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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
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諦念

20


 出口なき道に進んだ負傷者へと毒素が容赦なく襲い、負傷者たちは苦しみから断末魔をあげる。 

「おがあああああああさん、どごー?」

 矢先、泣き声が聞こえてきた。

 振り返れば男の子が転び、膝に傷を作り泣いていた。一緒にいたはずの母親は、あろうことか男の子を見捨てて逃げていた。

 毒素はすでに直視できる位置まで近づいている。

 大勢の人が死んだ。僕は誰も救えない。だからその子もどうせ救えない。度重なる惨事に心が屈服した僕はその男の子を助けるのをやめてしまっていた。

 最低だった。

 そんな最低な僕の代わりに、リアンが男の子へと走り出していた。リアンは魔法士系複合職(スタンダード)という職業柄そんなに足が速くない。むしろ遅い。

 そんなリアンが、半端な意志の最低な僕を追い抜き、その子へ向かっていく。

「リアンッ!」

 逃げたとばかり思っていたリアンが男の子へと走り出していたことに気づき、アルが叫ぶ。もう遅い。

 リアンが毒素に飲み込まれ、その男の子共々消滅する――そんな最悪な光景を想像してしまった。

 くそっ! 僕は胸中で毒づくと自分を奮い立たせる。まだ僕は救える。救うことができる。何度も、何度も呟き、自分の無力さを認めない。

 僕が決意して走り出すよりも早く、リアンと男の子へといち早く近づいたのはノノノと名乗った女狂戦士。

「走れ!」

 ノノノが叫び、リアンは走り出す。男の子を抱えるのはノノノだ。

 これなら大丈夫と安堵したのも束の間、慌てすぎたリアンが転ぶ。

 ノノノの手助けで素早く立ち上がったリアンだったが毒素は目前だった。

 走り出すリアンとノノノ。

 僕はリアンが転んだのを見てすでに【転移球(テレポーター)】を作り出していた。今度こそ救う。

「ノノノさん、リアンに触れて」

 僕は声を荒げ、必要最低限のことだけを伝える。僕が握る【転移球(テレポーター)】とその言葉だけで理解してくれることを信じて。

 ノノノさんが頷き、リアンの肩に触れる。それよりも少し早く僕は【転移球(テレポーター)】をリアンへと放っていた。

 しかし、

「リアン、って言ったかな」

 ノノノは言った。

「男の子はキミに任せたよ」

 そう言って男の子をリアンの背にそっと乗せ、リアンの肩から手を放した。

 直後、リアンへと【転移球(テレポーター)】がぶつかり、リアンと背負われている男の子が僕の付近へと転移してくる。

 ノノノが手を放した理由はその直後に分かった。

 既にノノノは毒素の範囲内だった。おそらく紙一重で範囲に入ってしまったのだ。

 それでも狂戦士の強靱な肉体と援護癒術ランク2【毒抗菌(デトックス)】と同様の効果を持つ毒抗薬(デトナポーション)によって毒素による消滅に耐えていた。

 ノノノを消滅させようとしてか毒素の移動速度が少しだけ遅くなる。消滅させるのに躍起になっているのかもしれない。

「ノノノさんっ!」

 それに気づいたアイジムが叫ぶ。リッソムも愕然としている。

 ふたりが放心する前に、

「その子が作った隙を無駄にするな!」

 アリーが喝を入れ、正気を保たせる。

 僕たちはひたすら走った。

 毒素は誇り高き女冒険者を消滅させると再度元の速度で動き出す。

「【転移球(テレポーター)】をあの毒素に使うことは可能だと思う?」

 ネイレスが尋ねてきた。

「やってみないと分からないけど、あの巨体じゃ移動させたところで大差がないと思う。それに転移先に誰かが居たらその人が即死する。危険がありすぎるんだ」

 だから僕は毒素に【転移球(テレポーター)】を投げれない。

 これ以上の被害が出る前に封印したいという想いは当然ある。

 でも何も救えてない。さっきは諦めてノノノさんを死なせてしまった。

「とりあえずバルバトスさんたちが街の境界を出たら話がある」

 焦るように僕はアリーとコジロウに告げる。ゆったりしている暇もないけれど、確実にバルバトスさんたちを救うためにはそこまで待つ必要がある。

「境界? 境界から出ると安全なのか?」

 聞き耳を立てていたアイジムが聞く。

「憶測だけど。毒素みたいな強力な魔物(モンスター)なら、領域(エリア)間移動がないように思うんだ」

 ブラッジーニさんが大草原から出なかったのも、今思えばそれを懸念してなのかもしれない。フレージュからの警告だって、今思えば嘘っぱちだろう。万が一死んだときに、領域(エリア)境にあるフレージュに被害を及ぼさないためだ。

「その推測は合っています」

 メレイナが言う。

「毒素がここに出現した以上、毒素はこの街から出ることはできません。毒素は領域(エリア)間移動をせず、その領域(エリア)だけを破滅させる特性があるんです。でもだからってこのまま放っておけば毒素が放出する微弱な毒が大地を腐らせ街自体が消滅します」

「詳しいんだ、そういうの」

 リッソムが感心していた。

「いえ……おじいさまからの受け売りです。毒素に関する文献は一通り読まされていましたから。それはもちろんワタシが役割を引き継ぐからですけど……」

「その役割って……もしかして?」

 僕が言葉を紡ぐ。

「おそらくヒーローさんが思っている通りです」

 あまり口には出したらいけないことなのか、極力省いた言葉を紡ぐメレイナ。おそらく毒素を封印する役目を引き継ぐはずだったのだろう。

「もっともこうなる時期が早すぎてワタシじゃ何もできませんけど」

 残念そうに顔を傾けるメレイナ。なんだか悔しそうだ。

 それでももうこういう事態になってしまった。

 だからできる限り全力で対処するしかない。まあ泣きたくなるほど不甲斐ない結果なのだけど。

 やがてしんがりを無事努めれたらしいアクジロウが狼煙を上げ、僕たちに境界を越えたことを教える。

 だが、そこから僕たちが毒素を封印するまでアクジロウたちは気が抜けない。街から出れば当然魔物(モンスター)に襲われる可能性がある。

 そうなればアクジロウとバルバトスさんや他の冒険者が襲いかかる魔物(モンスター)を倒す必要がある。少し不安はある。それでもバルバトスさんに数人の冒険者がいれば大丈夫に思えた。

 僕たちは境界ぎりぎりまで辿り着くと物陰に隠れる。毒素は境界を気にしてか、そこから方向を転換。

 セフィロトの樹の方角へと切り替えた。

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