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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-14 王薬

毒素(トキシン)19。それがこの疫病の正体だ」

 ゲン・ミナクモの捜索に出たキングに付き添ったベベジーは疫病に罹ってしまった。

 雑に草原に寝転ばされたベベジーにキングはそう告げる。

「正確には変質毒。犬神、オサキ、牛蒡種、封印されたときに残っていた毒が放たれたようだな。クイーンの戦略か。嫌がらせにしては最上級だ」

 キングは愉快げだった。

「ゴホッ……ゴホッ…‥」

 とベベジーは咳が止まらない。

「変質毒は同じ毒ながら犬神、オサキ、牛蒡種三匹の体内でそれぞれに変質している。だから元をたどれば同じ毒でも変化が起きてしまう。そして現状、治療方法は――ある」

 そう言ってキングは【収納】していた薬剤を取り出した。

「それ、は……?」

「王にしてエース、エースにして王の特効薬。ヘドロキシクロロキン(王汚泥薬)だ」

 ベベジーにも聞いた覚えがあった。

「それ、副作用は……?」

「知らん。服用しているぶんにはなんら影響がない」

 王は断言した。いわばキングにとっての切り札とでも言わんばかり。

「どうする? 苦しみのまま耐えるか、それとも試すか」

 ベベジーが第ⅶ世代になる前、王に問われた選択のようであった。

 そうして未来を掴み取った矢先、疫病だ。

 死にたくはない。

 選択肢はあるようでなかった。

 けれど王の左腕ではなかったら、こういう機会が訪れなかった。

 すぐに頷いていた。

 王は不躾にベベジーの口元にヘドロキシクロロキンを放り投げ、水で体内へと流し込んでいた。

「ゴボボボオオ」

 いきなりのことで喉が詰まったベベジーだったがなんとかその薬を飲み込む。

 効能はばつぐん、と言わんばかりに一気にその症状は治まっていた。

 助かった、そう思った矢先、

「ああ」

 悪寒が走った。

「ああ、ああ、あああああああああああああああああ」

 震えが止まらなかった。

「なんと酷いことを」

 奇縁だった。

 流浪していたゲン・ミナクモがその場を通りかかっていた。

「久しいな、ゲン」

 王にしてエース、エースにして王のキングは不敵に笑った。

 β時代から生き残り、第ⅶ世代としてDLCを惜しみなく使った傑物。老獪がそこにはいた。

 一ヶ月の放浪を得て、王はまるで急がば回れのようにゲンと出会っていた。

「介錯をしてやれ」

 ゲンは言った。β時代の考えになってしまうが空中庭園では死にかけの人間に死を差し伸べることも美麗だった。

「この程度、克服できる」

 キングは徐ろにベベジーの胸を穿つ。穴が空いたのは一瞬、キングの手を体の中にいれ、ベベジーの体の穴は閉じていた。

 ――ドクン、ドクン、ドクン。

 鼓動する心臓をキングは握りつぶす。

 絶命――ではない、潰されたはずの心臓が再生し始め、ベベジーの体にも変化が起こる。

「なんということを」

 ベベジーの異形の姿をゲンは嘆き、キングは嗤う。

「ヘドロキシクロロキンの副作用に耐えられなかったのだから仕方がない。所詮王の器ではなかった」

「その薬は認可されてなかったはずだが……」

「知らん。それが医薬品であろうが、違約品であろうが、王にしてエース、エースにして王が効くといえば効くのだ」

 現にそれを服用しているキングは疫病に罹っておらず副作用もない。それが偶然かもしれないとしても。

「庶民、凡夫に通用しないのであれば、適性な体にしてやるまで。違うか、ゲン?」

 それはつまり改造したということだった。ジョーカーはもっと手の込んだ改造をしていたが、キングは手軽に改造できるように改良していた。もちろん、手軽さを優先したため、ジョーカーほどの成功率はない。

「相変わらずの性格のようだな。醜く、そして醜い」

「久しぶりに再会した王に告げる言葉ではないな。再会を喜ぼうではないか」

「たわけが。どの口が言うか。お前が欲しいのはわしが持つあれだろうが」

「そうだな。それを手に入れてクイーンへの貢物としようか」

 そう言いながらキングはベベジーをゲンのもとへと放り投げる。

 人の形を保ちつつも異形となったベベジーは放り投げられるとともにゲンへと襲いかかっていた。

「むごい」

 一言。

「【死刃流・――


 冷たく鋭く、しゃがれた声が周囲に響く。

 同時に清らかな風と水で象られた龍のような姿が見えた。


 ――青龍】」

 

 異形のベベジーを龍が飲み込み、一瞬で吹き飛んだ。

 浄土にて幸せを願う。ベベジーの最期にゲンはそれを願った。


「やはりその流派はランクに見合わぬ強さだな。熟練されている」

 王は関心しつつ、王剣〔災厄のジ・ワン〕を振りかざして問う。

「ビーフ or チキン?」

 それは多くの冒険者を恐怖に、あるいは無謀な挑戦へと駆り出させた選択だった。

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