沁情切札編-42 先行
「尾魔物の招集か」
「先に倒しておくべきだったか」
「本来なら強者の気を感じ取って出てくるものではないのでするが」
「ああやって無理やり呼ばれたらフツーに仕方がないっス」
「しかも壮絶厄介なのは、すぐに改造したってところだ」
「不出来だろうが雑だろうが盾にするだけなら改造の精度は関係なく壮絶に鬱陶しさしかない」
僕は何度目かの感心をする。
驚くべきはディエゴと[四肢]たちの観察眼だろう。
議論を重ねるというよりも頭の中の答えが一致しているか答え合わせしているようだった。
「ザコ狩りはこっちで対応するっス。ただそうすると」
「分かってる。射線が減るな」
「それはあいつに担当させればいい」
ディエゴが僕を指して言う。あいも変わらず岩を背負ったかのような不格好さだけれどもうそれは言うまい。
「できるでするか?」
「こっちの援護も忘れないでよ」
アリーが釘を刺す。
「まあやってみるよ」
「そろそろ決着と行こう」
「壮絶にそうだな。【鎌斬嵐】が不発に終わったが、壮絶にもう一度決めればいい」
「私も少し無理をしよう」
「エロさ全開で行くのか?」
「ふざけてる場合か」
ディエゴの軽口にトワイライトは本気で怒っている。
「気張んな。前とは違ぇ。こうして【膝不味喰】は封じ込んでる。何もできずに終わったあの時とは何もかも違う」
「そっスよ。今回はいけるっス」
希望を胸にユーゴは言葉を口に出す。
「手はずはさっきと同じ。ユーゴが周りの雑魚を一掃すれば、魔物の改造盾で防がれることはねえ」
ディエゴが言うや僕たちは行動に移す。
ユーゴがそそくさと周囲に隠れ潜む魔物たちを掃討にかかる。
本来、隠れ潜む魔物たちを無理やり殲滅させることは少ない。街に侵入してくる場合は別だけれど、九尾之狐のような強敵が出現した場合、魔物は集まって様子を伺うか、そのまま遠のいていくか、だ。
もちろん強者の雄叫びで闘争本能をくすぐられ、襲いかかってくることもある。
強敵の魔物の前に他の魔物がどうでるかはその場でないとわからない。
今回は街の中での戦闘でもなく、従来魔物が出現してくる場所なだけあって、魔物たちは集まりはしたものの指示を待つように鳴りを潜めていたことになる。
その潜んでいた魔物たちは九尾之狐と同化したクイーンの雄叫びで惹かれるように出現し、改造され悪用されたのだ。
となれば少し手間だけれど掃討するしかなかった。
手間ではあるけれどユーゴはそれを感じさせないほど迅速に処理をしていく。
僕はユーゴが作っていた射線を維持しつつ、アリーを援護。アリーは結界を壊すかすり抜けるかの二択をクリーンに強要させつつ、苛立ちと細かい傷を増やしていく。
直後、クイーンが大きく胸に傷を追う。うっすらと残像のようなトワイライトが見えたような気がした。
「1 second」
風に乗るように言葉が耳に届いた。それはトワイライトの言葉だった。
そうしてトワイライトが消え、一秒先、クイーンの背後に出現した。
「3 seconds」
再び消えた。
同時にクイーンの障壁が壊れ、無数の傷跡ができていた。
「3 seconds」
「鬱陶しいですこと」
まるで空を切るようにがむしゃらにクイーンは尻尾を回転させ、魔鎚を振るう。
当たればいい、そんな感覚の自棄糞。
「それは面倒くさいが当たらないよ」
トワイライトはすでに距離を取っていた。全然見えなかった。
「10 seconds」
瞬間、トワイライトが消える。
クイーンは特典を理解しているはずだった。それでも不可避なのかもしれない。
トワイライトが秒数を告げた以降、傷が増え続けている。
「死神の鎌の起こす旋風よ、蠢き切り裂け【鎌斬嵐】」
追い打ちのようにサンスが唱えた殺戮の嵐が荒れ狂っていた。
「がぐるぉおおおおおおおおおおおお」
しかし魔物は間に合わない。すでにユーゴが殲滅させていた。
嵐の事後、次に訪れるのは処刑人による切断。アリーの【三剣刎慄】。それを尻尾と魔鎚で受け、残り一本をアリー自身に頭突きすることで防ぐ。
がむしゃらにひたすらに防御に徹するクイーンは必死だが内心苛立ちもしていた。
優位に立てない。圧倒的に不利。追い詰められている。
そうして10秒後、トワイライトは姿を現す。
クイーンに致命傷とも呼べる傷を与えて。
「あれがトワイライトの初回突入特典〔昔々、先行く所に〕だ。宣言した時間だけ時が止まり、そして時を進める戻るかの選択できる」
ディエゴが言う。普通に立っていた。すでに満身創痍のクイーンでは【膝不味喰】は維持できなかったのだ。
「もっとも、時間を戻すためには先に1秒以上時を進める必要がある。さっきのは1秒進んで3秒戻って3秒進んで10秒進んだ感じだ。もちろん、過去に戻れば対象の動作はそのときに戻るし10秒先に進めばそのときの動作はそのときに維持される」
だからクイーンは出鱈目に武器を振るったのだろう。もしかしたら当たるかもしれないと判断して。
もちろんトワイライトほどの猛者ならそうならないように動いているだろう。
消えたようにみえた種はその特典にあったのだろう。
「もっともそんなに頻繁に使えない。あれは寿命を1秒で一ヶ月も消費する。連発できない」
とはいえだからこその強力さとも判断できる。
「終わりだぜぇ。クイーンンンンン」
種を明かした後、満足そうにディエゴは弱りきったクイーンを見つめる。
「ワテクシを殺したらどうなると思っていますこと?」
「お前からそんな言葉を聞くなんて思ってなかったがな」
今のクイーンは年相応で怯える女の子のように見えなくもない。
「じゃあな」
「オホホ、ならあの方の復活に後悔なさい」
負け惜しみのような言葉を聞いた直後、ディエゴは【弱火】でクイーンを焼け焦がしていく。
「あとふたりだ」
決意の目でディエゴはまるでキングを見つめるように遠くを見据えた。




