合成
21
「で話って何よ?」
痺れを切らしたようにアリーが言う。
「とりあえず手伝って欲しい」
「当たり前じゃない。何を今更……」
そう呟いてアリーは顔をしかめる。
「まさかあんた、私が手伝わないとでも思ったの?」
「それは違うって」
ただあまり巻き込みたくないのは事実だ。
「で、どうやって封印するか考えたの? ずっとそれを考えていたんでしょ?」
「うん。とりあえずこれを使う」
僕はアリーたちにユニコーンの角を見せた。
「これって、あのあと、四等分したやつよね。まだ持っていたの?」
アリーが驚く。
「高価でござるからな、すぐに換金したものだと思っていたでござるが……」
ということはアリーもコジロウもおそらくディオレスも換金したのだろう。でもこういう希少品を売るのってもったいない気がする。
「でそれをどうするのよ」
「ユニコーンの角には解毒作用があるからさ、とりあえず作ろうと思って」
「作ろうって何を?」
「新しい技能」
「何……言ってるわけ?」
「いやいや僕、薬剤士だからね。薬剤士ってのは何も回復系球種を使えるってだけじゃないんだ。【合成】って技能があって。これで【回転戻球】を作ったんだけど……」
「知ってるわよ。アホじゃないの。でその新しい球でなんとかなるの?」
僕の余計な説明を撥ね退けて、アリーは問いかける。
「たぶん、ならない。だからアリーに手伝って欲しい。もちろん、コジロウにも」
僕は作戦の概要を話し出す。
「無茶すぎるわ」
「拙者の役目が責任重大でござるな」
「大丈夫。そこのところは信用してるから」
「まあいいわ。それで行きましょう」
そこまで話した時、再び狼煙があがる。
「何か予定外のことが起きたらしいわね」
一度目の狼煙が境界を越えた合図なら二度目の狼煙は、何かが起きた時の合図。
「俺が行きます」
「私も行きます」
リアンとアルが狼煙を見て、声をあげる。
「頼んだ」
僕はふたりに任せることにした。
「メレイナとネイレスはこっちを手伝って」
「当然です。【封獣結晶】は渡しましたけど見届ける義務があります」
「それもそうだ」
「アタシは手伝うなって言われても手伝うわ。ブラジルさんもこんなことは望んでないもの」
「じゃあ【合成】するよ」
道具と素材球の【合成】は初めてとはいえ、以前【回転戻球】を作り出した僕には緊張はなかった。行程はあまり変わらない。【造型】した素材球に空く小さな穴に、粉末状にしたユニコーンの角を投入して念じた。
変化が起こる。素材球が輝き、性質が変貌する。あっという間に毒のように禍々しい紫色の球が完成する。【滅毒球】。毒を解くというよりも毒を滅ぼすと言うべき、その球が僕の手元にあった。
「経験がモノをいったわね。呆れるほど簡単に成功するとか、どんだけ経験を溜め込んでいたのよ」
アリーが僕の【合成】を見て呆れていた。
「でそれを使うってことね。試しなしの本番だから少し不安ね」
「うん、でもやるしかない。とりあえずこれで本体を切り裂いて核まで【封獣結晶】を届かせる」
「私たちはとりあえずあんたの言われた通りにするけど、いいのね?」
「お願い」
「それでは準備するでござるか」
ネイレスとコジロウが僕に【鉤縄】を巻きつける。僕たちは広い通りにいた。セフィロトの樹を通過すればこの辺りを通ると算段をつけていた。その広い通りに毒素が来た瞬間が始まりだ。




