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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-30 本番

「俺が五人を相手する」

 無理があるじゃんよ、とジネーゼがぼやくなかアルが指示を飛ばす。

「ジネーゼが牛蒡種をリーネは援護。リアンは五人を治療できるか試みてくれ」

 レシュリーのような年上ではないからかアルの口調も多少砕けている。

「ああ、もう。そっちは五人も大丈夫じゃんか?」

 呆れながら心配げに問いかける頃にはアルが襲いかかる五人を対応していた。

「心配無用だったみたい」

 リーネがげんなりした様子で五人と闘うアルを見つめる。

 げんなりした理由は、ひとつしかない。

 また強くなっていたからだ。

 もちろんリーネに向上心はない。

 けれど活躍する冒険者が自分と同年代、年下、あるいは同級生と聞いたとき、どう思うだろうか。

 あのときは自分のほうが上だったはずなのに、自分のほうが強かったはずなのに。

 嫉妬というか羨望というかそんなものがあって当たり前だった。

 ハンソンやリゾネ。あのときの上位のともに行動して、アルたちはそれよりも劣っていたのは確実だった。

 だから成長速度というかレシュリーに追いつこうとしている感が、向上心のないリーネには羨ましくも疎ましく思ったのだ。

 自分は精一杯やっている、まるで言い訳みたいにその漠然とした悔しさを封じ込めて、癒術を詠唱する。

「来るよ」

 よそ見をするジネーゼに苛立ちをぶつけるように警告を飛ばす。

 その怒気に気づいたのかどうか。

「分かってるじゃんよ」

 変わらぬ軽口でジネーゼは牛蒡種に向かっていく。

 好きなものがあるというのは偉大だった。

 毒に夢中でレシュリーにも夢中。自分が口が悪くなかったらジネーゼは見向きもしなかっただろう。

 いつも楽しげに戦いに向かっていく。

 ジネーゼにとって戦闘は毒を試す実験のようなものだろう。

「優しきベールよ! この身を不浄から守りたまえ! 【包衣(リラックス)】」

 リーネの口からなめらかに祝詞が流れ、ジネーゼを援護階級2の柔らかな衣が身を包む。

 【守鎧】のような防御性能ではなく俗に状態異常と呼ばれるものを予防する効果を持っているそれをリーネは今回の牛蒡種の吐息対策として選んでいた。

 ただその援護は万が一のときのためだ、ジネーゼも阿吽で分かっていた。

 牛蒡種のまるで鼻息のように噴射する吐息を跳躍。一回転するように牛蒡種の背後に周り、斬りつける。

 それで終わるはずだった。

「きいてないじゃん」

 毒が効いてないのか、毒が効かないことを聞いていないのか。

 それはともかく、ジネーゼの特性の毒が塗り込まれた短剣〔見えざる敵パッシーモ〕は、まるで効いたような様子がなかった。

「もしかして……」

 リーネが何かを思いつくと同時にジネーゼがリーネのそばに戻ってくる。リーネは【魔抗盾(マジカルシールド)】で息吹を邪魔しつつ、後退していく。

「なにか分かったじゃんか?」

「わかんない。けど、アレ(牛蒡種)っていろんな動物がくっついているようにも見えるよね?」

 ジネーゼとしてはあまり気にしてはいなかったが、たしかに要所々々、あらゆる動物の部位が集まっているように思わなくもない。

「げぇ、とすると結構な醜悪さじゃん」

「それ今関係ある?」

「でも見た目キモいじゃん」

「もういい……とにかく、ジネーゼが刺した部位だけ効果が発揮されてるのかも」

「つまりどういうことじゃん」

「もしジネーゼの毒で倒すなら全部位滅多刺しにする必要があるってこと」

「じゃあ打つ手なしじゃん」

 一体全体何匹の部位が集合して牛蒡種になっているのか検討はつかない。

「アル、作戦変更! そっちを自分がやるじゃん」

 言うやアルのほうへと向かうジネーゼに「それできるの?」リーネが辛辣に言う。「操られてるから麻痺させても動くかもよ」

「ぐぎぎぎ……」

 図星だった。その懸念があったからこそアルは自分が五人を引き受けていたのだ。

「だとしたら手詰まりじゃんよー」

「そうかな。アルのことだから援軍を用意してそう」

 まるでそれがフラグだった。

超火炎弾(アグヤネストラ)】が牛蒡種のほとんどを焼き尽くしていく。

「あれだけならこっちで問題ないじゃん」

 唖然とするのも数秒。瞬時にジネーゼが短剣〔見えざる敵パッシーモ〕を突き刺すと牛蒡種が消えていく。

「ボクの手助けがなんとか役に立ったようだね」

 現れたのはシャアナだった。

 疫病禍前に空中庭園に入りあぐねていたシャアナだったが、何者かが茨の園を破壊したのに乗じて乗り込んでいた。

 その後、疫病禍で動けずにいたが数日前にアルに遭遇し現状を説明されたのだ。

 遅れて現れたのは単に寝坊しただけだが、助っ人感を出すことでそれをごまかしていた。

「まだ終わってないみたい」

 牛蒡種は確かに倒していた。けれど、牛蒡種の息吹に中てられた五つの小はまだ我を失っていた。

「いや終わる」

 アルが言う。

 リアンが詠唱を終えていた。

 【否異常(アンチアブ)】だ。通常単体に効果があるため五つの小を治すには五回展開する必要がある。

 けれどリアンの無尽蔵とも言える魔力から展開された【否異常(アンチアブ)】は通常よりも大きい。

 アルがひとまとめにした、五つの小全員に当てるぐらいは可能だった。

 一瞬にして五人が治療されていた。

 それは誰の目にも明らかで誤認ではなかった。


 すごい、とやっぱりリーネは思う。

 才能と一括りにしてしまうのは簡単で、でも努力の成果と認めたくない感情がうごめいていた。




***



 牛蒡種が消えていく方向にいたのはクイーンだった。いやクイーンとともにいた九尾之狐だった。

 わざと九尾之狐を不完全に復活させたのは、オサキ、犬神、牛蒡種を世界に解き放つため。

 変質毒の残滓もともに封印されていると知っての所業だった。

 その結果、疫病が発生した。

 そしてその三匹が倒されたことで、この世界から疫病は確かに去った。

 それを合図にクイーンは空中庭園の覆っていた荊棘を指パッチンで枯らしていく。

 サスガの攻撃で死した改造椅子人間の生命力だけで成り立っていた荊棘はクイーンのさじ加減でいかようにもできた。

 疫病が生まれた道程も疫病が消えた結果もクイーンとしてはどうでもいいことだった。 

 ただただ楽しめた。

 疫病で苦しむ人間などどうでもいいと思うほど性根が腐りきっていた。

 冒険者たちが大勢集まれば、九尾之狐がまた封印されるかもしれない。

 そんな鬱陶しいことはない。

 だけど疫病によって多くの冒険者が動けなくなれば、彼らが活動を開始するのにも時間がかかる。

 そんな打算もあった。

 しかし倒してしまえばディエゴも言ったように九尾之狐が完全に復活してしまう。

 どちらを取るか。

 どんな選択をするか、クイーンはその判断を楽しんでいた。


 そうしてこの世界の冒険者は疫病をなくすことを選択した。


「ここからワテクシのお遊びも本番ですことよ」

 

 今まで逃げ回っていたクイーンはいよいよとうとうユーゴとサスガに対面する。

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