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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-19 倒産

「潮時だなあ」

 コーエンハイムは建設途中の自社ビルを見上げて、寂しげにつぶやく。

 救済スカボンズの終焉。つまり倒産だった。

 集配社としての権利をなくし、集配員として得られていた技能【電波(レパシー)】を消失する。

 盗技技能報【念波】が使えない冒険者には情報共有がしにくくなってしまう。

 そういう意味でもコーエンハイムは救済スカボンズの店じまいを決めた。

「少し悲しいであるな」

「そうっぺ」

 ウイエアもイロスエーサもコーエンハイムの決断に反対しなかった。

 トンショウの出現によって、破壊された建物を再建し、集配員も新たに募集をかけていた。

 再生できる、そう思った矢先に疫病が流行り始めた。

 そのまま、人は集まらず、自社が完成する目処も立たない。

 集配社としても意義がない。

 とはいえ情報収集を主として生きてきた冒険者たちだ。

 それを辞めれるはずがない。

「これからは自由業(フリーランス)だなあ」

 疫病が流行った頃から、集配社として成り立たなくなるとコーエンハイムたちは先を読んでいた。

 だからこそ準備をしていた。

 今まで救済スカボンズを頼りにしてくれた冒険者へ、そして信頼たると認めた冒険者へ、情報提供する仕組みは完成していた。

 それは布石。

 再び集配社として再起するための布石だ。

「やるっぺ」

 ウイエアの指示で偵察用円形飛翔機(ドローン)が一斉に放たれた。



 ***


「どこ行ってたのよ」

「心配したんですから」

 半年で帰ると言ってから二ヶ月遅れでの帰還、そして僕たちの死亡説が流布されていたせいもあってか、

 ネイレスは少し涙目でメレイナは心配して抱きついていた。

 アリーの目が少し冷ややかで、お尻を軽く抓られたけれどそれはお愛嬌。

「ちょっと説明できない場所かな。原点草原の奥はランク制限があるのは知ってるよね?」

 僕は言う。エンドコンテンツという言葉自体ランク7未満には通じないから、それ以外の言葉で説明する必要があった。

「そのランク7版っていうのかな、原点回帰の島以外にもそういう場所が存在するんだ。そこに入ると外への連絡はできないし、こちらからでは認知できない」

「なるほどね。名前は刻まれなかったから死んではないと思ったけれど。そういえばコジロウとアルルカちゃんは?」

「まだ。ふたりはやることが残っててね。僕たちだけが先に出てきたんだ。二ヶ月遅れだけどね」

「それでもナイスタイミングだわ。口当布(マスク)をしてるってことはなんとなく事情は分かっているんでしょ?」

「なんとなくだけどね。全部を把握したわけじゃないけど」

「それでもいいわ」

「というかナイスタイミングってなんなのよ?」

 確かにそれは僕も気になっていた。

「今から対策会議が始まるのよ。イロスエーサたちの提案でね」

「そういえば、会社立て直せたのかしら」

「倒産したって聞いたわ」

「えっ? それって大丈夫なの? 【電波】とか使えないんじゃないの?」

「それは大丈夫よ。彼女たちは一流とでも言うべきかしらね。対策を練ってたわ。それがもうすぐ届くの?」

「どこから?」

「空からよ」

 ネイレスが上空を指すと偵察用円形飛翔機(ドローン)がやってきていた。

「ええと、ウィッカが使っていたものをイロスエーサたちが改良したみたい。今の偵察用円形飛翔機(ドローン)はものさえ運べる」

 ネイレスが紙切れを見ながらそう説明する。おそらく取扱説明書だろう。

「偵察用の映写機でネイレスを確認して物を届けている感じかな?」

「そうじゃない? まだ自動化は難しいみたいなことも言っていたし」

 対空しながらネイレスを確認し、ゆっくりと降りてきた。

 カゴのようなものが偵察用円形飛翔機(ドローン)にはついており、そこには薄い板のような機械が乗っていた。

「ええと、起動方法は……?」

 ネイレスが探り探りで説明書を見て操作していた。その薄い板よりも説明書が先に届いていたということは前もってテストをしていたのだろう。

「魔力を当てればいいみたいですね」

 メレイナが説明書を読み取って魔力を充てる。

 魔法士系でなくても僕たちは魔力を持っている。それに反応してこの板は動く。

 使用者の魔力を自動的に読み取って動く魔力版――説明書には『魔電波式通信網テレパシーネットワーク』 通称魔電網(テレワーク)と書かれていた。

『お、きちんと映ったであるな』

 その魔力版の一部にイロスエーサとその後ろの風景が映し出される。

『ああん、これ映ってんのか?』

 舌なめずりしながら、シッタの顔が映り込む。

『映ってるじゃんよ』

 ご親切にジネーゼがシッタに告げる。後ろにはリーネの姿もある。

『良かった。ジネーゼもきちんと入れたんだね』

 言うリアンの後ろにはアルがいた。

『入れるに決まってるじゃんよ』

『うそ。私が設定したのに』

『黙っとくじゃんよ、リーネ』

 かつてあったわだかまりはもうリアンとジネーゼにはないような会話だった。それが少しうれしい。

『そろそろいいかしら』

 ネイレスが言う。

『ごめんなさい』

 威厳か貫録か、決して怒っているような口調ではなかったのに押し黙ったリアンたちはネイレスたちの画面を注視し、

 そして絶句した。

 直後、何を言っているのかわからないほどの質問が飛び交っていた。

 僕たちが映っていたからだろう。

『質問はおいおい。今はこの状況をなんとかしないと』

『まあ、そうだな』

 舌なめずりをしてシッタが納得する。

『だが、まだ揃ってないんだよ。あと誰だっけ? マガツカミだっけ?』

『アズミさんですね。空中庭園にいる私達の元に届いているということは届いているとは思いますよ?』

『ジネーゼみたいに苦戦してたりして』

『だからそれはいいじゃん……って映ったじゃんよ』


『よぉ。久しぶりだな?』

 ニヤリとそこに映ったのはアズミではなくディエゴだった。

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