沁情切札編-22 効能
終極迷宮。
『pepoko>何これっ……』
〈練度連神〉のPC、pepokoは自らの意志に反して、腕が曲がらない方向に曲がったことに気づいて悲鳴を上げる。
戦闘開始早々の出来事だった。
「この階層のNPCがボクでありボクであることを恨むんだな」
pepokoだけじゃなかった、その階層で異世界転生を目論むPCの腕が足が腰が、そして頸があらぬ方向へと折れて、一瞬で全滅していく。
凄まじい熟練度と今まで終局迷宮を生き抜いていた歴戦の猛者。
操縦師デディムト・ケイローの仕業だった。
しかもそれが操縦技能ではなく、人操術と操作という複合職でも使用できる技能で、この早業をしてみせた。
「驚くなよ。ただの合わせ技だ」
彼は【腕止】でNPCの二を腕を止めて【動腕】で肘から下を反対側に曲げただけだ。
とはいえ、実はさらに仕掛けがある。
操縦技能【思考誘導】によって、デディムトはPCたちの味方であるという思考を刷り込ませていた。
結果、警戒心ゼロ、殺意ゼロという意識外から突然、襲撃されたのだ。
まるで丸、円のように本来なら曲がらぬ方向に曲がった幾重ものPCが地べたに転がっていた。
PCが死んでも、PCの本体は死なない。それでもある程度の痛みは与えられる。
その痛みによって生まれる恐怖こそが挑戦心を薄めさせることができるというのがデディムトの持論だった。
確かにNPCは痛みを感じるが、その本体には何百分の一として伝わっていた。
PCたちにとっては針に刺されたような痛みだ。実際にそれを嫌がってやめるPCもいるが現在は少ないのが事実だった。
一瞬でNPCたちを倒したデディムトの頭上に「WINER」と表示されて戦闘が終了する。
「PCはドロップしないからしけてやがるんだよなあ。誰も得しない」
挙げ句、NPCが敗北すればPCの異世界転生を許すのだからデメリットしかない。
唾とともに文句を吐き散らし、下層へとスキップで降りていく。
次はデディムトにとって目当ての階層。交換の間だった。
「ようやく来たッスね」
「うげ、ユーゴかよ。でもまあこれもラッキーか」
「それはフツーにこっちのセリフッスよ。聞きたいッスけど、毒素00渡してもらうッスよ」
「どこでその情報を? と言いたいが終局迷宮で調べたって感じか」
「フツーにご明察ッス。でどうッスか? フツーに渡してくれないッスか?」
「渡すかよ。ってか分かってるからここにいるんだろ」
「そうッスね。フツーに殺してしまうとそっちの次元の闇市場に移動してしまうッスからね。他次元のを持ってくるにはここの仕組みが必要ッス」
「分かってるなら話が早い。交渉が決裂したなら」
「奪い合うだけッスね」
交換の間は本来、他次元同士のNPCが道具を交換できることが可能な階層だった。
しかしふとしたきっかけでNPCが死亡し、その所持品が本来ならそのNPCの次元の闇市場に転送されるはずが、その場に残ったことで、一種の裏技が発見された。
それは幾重もの世界改変によっても修正されず、今も残り続けている。
交換が成立するとその空間は交換の間として機能しなくなるため、交換してしまえば、道具目的の殺戮は起こらなくなるが、どうしても好戦的、非人道的なNPCは存在する。
デディムトはその部類だ。そもそも彼自体が物心ついた頃から道具収集家。
すでにユーゴも周知しているが彼の初回突入特典は〈希少物入手確率上昇〉である。
それによって手に入れた【召喚結晶】によく似た道具によって毒素00の一部を入手したというのはデディムト本人が語ったことだ。
それが騙りの可能性ももちろんあるが、彼のような人物はそういう嘘をつかない。
希少な物を手に入れて自慢するような道具収集家だからである。
デディムトとユーゴが激突。
デディムトはPCを無慈悲に丸め込んで絶命させるような操縦師の猛者である。
それでも勝負は一瞬だった。
ユーゴはディエゴたちと同じく終極迷宮の記録保持者である。
互いにランクは7でレベルは上限。それぞれ技の熟練度もトップクラス。
それでも一瞬だった。
デディムトはユーゴの初回突入特典を知らない。もちろんPCには解析されてしまっているが、デディムトはユーゴの戦っている姿を見たことがない。
それにデディムトは喋りすぎるのだ。だからユーゴもデディムトの初回突入特典〈希少物入手確率上昇〉が戦闘に置いて何の役にも立たないことを知っている。
剛弓師たるユーゴの氷と土でできた矢【HIMO】がデディムトの額を貫き、絶命させていた。
「本当は仲間割れみたいなことはしたくないんスけどね。これも姉御を助けるためッス」
***
「ということがあって一ヶ月遅れたッスよ。ちなみにフツーに毒素00の残滓はレシュリーとかいうのに渡してきたッス」
ユーゴはへらへら笑ってディエゴに説明する。
「へらへらしすぎだ。だが一ヶ月遅刻した理由は分かった。けどその前にトワイライトが死んだらどうするつもりだった?」
「姉御が死ぬわけねえッス。そうなる前にアニキがなにかしたッスよね?」
「よく分かってるでありまするな」
「けっ。まあいい。ともかくお前が来たんだ。クイーンに仕掛けるぞ」
「ってか、サンスは来てないッスけどいいッスか?」
「あいつにはキングの秘密を探ってもらっている」
「なにか違和感があると言っていたでありまするな」
「ああ、それを探ってもらうために終極迷宮に残ってもらった」
「そっスか」
「あとは疫病をあいつが止めれるかどうかだ。三日後に動くぞ」
「準備してなかったんスか」
「お前が遅刻したせいで台無しになったんだ」
***
三日後。
「できた」
少しずつ、少しずつ、ユーゴにもらった毒素00の残滓を使ってできた薬を投じた結果、症状が完全に回復していた。
「登録されましたわ!」
ユリエステの喜びの声が聞こえた。
そこかしこから癒術の詠唱が聞こえ、【否異常】が展開されていく。
「治ったっ!」「治ったぞ!」
歓喜の声が聞こえてくる。
どっと疲れが襲いかかってくる。
僕は歓声を子守唄にゆっくり眠りについた。
目が覚めたとき、以前のような世界になることを祈って。




