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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-31 足危

 お遊び、と言ったようにクイーンとってこの戦いは遊びの延長線上でしかなかった。

 元々王であるキングに心酔し行動をともにしていたクイーンはかつて何度もユーゴとサスガを退けたことがある。

 お遊びも本番というのは手心を加えるでもなく真剣に向き合うという意味だった。

「ようやく逃げるのをやめたみたいっす」

「でするな」

 九尾之狐に乗った転倒童子、その肩に乗ったクイーンをふたりは見上げるように対峙した。

 剛弓師のユーゴと特別職 侍師のサスガ。

「先に仕掛けるでする」

「援護は任せるっス」

 先手はユーゴだ。

 剛弓〔泣きべそベッソン〕から放たれた【RAIDEN(らいでん)】が転倒童子の目の前でまるで転んだように軌道を変える。

「ほうれ。しゅってんころりん。大外れじゃのう」

 転倒童子が豪快に笑う。

 ユーゴは防がれてもなお、不敵な笑み。

 一方のサスガは大業物〔明鏡シスイ〕から奥義【寒星(かんせい)歩兵(ふひょう)】を放つ。

 どんな振り方であれ、奥義であれば一発目はまずはそれから走技のように繋ぎ技(コンボ)していくのが奥義の特徴だ。

 だが一発目、一振り目はたやすく九尾之狐が常時展開している障壁に阻まれていた。

「ふん。その程度かい」

 九尾之狐がサスガの実力をもっと上に見ていたと言わんばかりの口調だ。

「やはりシスイでは無理でするか。あまりあれはつかいたくないのでするが」

「出し惜しみはフツーによくないっスよ。こっちはすでに出し惜しみなしの全開っスよ」

 言うやいなや、転倒童子が軌道を変えたはずの【RAIDEN(らいでん)】が転倒童子へと突き刺さっていた。

「こりゃ驚いた。蚊に刺されたと思ったわい」

 とおどけて言えるぐらいには軽傷。

「マージっスか。フツーに渾身の一撃だったんスけど」

 とユーゴは残念がりながらも、その原因は軌道をそらされたことにある、と推測していた。

「それが特典みたいだねえ」

 九尾之狐はその一部始終を見ていたのかそう判断する。

 狐のような目をしているがその視野自体は草食動物のように見渡せる範囲が広かった。

「どうっスかねえ」

 とぼけながらも特典を見破られたと認識していたユーゴだったが、それがどうしたというのも本音である。

 終極迷宮ではとっくに周知されていることだった。

 初回突入特典〔三本の矢の教え(ワン・フロム・オール)〕は一度放てば三回軌道を変更できる特典だ。

 いや正確にいうとするならば一本の矢がまるで容易に折られないように三本束ねられたような状況になっているのだ。

 つまり一度軌道を変えられた一本目の矢は実質消滅し、消滅した場所から一本目と同様の矢が再生される。

 その再生した時点で軌道修正が可能のため、あたかもありえない方向に軌道を変えたように錯覚するのだ。本当は二本目の矢に関わらず。

 つまり転倒童子に当たったのは二本目の矢だった。

 ユーゴはその特典を用いてほぼほぼ必中の制度を誇る魔弓技を放つことが可能だった。

 数多く連射すればその数はまるで冗談のように増えていく。もちろん一致団結結束した三本にて一本の矢のほうが断然威力も違うに決まっているが、ユーゴに求められているのはその厄介さだ。処理能力を増やして、頭を混乱させることでディエゴ、トワイライト、サスガの必殺の一撃を与えるのが役割。

 だからこのたった一本の矢は、戦闘開始の合図、意気込みみたいなものである。

 この矢で倒されてしまうような相手はもはやディエゴたちの相手にはならない。

 つまるところクイーンたちはそれほどの相手。分かっていてもまるで毎朝のルーティンのように、最初は一本の矢を放つのがユーゴなのであった。

 撹乱していなかったとはいえサスガの【寒星(かんせい)歩兵(ふひょう)】が傷一つなく防がれたのは完全に予想外。

 かつて対峙した頃もまた完全体ではなかったということなのだろうか。

 流石のサスガも特典を使用しなければならないのだろう。

 とはいえそれも当然の帰結。

 そんな状況を面倒だと思うのはディエゴだけではなかった。

「【膝不味喰(ニールテイスティング)】」

 一気に片を付けようとクイーンは言う。

 がユーゴもサスガも何も変化はなかった。

 その隙をついてサスガが再度、奥義を繰り出す。

 思考が混乱する。言い間違えた、そんなはずはないと思いながらももう一度、今度はゆっくりと言う。


「【膝不味喰(ニールテイスティング)】」

 クイーンはたしかにそう言った。

 しかしユーゴとサスガに何も効果がなかった。

「はあ?」

 笑顔が固まる。

 どうせ、跪く、そう思って避けもしなかった。

 過信慢心、そのどちらかもしれない。

 クラウドコントロール。

 俗にそう呼ばれる戦術を得意としていた。

 多勢に無勢を覆す、一種の無力化。

 その無力化の無力化。

 いったい、どうやって?

 いや、今は避けなければっ!

 思考が混乱する。

 いつも状況を操り、ほくそ笑んでいた自分自身が操られていた。

 そうやって戦場は動く。 逆手の逆手。先手の先手。

 一方的というのはありえないのだ。

 疫病消滅か九尾の完全復活の二択、自分が提示した無理難題や期限延長の贄提出、それらはすべてクイーンが操ってきたことだった。

 なのにだ、相手を見下すために跪かせる【膝不味喰(ニールテイスティング)】は完全にユーゴとサスガに無力化されていた。

 不敵に笑う笑みが心底むかついた。

「なめないでくださいますこと」

 激昂するクイーンに九尾之狐が一声。

「落ち着きな。種もしかけもない、なんてことはないんだよ」 

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