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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-15 三密

「それはわしには効かんよ!」

 王の究極の二択をゲンはまるで斬って捨てるかのように言い捨てた。

【死刃流・玄武】

 まるで密閉するかのように、砂の粒子と氷の粒子を密集させてできたような亀をかたどった空気が王の周囲を包む。

 吹雪と砂嵐、二種類が密接したように王へと襲いかかり、まるで目に見える菌のような猛威が王へと密着するように襲いかかっていた。

「ふふっ」

 王はまるでびくともしないように笑っていた。

「ビーフ or チキン?」

「だから効かぬよ」

 ゲンは再び言い捨てた。

「つまらんな。言葉遊びではないか」

「ほざけ。その固有技能で何人を弄んできた」

「愚民だけだ。従えば許している」

 言葉を紡ぎながらも、剣と剣、技と技が密接していく。

「もう一度、問うぞ。ビーフ or チキン?」

「ほざけ」

「王を畏怖せぬとはやはり死刃流は気に食わない」

 わずかに怒気を含みながらどこか感情には愉悦が含まれていた。

 王の固有技能【究極二択(エンペラードチョイス)】は畏怖したものを対象に発動する。

 ビーフを選択したものには蛮勇とも言わんばかりの勇気を、チキンを選択したものには戦意を失うほどの臆病さを植えつける。

 蛮勇を植え付けられたものは無謀にも王へと挑みたくなり、臆病さを植え付けられたものは逃げ出したくなるほどの恐怖を覚える。

 ときとしてそのふたつは戦いに必要な場合もあるが、選択を誤らせることがある。

 その選択を迫るのが、王の固有技能【究極二択(エンペラードチョイス)】だった。

 ゲンは王へと畏怖せず、その対象になりえない。だから王の固有技能は発動しなかった。

 ゲンにとっては既知の固有技能【究極二択(エンペラードチョイス)】は対処方法を知っているため脅威でなかったのだ。

「さて、少しだけ本気を出すぞ」

 王はまるで戯れのように使っていた王剣〔災厄のジ・ワン〕を【収納】。

 次に取り出したのは魔充剣シーグブリートだった。

「見よ」

 王は宣言する。

「これが、王の、少しだけ本気を出した姿だ」

 王は魔充剣シーグブリートを振りかざす。魔充剣はタンタタンの意向もあり、剣の銘柄はシンプル。それに合わせるように魔充剣はシンプルなものが多い。

 それに比べると魔充剣シーグブリートは仰々しいまでに豪華絢爛。

 贅沢に贅沢を尽くした、まるで王と言わんばかりの傲慢さを持ってた。

 タンタタンはそれを下品と告げる一方で、王に従うものはそれを権力の象徴だと主張した。

 見た目をどう捉えるかは人ぞれぞれだったが性能は一級品。

 その王の威光たる魔充剣に風がまとっていた。

「食らうがよい!」

 その風が放たれる。まるで暴風。

 放たれたのは【風鎌鼬ティフォーネファルチェ】。攻撃階級5の魔法だ。

 王は放剣士の上級職、超剣師だった。

「【死刃流・青龍】」

 ゲンは肉薄する旋風を柳のように避けて、一振り。闘気で象られた龍が王を噛み砕く。

 かに思えた瞬間、王もまた紙一重でその斬撃を避けていた。すれすれで避けたようにゲンの目には映ったが、まるで赤子の手をひねるかのような余裕さも垣間見えた。

 超剣師は階級8までの攻撃魔法を魔充剣に宿せる。

 少しだけ本気ということはその階級を使わないという手心、遊びなのだろう。

 その油断が命取りだ。

 王が次の魔法を宿す前に

「【死刃流・白虎】」

 振り放つ。光と闇、明と暗を宿した虎の闘気の幻影が王へと襲いかかる。

 闇が密着し体を蝕み、光が密接し皮膚を消失させていくはずだった。

 ここに来てゲンも違和感。

 王とゲンのランクには開きがあるが、熟練度が異常な死刃流を受けてなお、王が無傷なはずがない。

 避けるまでもない、と言わんばかりに王は嗤い、ゲンも気づいた。

「もう一度問おう。ビーフ or チキン?」

 固有技能【究極二択(エンペラードチョイス)】にゲンは答えなかった。

「気づいたか。だが、遅い。四回問うたのには意味がある。もう一度言おう。四回問うたのには意味がある」

 ゲンが後ずさる。

 固有技能【究極二択(エンペラードチョイス)】ははっきりと機能していた。

「一度敗北したお主から恐怖が拭えるはずがない」

 王が剣を構える。

「感じるぞ。お前が恐怖を! 心の底から、恐怖を! 心底、恐怖を! 感じているのを!!」

「わしはもう二度と負けん。負けん。負けん!」

 それは蛮勇だったのかもしれない。チキンを克服しようとしてビーフを選択してしまっていたのかもしれない。

 だが、ゲンは見せる。

 アルが〈新月流伝承者〉のようにゲンは〈死刃流伝承者〉だった。弟子は数人いるが、ゲンほどの使い手はいない。ゲンが死ねばもしかしたら死刃流は衰退するかもしれない。

 それでもあの日、王に逆らい、〈死刃流〉が虐殺されたことを忘れてはならないのだ。

 だから研鑽してきた。

「魅よ!」

 ゲンは言う。剣は鞘にしまっていた。

「これがわしの全てだ」

 目にも止まらぬ速さで王に密着したゲンは零距離で刃を振り放つ。

「【死刃流・黄龍】」

 それは王の知らない死刃流。幽閉されていたときに編み出した、ゲンの、いや死刃流最強奥義。

 居合抜きで王を一閃。

「なんだそれは?」

 が王の体に何の変化もなかった。

 とはいえ王も強者。

「上か」

「滅せよ」

 王が空を見上げたのを同時だった。

 金色の闘気を帯びた長い体躯を持つ龍が、王の元へと落ちてくる。

 まるで雷。王を食い破らんと神の化身かのような龍が王へと直撃。

「一手遅い」

 するかに思えた直後、その龍がまるで密を避けるかのように王を避けた。

 王の代わりに作られていた棒が受けた。

 超剣師になって使用できる援護階級6の魔法【避雷針(コンダクターロッド)】。

 それが雷属性をもつ技能を引き寄せていた。

 その一手。

 その一手がゲンに絶望する時間を作ってしまっていた。

「面白い余興だった」

 王が嗤う。β時代にゲンが敗退したときよりもなお王は強くなっていた。

「もうちょっとだけ見せてやる」

 王が魔充剣シーグブリートを振り下ろした。

 密接しすぎていたゲンは避けられなかった。

 確実に【死刃流・黄龍】を当てるために密着しすぎてしまっていた。

 外れてしまうと臆病に思ったからかもしれない。それすらも【究極二択(エンペラードチョイス)】の影響だとすれば、王の手のひらだったいうことだ。

 切り傷からゲンは凍りついていく。

「おのれ……」

 恨み言を吐く暇もなかった。

 魔充剣シーグブリート解放された荒れ狂う攻撃階級8【暴虎氷河(ラヴィーナチーグル)】は瞬く間にゲンを密閉していき、直後、ぱりんとゲンごと粉々に砕けた。

 世界が徹底ではないにしろ、密閉、密集、密接を防ぐように動き出す頃、

 密接を繰り返す戦いを制したのは王だった。

 そしてこれこそが未だ早期突入特典不明の王の強さであった。

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