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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
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問答

 18


「でネイレスさんはどうしたい?」

「意外と復讐したいという気持ちにはならない。それよりもボツリヌストキシンをなんとかしないと」

「冷静じゃな」

「毒素の危険さは実際に目にしているし、ブラジルさんから何度も聞いてる。個人の復讐より優先させるべきでしょ?」

 ネイレスさんが自分に言い聞かせるように呟く。どことなく翳りが見える。

「いいの?」

 僕がそっと確認する。

「何が?」

 ネイレスさんが苛立ったように呟き、僕を睨む。

 僕は理解した。ネイレスさんは本当は復讐がしたいのだ。それでも自分の、個人の感情を押し殺す。それがネイレスさんだった。永遠の新人と言われながらも僕よりもずっとずっと大人だ。

「それに、復讐なんてしなくてもソレイルは死ぬわ。毒素に勝てるはずがないもの」

 その後、ネイレスさんは笑顔を作る。その笑顔はどことなく痛々しく見えた。

「つまりブラジルさんから親離れした毒素が仇を取ってくれる、ってことね」

 そう考えたほうが気が楽なのだろう。もう僕は何も言わなかった。

「話は終わったの?」

 アリーが少し不機嫌そうに僕とネイレスさんの会話を見つめていた。

「お、終わったよ」

「で具体的にはあの毒素をどうしようってわけ?」

「幸運にも封獣士の彼女がいるから。それですんなり解決するわ」

「そ、それは……無理です」

 ネイレスの言葉に反応してメレイナが全力でその役割を否定する。

「ワタシじゃ、実力が伴いません。毒素00(オリジン)はおじいさまの全盛期でやっと捕まえれたんですよ。永い間封印されていた関係で若干弱まっているかもしれないですけど……それでもワタシじゃ力不足です。とても封印に至りません」

「それは大丈夫じゃ。それを理解してネイレスも言っておるのじゃろう?」

「どういうことだよ、じいちゃん」

 アクジロウが問い質す。

「お前は黙って聞いておれ」

 バルバトスさんも自分の孫の相手をするのをやめていた。余計なことを言うから先に進みづらいのだ。「そりゃねぇーぜ、じいちゃん」

 アクジロウの言葉はもはや全員が聞き流していた。

「つまり、造型者と使用者は同じじゃなくてもいいということじゃ」

「それってつまりワタシが【造型(メイキング)】した【封獣結晶(キューブ)】を他の誰かが投げてもいいってことですか?」

「そうじゃ」

「それって必然的に僕が投げるってことだよね?」

「あんたには重荷かもしれないけどやるしかないわ」

「僕で大丈夫かな?」

「私は問題ないと思うけど」

「拙者も同意見でござる」

 アリーとコジロウが僕の不安の種を根絶しようと目論む。寡黙を保ち続けるアルと不安げに見つめるリアンが無言でアリーたちに同調する。

 それでも不安だった。つまり僕の実力が伴わなかったら失敗。別の手段がなければ全滅ということだ。不安すぎる。

「自分の実力をあまり下に見ないことよ」

 アリーが僕の背中を押す。

「あんた、おそらく大陸に渡ってからランク3になるまで最速で辿り着いた冒険者よ。それに[十本指ザ・ゴールデンフィンガー]と戦っても生きてるのもかなりの経験になってるわ」

 それ以外にも二年間の落第者時代がそれなりの経験になっているのだけれど、僕の傷を抉る可能性があったからだろう、アリーは配慮したのかそれ以上言わない。

 自分で付け加えて、自分の古傷を抉っておく。【蘇生球(リヴァイヴァラー)】が使えるほど経験を積んだ僕にはそれなりの実力がついているのだろう、たぶん。

「分かった。じゃあ僕が【封獣結晶(キューブ)】を投げるよ」

「お願いします。でも問題がひとつ。毒素の中央にある核に当たらないと駄目なんです。核に届く前に毒素によって消滅する可能性も視野に入れたうえで投げる必要があります」

「ただ、投げるだけじゃ駄目ってことか。とりあえず毒素に消される前に届く速度と、さらに何かしらの手段で消されないようにすべきってことだね」

 僕は考え込む。

「何か思いついたの?」

「とりあえずは……ただ、なんにしろ、近づく必要はある」

「また危険なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

「でもその危険なことをやらないと全員は救えないよ」

 僕の言葉にアリーは嘆息していた。

 結局こうなった、とでも思っているのだろうか。でも僕しか封印できる可能性はないのだから仕方がないのだ。

「じいちゃん、あいつ動き出しやがった」

 どうするか話し合う僕たちに向けて突然アクジロウが叫んだ。

 無視されていたアクジロウは拗ねに拗ねた結果、暇なので毒素を観察していたのだろう。

「しかもあいつ、こっちに向かってる!」

 アクジロウの報告が最悪な事態を教えてくれる。それでも早く気づけたことは僥倖だった。感謝はあまりしたくないけど。

「どうする? とりあえず近づくのを待って投げてみる?」

 僕は提案する。

「それよりも負傷者の避難が先よ。恐慌にでもなったら封印どころではないでしょ!」

 アリーが叫ぶ。

「鍛冶屋連中は任せておけ! わしの指示に従ってくれるはずじゃ」

「できるだけ毒素の情報は伏せておいて」

 アリーがバルバトスに指示をする。

「心得ておる。余計な情報は混乱を招くだけじゃ」

「未だ動けぬものもいるのでござろう? ならば全員でやったほうが早いでござるよ」

「それもそうね」

 僕たちの動きは迅速だった。

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