微風】【光線】【落石】【中炎】【氷結】【突雷】【氷牙】【病闇止】【強炎】【尖突土】【水鉄泡】【熱風】【光刃】【冷風】【岩石崩】【雷網】【春嵐】【雷音】
階級3までの援護、攻撃魔法が無詠唱で発動できる初回突入特典〔詠唱が必要がない幸せ〕によってまずはそれだけの魔法が連射される。
本来なら同じ属性を連射したほうが、展開から次点展開までの装填が短いのだが、エースぐらいの冒険者であれば、最初の魔法が見えない速さで飛んできた場合でも、その属性さえ読み取れば瞬時に対策が打てるだろうとディエゴは推測。
その装填はもちろん小数点以下の世界。
連続で同属性を二発撃った場合がバンバンだとしたら、異なる属性の場合、バン バン、あるいはバンッバン。
装填がどのような影響を与えるかはわからない。
けれどディエゴはそれを承知で、反対属性による相殺を防ぐように、属性を変えていく。
いくつかは回避し、いくつかは構えて受け止めて、時には魔充剣より開放された魔法で相殺していく。
受けた分だけ傷を負っているが、重傷にならないのはやはり能力低下していてももともとの能力が高いからだろう。
休む間もなく繰り出したのは【火花】。
祭りの際に天上へと打ち上げるそれは、色の調整のみならず大きさの調整もできる。階級1で低威力だが、お巫山戯で至近距離で使うなという注意書きがなされるほど悪用も多い魔法。
ディエゴはそれを目くらましのように、エースの至近距離で展開。
音はない。音もあると分かっているからこそ、視界に限定していた。
間髪入れずに【警告音】を展開。こちらは癒術のため詠唱が必要だが魔巻物から展開していた。
【警告音】の使い方はふたつ。ひとつは味方に危険を察知させる、もうひとつは音によってひるませる。
今回は後者。外から中の様子が見えない結界は意外と音が籠り響く。
ちなみに通常、魔法名【警告音】通り、ピーポーという音だが、魔力を多く込めることで、好きな音を出すこともできる。
そこは個人の自由だ。冒険者仲間から追放された朝に聞いためざまし音でも、のちに離婚した際に結婚式で弾いた旋律を聞かせるのだっていい。
ディエゴは変ないじりをせずピーポーピーポーとそれをエースに大音量で聞かせる。
ディエゴとジャックが平気なのは、事前に魔巻物の【防音栓】を展開しているからだった。
透明になっているジネーゼには何も通用しないとディエゴは踏んでいたため、使用していない。逆に魔法の効果によってジネーゼが使用した【不在証明】が消えてしまうかもしれないということを懸念したのだ。
【警告音】に紛れてジャックがエースの首を掴む。
かろうじて振り切ったエースの背後に【不在証明】によって姿を隠したジネーゼの短剣〔見えざる敵パッシーモ〕が突き刺さる。
魔充剣シーグブリートを振り回すが、ジネーゼに当たらない。
ジネーゼはそこにいるけれどそこにはおらず、どこかにはいるけれどどこにもいないのだ。
「どうだ、気分は?」
【無差別級芸術】に【迅速時限出死事】。
そのふたつを持ってして、ジネーゼを弄んだエースが、そのジネーゼに苦しめられている。
ディエゴはそれを面白がるようにエースに問うた。
「ちょうどいい。ハンデだ」
エースも笑う。強がりに見えない。今まで戦い抜いてきた強さがそう言わせていた。
「それにお前が近づいて何ができるっ!」
ディエゴは全司師。エースは超剣師。武器としては杖と剣。
圧倒的に剣が扱えるエースが近距離は有利。
「知らねえのかよ」
黒金石の樹杖〔低く唸るジーガゼーゼ〕に闘気が纏っていた。
情報は戦いにおいて生命線という集配員もいる。
今回に関してはその通りだ。
エースの知らない、技能。
固有技能ではない、誰しもが覚えれるようになった通常技能。
打術技能。
レシュリーの弟子、クレインが習得し、ルーンの樹に覚えさせたそれまで存在しなかった杖自体を使用した攻撃技能である。
(しかも、また技が増えてやがった)
それはクレインがしっかりと成長している証拠でもあった。
当然。この戦いの前にディエゴもしっかりと習得しておいた。
【発襲暴撃】。
杖の先端か膨れ上がった闘気がエースにぶつかった衝撃で弾け飛ぶ。
予想外、想定外の威力がエースの体を傷つけていた。
「そうか。お前やっと謎が解けた。考えてみれば単純なことだ。お前が把握している技能に対して作動するような固有技能をもってやがったんだな」
「ナルホド。だから打術技能にはまだ対応ができないんダネ」
「はははははは」
ディエゴが放った【襲々空撃】を防いで笑う。
「してやられた。だけどもう対応した」
防御していたとはいえ、たしかに先程よりも傷は浅い。
「学習しない、学習できないなんて間抜けだろう? エースにして王、王にしてエースはそうやって強くなってきたんだ」
自慢気に語るが、それでもまたもジネーゼの毒刃が腕を掠めた。
能力低下は続いている。
「ああ、鬱陶しい」
「それは学習してないし学習できないな」
挑発するようにディエゴが言うとエースはにやりと笑って
「少し眠る」
一言。
それだけで空気が変わる。
くらりと目眩をするように少しふらつき、眉間を抑えて、わずかに停止。
「王にしてエース。エースにして王たる我の出番か」
「キングになる。それが対応方法なのかよ?」
「その通り。そして問おう」
キングは結界内の全ての人物に向けて問いかける。
「ビーフ or チキン?」
ディエゴとジャックは答えない。
キングの狙いはそれではない。
【究極二択】自体はエースも使用できるが、キングになることでエースはエース自身の能力低下が停止できると踏んでいた。
そのうえで、ディエゴは先に動いていた。
ディエゴが急いで魔巻物の【防音栓】を展開。
対象はジネーゼ。ジネーゼがどこにいるかはわからない。
けれど【絶封結界】の対象にはできたのだ。
対象には指定できる。確固たる自信を持って【防音栓】を使っていた。
だが、
「ふん」
キングは一振りで虚空を切っていた。そこに流れるのは鮮血。
ビーフを選択したためにジネーゼが認識できたのだ。
それこそ援護魔法と同じだ。援護したい相手は範囲内であれば姿が見えなくても認識できる。
それと同じ理屈で強制的に対象を指定してジネーゼを特定したのだ。
「でも一発入れてやったじゃんよ」
声だけが聞こえた。
やられてすぐにまた気配とともに姿を消したようだった。
【防音栓】が今度は発動しているため【究極二択】は防げるはずだ。
「いちいち余計だな。だが能力低下はない!」
王は確固たる自信の元、告げる。
「ややこしいネ。お前のほうはお呼びじゃないゾ、キング」
「また呼び出せばいいだけだ。こっちのほうが御しやすい」
「分かってないな。王にしてエース、エースにして王たる我の力をみくびるなよ」




