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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-17 自棄

「もう外に出るぞ」

 疫病禍が続くなか、そんな冒険者の声が聞こえてくる。

 都市では給付金が支給され、家賃の免除など様々な対策によってそれなりに生活が保たれていたが、冒険者には限界がある。

 冒険者は基本的に依頼によって生活が保たれている。酒場に乱雑に貼られて依頼にかかれているものをこなして路銀を稼ぐ。

 基本的になんでも屋だが、そのしてほしいことが依頼できない状況になれば路銀を稼ぐことができない。

 現状、都市に滞在していた冒険者は周辺の依頼なら受けることは可能だったが、その数も限られている。

 日々出現する魔物にすら、この疫病は効果を発揮しているのか定かではない。

 けれど狩場の湧きですら、通常よりも少ない。異常な数だった。

 薬に衣服、あらゆる材料が不足しているのは冒険者が担っている採取、採掘、魔物退治による材料調達が不足しているからだった。

 閉鎖による困窮が、自然と冒険者達を外へと向けていく。

 拡大させないための自粛にも限界がある。

 様々な薬も試されているが、やはり効果があったものはない。


 ****


「本当に行くの?」

 そんな冒険者の風潮に流されるように、

「行くしかなかろう」

 アエイウはミキヨシの酒場から外に出ることを決意した。

 ミキヨシの酒場にはミキヨシが買い溜めた材料がかなりあり、外出が自粛されていても平気だった。

 酒場としての経営は赤字だが、拠点も兼ねている。

 アエイウに、エミリー、ミキヨシ、それにそれぞれの弟子に、ミンシア、13人が住むには手狭だったが、アエイウは二階での運動で暇を潰していた。

 そんななか、絶対に罹ってはいけない少女が、疫病に罹患してしまった。

 ミンシアだ。

 才覚〈無剤放免(アンチテーゼ)〉はあらゆる薬が効かない。

 つまり、ミンシアが疫病に罹った場合、薬による療法は不可能になる。

 癒術の仕組みもなんとなく理解しているアエイウは癒術では治せないのだと理解した。

 手洗いうがいをこまめに行い、どんなに注意していても、疫病は差別なく襲ってくる。

 アエイウや他の人と濃厚接触したのが原因だとは言い切れなかった。ミンシア以外は罹患していないのだから。

 どこからともなく運ばれてきたものに罹ったのかもしれない。

 それでもアエイウは責任を感じていた。

 自分の女をこれ以上失いたくないというのもある。

 アリーンにエリマ、もうふたりも失っている。

 先の十二支悪星との戦いでも、エミリーたちを失いかけた。

 自暴自棄になってランク5の戦いに挑んだが敗北したアエイウは、レシュリーに叱責されたからか、それともそれが気にくわないのか、荒れるようなことはなくなっていた。

 何がアエイウにそうさせたのか知らないミキヨシだったが食器が壊れることがなくなって一安心したのは秘密だった。

 外に出たアエイウがでかけたのは商業都市レスティアだった。

 レスティアは都市封鎖していたが、自棄になった冒険者が出回り、開店している課金籤屋には列も見られた。

 外出を自粛させようとする正義中毒者たちと"正義中毒者"中毒者たちの冒険者の熾烈な戦いが始まっていた。

「雑魚が」

 アエイウもうざ絡みされたが、近寄ってきたものを一蹴していた。

 正義中毒者たちと"正義中毒者"中毒者たちもただの目立ちたがり屋で、何のために外出しているのかという理由を忘れてしまっている。

 もちろん遊びたいからという理由も真っ当なものとは言い難いが、少なくともアエイウはミンシアを救うためにレスティアを訪れていた。

 アエイウは闇市にて掘り出し物を捜索に来ていた。

 その闇市は見知らぬ冒険者たちによって封鎖されていた。

「悪いがここは通さない」

「どけ! 後ろの連中のようになりたいか」

 アエイウの後ろには正義中毒者たちと"正義中毒者"中毒者たちの倒れた姿があったが、その冒険者は怯まない。

「ここは俺たち、『強盗活動』が占領した」

「どういうことだ?」

「外出自粛で物資不足でね、服は足りねえ、武器は足りねえ、お金もねえ、ねえねえ尽くしなんだよねえ」

「だから?」

「だから奪うことにした。冒険者を殺し、持っていた物資で補うしかねぇ。不足してるんなら当然だよねえ」

「ああそう」

 聞き流して、アエイウは強引に闇市の中に入っていく。

「待てやコ……!」

 威嚇のような怒鳴り声が途中で途切れる。

 鬱陶しいと感じて、ひと殴りでおとなしくさせたのだった。

 強盗という言葉が先か、強盗師という言葉が先か、という問題がある。

 強盗師という上級職は強盗の言葉の意味が先行すると悪い印象があるが、強盗師がいて、その類似する行為を強盗というように呼んだとみると、強盗師の印象はまた違うものがある。

 強盗技能を使用した冒険者への攻撃は正当な技能ではあるが、技能を使用していない行為たる強盗、もしくは技能を使用しての民間人への攻撃は罪になるという大いなる違いがある。

 自らを『強盗活動』と呼ぶ冒険者集団は後者だろう。彼らは強盗師などではなく、自粛によって貧窮した冒険者たちだった。

 冒険者はその日暮らしのものも多い。当日に魔物を退治したりして路銀を稼ぎ、大抵が宿代と酒と煙草代に消える冒険者も多いのだ。

 まるで言い間違えたかのような集団『強盗活動』はあたかも物資の正当な供給方法を見つけたとばかりに活動を始めたのだ。

 欲望を正当化しようと、自分たちよりも弱い冒険者を殺しては、死者の物資が流れてくる闇市から物資を供給していた。

 そこにアエイウが現れた。 

 アエイウ自体も彼らのように自分の欲望を満たしにやってきたに過ぎない。

 だが自分の邪魔をする男は基本的に排除すると一貫しているアエイウは闇市を占領する集団たちを粉砕、玉砕していく。

 まるで自分の遊び場を荒らされた暴君がやつあたりのように虐殺していくような光景だった。

 それでもアエイウは目的のものが闇市にないと知るやいなや、すぐさまその場を去っていった。

 それはアエイウにとっては幸運だった。

 しばらくして、集団『強盗活動』を真似た、にわかたる『強盗行動』が闇市を占領していた。

 『強盗活動』のやり方が間違っていたが、確かに甘い汁を吸っていたのを、冒険者は知っていた。

 崇拝もないままただた真似したような『強盗行動』の前に

「ビーフ or チキン?」

 【究極二択(エンペラーチョイス)】を提示した王が出現する。

 無謀に挑んで殺されるか、恐怖し殺されるか、二択を迫られ、一瞬にして散っていく。

 その光景も無残そのもの、その活動は失敗だったと言わんばかりの全滅だった。

 王と暴君、行き違いになったものの、ふたりに蹂躙された闇市を今後、誰も占領しようとは思わなくなったのは少し幸運なことだったのかもしれない。

 それでも、そんなことがあっても、自分たちには関係ない。冒険者たちはまるで自棄を起こしたように外に出るものは減らなかった。

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