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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-16 離円

 大草原に白粉棒(チョーク)で円が描かれている。

 それは一定の距離を置いて作成されていた。

 大草原を回遊する遊牧民たちが制定した社会距離拡大戦略ソーシャルディスタンスであった。

 外だから大丈夫、疫病疎開だとそう考えて大草原に冒険者たちが疫病過でもレベルアップをしに魔物胎児に来るものがいて広大な敷地を持つものの密集を避けるために打ち出した方法だった。

 その円内にいていいのは基本的にひとりという規則を定めた。

 また、それとは別に、大草原の南側は基本的に冒険者たちも立ち入り禁止とした。

 それには理由がある。

 大草原の南側の一角に大きな天幕がある。無駄とも思えるほどの広大な敷地を要したそこには癒術会と一部の冒険者が一定の距離を置いて招集されていた。

 そして天幕の周囲にも、一定間隔で円が描かれ、そこにひとりひとりが寝かされていた。

 寝かされたひとりひとりは疫病の罹患者たちだった。 

 拡大を防ぐため、中~重症者は指定した場所での治療をする方針にしたのだ。有効的な手段が見つかるまで症状緩和するのはこの臨時の診療所の役目だった。

 毒に弱い魔物の影響で、魔物が出現しても追い払うのはたやすく、気候が安定しているというふたつの理由から大草原に選ばれていた。

 大草原も南側も当然、遊牧民の回遊ルートではあるが、事情を話せば彼らはルートを変更してくれる対応力を持っているため、それも回避されている。

 そうした対策を取りながらも

 「問題が山積みですわよ」

 癒術会の現会長ユリエステ・リアゲールはおでこの傷を押さえながらため息をつく。

 各都市では外出自粛要請も出されているが、一部の冒険者の抑制は難しいのが事実だ。自粛を強制する権利を癒術会は当然持っていない。

 それに終わりが見えないことで、全ての人々に精神的負荷がのしかかっていた。

 だから些細なことで普段では起こり得ない事態を招いてしまう。

 現にユリエステのおでこの傷はそれが原因だった。

 癒術【否異常(アンチアブ)】でどんなものでも治る、そう思っている冒険者が、ユリエステを傷つけていた。

 重症になった冒険者がこの診療所を訪れ、癒術【否異常(アンチアブ)】で治せと怒鳴り散らしてくる。

 丁寧に説明して納得してくれる人も多いが、何日もこの場所に拘束されてしまうことに納得できない人は意外と多い。

 その円の外にでるな、内にいろ、と長い期間、終わりの見えない期間言われ続ければ、周囲にやつあたりのように暴力を振るうものもいるのだ。

 おでこの傷は癒術ですぐに治せはするが、この程度の傷ならば自然回復に身を任せるのが癒術会の方針のため放っているのだが、それすらも忙しいアピールのように捉える冒険者がいて嫌味をぶつけてくるのも事実だった。

 それを個性と捉えるのか、それを異常と捉えるのかで対処の仕方も変わってくる。

 そのあたりは護衛を任せている冒険者の裁量次第だろう。

 ユリエステは日々、ここにやってくる患者に真摯に向き合っていくだけだ。


「私が担当するから」

 大草原の診療所を護衛しているのはネイレスにセリージュ、ムジカ、メレイナと言った大草原のいつものメンバーだった。

 むしろ彼女らがいたからこそユリエステは大草原に大規模な敷地を確保でき、遊牧民たちとの話し合いもスムーズに行えた経緯がある。

 ここから出ていくと聞かない冒険者が反発し、気弱なムジカではどうにもできなかったため、ネイレスが前に出た形だった。

「誰が来たって同じだ。俺は出ていく」

 口当布(マスク)をしているネイレスたちとは対象に口を覆うものがないその冒険者は声がこもったりせず、大草原によく響いていた。

「今、ここ以外受けれいれてくれないわよ」

 ひどい言いようではあったがネイレスは事実を告げる。都市封鎖(ロックダウン)している都市もあれば、必要以上の出入りを禁止している都市もある。冒険者たちが家を買い、拠点にしている都市ですら、この拡大が収まるまで入れてくれず仕方なく旅先の宿に滞在している冒険者たちだっているのだ。

 そもそもこの冒険者は「俺は疫病だ」と叫んで、名もなき村の食堂の店主に感染させた疑いがある。

 それをユリエステがまるで隔離と言わんばかりにこの診療所につれてきたのだ。

 自主的ではなく強制的につれてこられた分、この冒険者の不満は多い。三日も持たずに堪忍袋の緒が切れていた。

「こんなところにいられるか」

 症状的には中症状だがいずれ悪化することは明白だった。それでもこの冒険者はこの重大さを認識していなかった。

「どうしても無理なの?」

「ああ、どうしても無理だね」

「分かったわ。でも都市への立ち入りができないのは事実だから」

「知るかよ」

 そう吐き捨てて冒険者は草原を出ていく。無論、ネイレスに強制力がないためだ。

 あくまで自粛、自重のお願いしかできない。

 行動が危険視され治療の目的も兼ねて連れてきただけだ。その後、動きを自粛してくれ、と言っても自分から進んで、行いや態度を改めて、慎んでくれるのかは本人の意識次第だ。

 ネイレスには強制力がなく、ただお願いをするだけだった。

 もちろん、ほとんどの冒険者が自粛して、診療所の与えられた円の内での生活を我慢しているのが事実だが、一部こういう冒険者がいるのも事実だった。

「死なないようにね」

 ネイレスの願いにはふたつの意味が込められていた。

 ひとつは疫病で死なないようにという意味が。

 もうひとつの意味は――



「正義執行!」

 都市から外に出て、無理やり入ろうとしていた冒険者の死体が転がる。

 冒険者による、外出者への粛清だった。

 ユーゴック・ジャスティネスが自分の正義を譲らず、押し付けるように、冒険者のなかには自分の正義が正義として譲れない冒険者が存在する。一部はユーゴックを崇拝し、ジャスティネス信者を名乗るものもいた。

 そんな正義中毒者たちが、外出し、勝手気ままに振る舞う冒険者たちを粛清していた。

 そんな正義中毒の彼らも外に出て「外に出るな」と宣って粛清をし続けているのだ。

 その正義中毒者たちも、"正義中毒者"中毒者、ようするに自分勝手な正義を押し付けてくるのに辟易した冒険者たちによって粛清されるという騒動も起きていた。

 また罹患率が少ない村では罹患した人を追放するという騒動も起こっていた。

 どんなに気をつけていても罹患する、とされている今回の疫病だが、まるで疫病に罹患したら「悪」という風潮が、特に名もなき村では目立っていた。

 もちろん、そんな追放された人が持っていた才覚を覚醒させたりして、追放した村を見返すという劇的な事件が起きるわけもなく、追放された人の多くはどこかで野垂れ死んでしまっていた。

 大草原で治療を行なっているという情報は集配社が未だ立ち直ってないため、各地に伝わるのが遅くなってしまっていたのだ。

 情報が各地に一瞬で伝わることによってデマが瞬時に流布されるという不利益は当然あるのだが、情報が早く伝わることで救えるものもある大事さを失ってから気づいたかたちになる。


 さて、ネイレスの自粛要請を振り切って、大草原から都市を目指した冒険者だが、その後の行方は分かっていない。

 その後、しばらくは事態が好転しなかった世界の情勢をみれば結果は一目瞭然だろう。 

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