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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-51 証明

 僕は弱い。

 痛感した。

「これがお前の言う打つ手とやらか、ディエゴ?」

 僕を足蹴にするエースが言う。

 【神速球】は自慢じゃないけれど、目にも止まらぬ速さだ。

 それが片手で、いや人差し指だけで止められていた。

 そして距離を詰められ、一瞬で叩きつけられた。

 今までの努力が、強くなったという実感が無駄だと言わんばかりに。

 サスガもディエゴもトライライトさんも呼吸が荒く、アリーはもはや立つことすらきついといったような状況だった。

 まだ僕がジネーゼを見送ってから数十分にも満たない。

 それだけの戦闘で疲労し摩耗していた。

 サンスと僕は蘇生を複数回行った影響もあって、精神摩耗が激しかった。

 それでも僕は一方的にエースにやられてしまっていた。

 秒殺、瞬殺。

 命こそとられてないものの、踏みつけによって頭が締めつけられいくのが分かった。

 螺子を締め付けられるような痛みが延々と続いていく。

「ご自慢の固有技能かっ!」

 ディエゴが舌打ちする。今まで無警戒で【神速球】を投げていたけれど、特典にも投擲系武器を無効化する特典が存在していた。

 だとすれば投擲系武器を無効化する固有技能があってもおかしくはない。

「いったい、いくつあるでするか」

「四十はあるだろう。まあ、これは外れの部類だな。なにせ、不発のときもある」

 エースが再度踏みつける。

「今回は発動したが」

 僕の投球はその外れの部類の固有技能によって封じ込まれたのだ。

「なんて多さ……」

「エースにして王、王にしてエースだからだ。エースとはすなわち英雄。

 英雄王が、類まれなる才能と技能を専有していても何もおかしなことはない」

 アリーが思わずつぶやいた言葉をエースが拾い宣言した。

 傲慢な宣言だった。

「王殺しも、いや偽王殺しをした理由も簡単だ。エースにして王、王にしてエースの他に王は存在してはならないだろう」

 気に食わない。

 まるでそう言わんばかりの言い草。

 エースにとっての動機は本当にそれなのだろう。 

 親の仇だったから。恋人を殺されたから。王のせいでみんなが苦しんでいるから。

 恨んでいたから。憎んでいたから。困っていたから。助けたかったから。

 愛も憎もない。

 ただ、気に入らない。

 それだけでエースは王を殺したのだ。

「何度も言うなぁ。クソ野郎がァ」

 ディエゴは知っていた。だからエースを倒すために必死に生きていたのだ。 それこそ別次元で自分の命を死に至らしめた資質者を殺してでも生きて生きてエースを倒すのを待っていたのだ。

 なのになんて様だ。

 僕は踏みつけられ、ディエゴたちの攻撃も通用してないように見えた。

 可能性はまだある。

 僕の心は折れ欠けている、それでもまだ屈してないのはまだ可能性があるからだ。

 ジネーゼ。

 僕はジネーゼが来てくれることを祈った。来なくてもいい、けど来てほしい。

 僕がジネーゼの同行を許したのは、ジネーゼがエースを倒すための可能性に成り得るとそう思ったのだ。

 だから強引についていくジネーゼを本当に引き剥がすことができなかった。【転移球】で飛ばせば、僕はジネーゼを遠くに追いやることもできた。

 結果、リーネが死んでしまったのは想定外で僕は自分の行為を悔やんだ。

 ジネーゼを安全な場所まで送り届けたのはジネーゼの覚悟を見たかったからだった。

 正直、なんとも言えない。

 このまま冒険者を辞めることになっても僕はなんにも言えないし、ジネーゼを責めることはしない。

 それでもジネーゼは来るような気がした。


 ***


 そうしてエースの肩に短剣〔見えざる敵パッシーモ〕が掠る。

 すぐさま、エースは隠れ潜むジネーゼを探すように周囲を爆撃する。

 そこには誰もいなかった。

 誰しもがそこに誰かがいることを認知できなかった。

 現・技能で殺気を隠すことは非常に難しい。

 むき出しの殺意ほど上級者は感じとることができる。

 エースの四十ある固有技能のなかにそういう技能もあるのかもしれない。

 それでもジネーゼは探すことができなかった。

 「ジネーゼがやってくれた」

 リーネの死を乗り越えて、ジネーゼがエースに一撃を加えていた。

 もはやジネーゼにしか解毒できない、得体のしれない猛毒の一撃を。

 おそらく固有技能だ。

 リーネの死が引き金となって、圧倒的な強者に反撃の機会を与えてくれたのだ。

 あんたは好きを突き詰めていかなきゃダメ。

 ジネーゼはリーネに言われた言葉を思い出す。

 毒舌じゃなかったから印象的だった。

 だから大好きな毒を大好きな人のために使う。

 毒舌ながら支えてくれた人を失ってもなお、その方針だけは変えてはならないものなのだ。

 ジネーゼの毒の恐ろしいところはもはや何が起こるかわからないところだ。

 効果を表記するなら「効能不明 ※ジネーゼのみ治せる」だ。

 状態やレベル、ランクなどもはや何が作用しているのか分からないが対象者によって効果が違う。

 ジネーゼよりもレベルが低い敵を即死させることもあれば、強い魔物を徐々に石化さえたこともある。

 効果をメモするよりも前に、毒を追加し続けている。

 まるで材料不明の秘伝のたれのようなもの。

 そんな得体のしれない毒がエースに伝染する。

 ジネーゼの毒は強力だがその一撃を入れれば意味がない。

 それを後押しするかのようにジネーゼは固有技能を手に入れた。

「これがリーネがくれた力じゃんよっ!」

 声は嗄声、見えないけれどきっとジネーゼは涙目だろう。

 固有技能【不在証明(アリバイ)】。

 そこにいるはずなのにいない。

 あるいは、いないからいない。

 まさにそれを体現した技能だった。

 もはやジネーゼがどこにいるか誰にだって捉えられない。

「何をしたっ!?」

 自分の体に起こった変化にエースが初めて表情を崩した。


 

エース

LV1225(ランク7上限) 超剣師 ランク7

ATK:96162 INT:93100 DEF:66762 RGS:44712 SPD:104737 DEX:104737 EVA:65537


 自分であればいつでも確認できる能力値。


エース

LV1225(ランク7上限) 超剣師 ランク7

ATK:96160 INT:93099 DEF:66760 RGS:44710 SPD:104730 DEX:104730 EVA:65530


 それが低下していた。


エース

LV1225(ランク7上限) 超剣師 ランク7

ATK:96155 INT:93095 DEF:66755 RGS:44700 SPD:104725 DEX:104725 EVA:65525


 毒が体をめぐるほど。



エース

LV1225(ランク7上限) 超剣師 ランク7

ATK:96100 INT:93005 DEF:66625 RGS:44600 SPD:104655 DEX:104625 EVA:65425


 早く。


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