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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-46 到着

 ジャック・ザ・リッパー。

 切断魔にして絞殺魔にして考察魔。

 かつての彼には複合職など関係なかった。

 手が二本あればそれだけでいい。

 技能に頼らずともその腕さえあれば罪を犯す冒険者を跋扈する魔物を退治できた。

 時として、その鋭い考察力で難解な殺人事件すらも解決した。

 それほどまでに兵士たるジャックは重宝した。

 兵士ながら直流ではない王族アリャーシャ・レッサー・フォクシーネを妻に迎え、兵士としては破格の待遇だった。

 けれど歴史は、そんな光ある兵士としての一面よりも悲劇と裏切り、破滅を書き残していた。


 アリャーシャの死がジャックを変えた。


 歴史はそう告げる。


「嘘だ」


 ジャックは今でこそ否定する。

 ジャックがキングの出現をジョーカーの報せで分かるようにしていたように、エースもジョーカーを利用してジャックを操っていた。

 ジャックの記憶が正常に戻りつつあるのはジョーカーが死んだのが影響しているのだろう。

 同時にジョーカーはジャックの復讐心を膨れ上がるような仕組みを施していた。

 ジャックにもキングにも、そしてクイーンにも、各々の考えにジョーカーは同調するように手を貸した。

 それが何より面白いから。ジョーカーは狂気とともに狂喜するほどの面白みを世界に求めていた。


 アリャーシャはエースに殺され、その死の悲しみに付け入るようにジョーカーを利用してエースはジャックを手中においた。

 王族に仕えた兵士は、その瞬間から王に叛逆し、王を殺す手伝いをした大罪人になった。

「どうして?」

 アリャーシャを殺したエースにジャックは問うた。

「偽物の王の血など必要あるのか?」

 ディエゴも然りレッサーを持つと言えどフォクシーネ家。王の資質が鱗片が隠されているとも言えない。

 アリャーシャのお腹のなかにはジャックとの子どももいた。その子どもがエースにして王、王にしてエースの王の部分を脅かす存在にならないとも言えない。だからこその排除だった。

 同時にそれを利用してジャックを操ることこそエースの算段だった。

 結果、フォクシーネ王の住まう城に貼られたアイトムハーレの結界は破る必要もなくジャックの手はずで侵入が容易になっていた。

 そうしてエースは王を殺した。

 誤算は王の資格を持つリアンを取り逃がしたこと、思わぬ深手を負ったこと。

 そのふたつの誤算が今日に繋がっている。

 深手のせいでエースは封印された。いや深手を負ったことでエースは封印されることにした。

 もうひとりの自分、キングが表に顕現し、その圧倒的な力に世界は再び恐怖した。

 だが

「提案がある」

 そう言ったのはキング自身だった。

 リアンの居場所を教えてくれるのであればおとなしく投獄する。

 それがキングの出した提案だった。

 王政が崩壊し、各々がまだ歩み出せないなか、出された提案を独断で呑んだのは当時リアンを逃した大臣だった。

 歴史から名前ごと消された存在の彼が行った出来事が正しかったかどうかもはや歴史に記されていない以上判断できない。

 王族を殺す可能性のあったキングと王族を利用して交渉したことが当時は悪と判断されたのは事実だ。

 それでも名前なき大臣の判断がキング、クイーン、ジャックの投獄に繋がったのは事実。

 全ては当時の平穏のため。未来がどうなるかその大臣には知りもしなかった。

 おとなしく投獄されたキングの狙いが、リアンにあることだけは分かってもなお、大臣は当時の平穏を優先した。

 未来の厄介事は未来へと託した。


 様々な思惑が今へと繋がっていく。

 リアンがランク5になり、キングは動き出す。ジョーカーの報せでジャックは動き出し、ジョーカーの死でジャックは正義を取り戻す。

 だがキングもまた、クイーンの死を以ってキングはエースというもうひとりの自分を取り戻す。

 クイーンがディエゴに殺されることすら計算していたのだろう。


 「じゃあこいつは計算できたかよ」


 南の島の壊れた橋、凍りつき地表が見える海の上空。


 そこに存在していたのはスキーズブラズニル。

 レシュリー・ライヴが所持し、ジェニファーが操縦する最上級飛空艇。


 その飛空艇からディエゴ、レシュリーを含め空中庭園にいた冒険者がジャックとエースの戦いへと参加するべく降下していた。

 さなかディエゴは笑う。レシュリー・ライヴというランク7の冒険者の出現はいかにキング(エース)と言えど予定のないだろうと。

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