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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-20 微動

『アズミさんはどうしたのですか?』

 リアンのちょっと冷たい声が魔電網テレワーク越しに響く。

 ディエゴとリアンは仲が悪いとは言わないけれど別段良いわけでもない。

 和解という言葉は少し語弊があるかもしれないけれど、仲直りするわけでもなく、ディエゴはエンドコンテンツへと帰っていったのだ。

 たぶん少し腹を立てているのだろう。

『殺した……』

 みんなの表情が強ばる。

『わけねえだろ。約束は守ってるよ。モモッカだったかを探してらしくてね、今看病してるよ』

『暗いですけど、どこにいるんですか?』

『洞窟だよ。疫病患ったやつらをおいそれと移動させれねえだろうが』

『誰が罹患しているのですか?』

『トワイライトだ。俺とサスガは別の用で先に着いててね、そのついでにモモッカもダウンだ』

『サスガさんもいるのですか?』

『久しいでございまするな、姫』

『姫はやめてください』

『ってか色々ごちゃごちゃしてんじゃんよ』

『そうだね、僕たちもディエゴがこっちに戻っているのは想定外だった』

『さてね、言ってなかったか? ともかくこっちにはこっちの目的があるが、さしずめこの集まりは疫病をどうにかしよう、そういうことだろう』

『ええ、そうです』

『微動だ』

『微動?』

『レシュリーたちが戻ってきて、俺やサスガもいる。それでようやく動ける』

『それで微動?』

『ああ。こんな会議、本当は時間の無駄だった。会議っていうのはいつも無駄で、面倒なことを押し付けるだけの役割か、どうにかしたいというのを話し合ってただ慰め合っているだけだ』

『そんなことは……』

『ないとは言い切れねえ。辛辣だがな。だが、レシュリーや俺、サスガ、そういう実力者が揃ってようやく状況が少しだけ動く。少しだけ動けば、あとはドミノみたいに状況は動き出す』

『言いたい放題言ってるじゃん。こっちはすでに疫病の正体を知ってるじゃんよ』

『えっ?』

 驚いたのはイロスエーサやリアンたちだった。

『ほう』

 ディエゴは面白そうに微笑んでいる。

『疫病の正体は毒素、毒素じゃんよ!』

『根拠は? 論拠は?』

『なんとなく。なんとなくじゃんよ』

 ジネーゼは理詰めされて悔しげだ。

 ディエゴはしばし黙ってじっとジネーゼを見つめる。

『合ってるよ』

 泣きそうになる寸前まで粘って、ディエゴは告げた。

 拍子抜けのような表情になるディエゴ。

毒素(トキシン)19。それが疫病の正体だよ』

『どうして知ってるんです?』

『俺が流行させた……という誤情報が出回ったら袋叩き、炎魔法で炎上させられそうだな』

 面白げにディエゴが言うが、こちらとしては全然面白くない。

『こっちの目的と通じるところがあるんだが、九尾之狐が不完全に復活したのが原因だ』

 さらっ、とまるで世間話のようにディエゴは告げた。

『どういうことだ?』

『リアンたちも空中庭園にいて、クイーンのわがままを叶えようとしているだろう?』

『それも知ってるのですか』

『まあな。そんでもってそのクイーンの操る魔物のひとりが九尾之狐。トワイライトは鬼門を守っていた守護の三人が死んで転倒童子が復活すると知って倒しに行って疫病を間近で食らっちまったってわけだ』

『つまりどういうことじゃんよ』

『確かに。色々話が入り混じってしまってるな。つまり、クイーンは自分のペットたる九尾之狐を完全に復活させなかった。わざと不完全にした。いわば100%の復活もできたのに70%ぐらいの復活に留めたってことだ。その結果残りの30%である、オサキ、犬神、牛蒡種が復活した』

『分かったじゃんよ。そいつらに毒素(トキシン)19がくっついていた。そういうことじゃんよ』

『まあ、そういうことだ』

『そいつらを倒せばこの疫病はなくなる?』

『理論上はな。だが、それは懸命だとは言い難いな』

『どうして?』

『九尾之狐が完全復活する。オサキ、犬神、牛蒡種を倒して、九尾が弱体化するならいいんだがな。実質に強化されちまう』

『でも倒さなければ疫病は……?』

『だからこそ微動だ。いままで微動だにしなかった状況がようやく動く。レシュリー、お前が新薬を作れ』

『あなたは? あなたはどうする気だ?』

『世界の状況はどれぐらい把握している?』

『疫病が流行しているとぐらいしか……』

『そうか。なら俺の目的も合わせて話す。今、世界にはキング、ジャック、クイーンの三人がいる。ジョーカーを含めてやつらは沁情(ジャッシュメント)切札(トランペッター)。β時代を終わらせた。つまり俺やリアンの父親、王を殺した大罪人だ。王を殺したことで自尊心が満たされたのかおとなしく投獄されていたが、リアン、お前がランク5になったことで動き出した』

『どうしてですか?』

『王たる資質ができるからだ。貴族がひとまず冒険者のランク5を目指すのも似たようなものだ。自分たちには王たる資質があると言わんばかりにな』

 理由はごまかしだったようだけれど、グラウスやマリアンたちがランク5を目指した新たる理由がここで判明した。ようするに貴族的な世間体だったわけだ。

『だから逆に沁情(ジャッシュメント)切札(トランペッター)は俺が殺す。ようやく動き出してくれた。待ちに待ったからな』

 それもディエゴの中では微動だったのだろう。

『俺は世界を救わない。沁情(ジャッシュメント)切札(トランペッター)への復讐する。ユーゴももうすぐ到着する。サスガも使い物にならないトワイライトもそのためにいる』

 ディエゴは目的を告げる。復讐心だけに突き動かされていた。

 だからエンドコンテンツで他次元の自分の死に様を知り、資質者たちを殺してでも生き延びて、復讐しようとしていた。

『世界を救うのはお前だ』

 ディエゴは僕に告げる。『もともと、そのつもりだろうが。もうその気になってるんだろうが』

 図星だった。

『世界を救うのは甘くねえ。だけどやれ。徹底的にやれ。世界改変は起きていない。けれどこの疫病はこれはまさに世界の改変だった。それを元に戻すために今、状況が微動した。動き出した。少しでも明るい未来になれと、人々の祈りが届いたかのようにな。だからやれ』

 それは悲痛な叫びのようにも聞こえた。ディエゴとて疫病に倒れたトワイライトさんが心配なのだろう。

『言われなくとも』

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