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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-13 海彦

 紙がなくなる、26~27℃のぬるま湯が効くという大陸でのデマにはもうひとつあった。

 これは漁業都市エンドレシアスで流行したデマだった。

 今回の疫病にはアマエビがよく効く。


 このデマが流行ったのには理由がある。


「なあ、そのお守りなんなん?」

「ああこれ、俺の村の言い伝えなんだけどさ」

 その冒険者はエンドレシアスに冒険に来ていた空中庭園の冒険者だった。

 その冒険者が見たこともない魔物のお守りを腰に提げていたから気になって聞いたのだ。

「これはアマビエって言ってさ。むかし、この魔物が疫病が流行ったら自分の絵を見せよ、って言ったらしい」

「なにそれ…? 迷信じゃないか?」

「どうだろね」

 と笑った空中庭園の冒険者は、疫病が流行し他の者たちが罹患するるなか、ピンピンしていた。

 その話をうろ覚えで覚えていた酒場の親父が言ったのだ。

「あの冒険者はアマエビを食っていたから疫病にかかりにくいんだ」

 アマビエとアマエビを勘違いしているともかく、お守りだったはずなのは完全に覚えている酒場の親父が、食っていたというのは自分の酒場のエビの在庫が大量にあったからだ。

 観光業でも成り立っている酒場の親父はその在庫を少しでもさばきたいという願望を織り交ぜていた。

 結果的にその噂によってエンドレシアスではアマエビに限らずエビを食べるということが流行していた。


「まったく性質が悪いじゃん」

 空中庭園出身でありながら、自国の伝承を曖昧にしか覚えてない冒険者に向かってジネーゼは毒づく。

 疫病の流行で名もなき村で足止めを食らっていたときに村人から受けた依頼だった。

 曰く、アマビエの伝承を曖昧にしか覚えてない冒険者たちが乱獲しようとしている、と。

 その村の近くにはアマビエが大量に生息していた。アマビエは自分から危害を加えなければ襲ってこないある意味友好的な魔物で、この村の人々は昔の伝承に則り、疫病が流行り始めた頃から、アマビエの絵の描いたお守りを人々に渡すような活動をしていた。

 だが、一部の伝承をきちんと調べもしない冒険者たちは、アマビエ自体になにか疫病の効能があると、討伐してっその毛皮などを乱獲していた。

 ジネーゼたちが足止めされていた村と隣村は交流があり、ちょうどそこにいたジネーゼたちに白羽の矢が立ったのだった。

 アマビエのお守りを腰に提げたジネーゼとお付きのリーネはその冒険者サンジロウ・テンダと対峙する。

「邪魔すんな! 俺は第ⅶ世代の聖剣士だぞ」

「聞き飽きたじゃん」

 サンジロウの言葉に怯むことなくジネーゼは言う。そんな言葉にひるまないのが真の実力者だ。

 それをある種のステータスにしようと躍起になっている冒険者よりもジネーゼには余裕があった。

 第ⅶ世代は一種のステータスで世界を席巻しているひとりという脅し文句のようなものでもあった。

 その言葉に怯まないジネーゼとリーネをサンジロウはどう思ったのだろうか。

「なら思い知らせてやるよ!」

 サンジロウは思っていた。

 自分の実力を知らない愚か者め。

 自分がどのくらい冒険者を倒してきたか知っているのか。

 今の自分には間違いなく実力がある。

「その言葉、そっくりそのまま返すじゃんよ」

 両者が――聖騎士たるサンジロウの聖剣〔八方塞がりのジジコ〕がジネーゼの短剣〔見えざる敵パッシーモ〕がぶつかる。

 毒塗りの短剣の刃にぶつかった聖剣が刃こぼれしているのを見抜いたサンジロウは鍔迫り合いを回避。距離を一度置き構える。

 鍔迫り合いを得意としていないジネーゼもそれは願ってもいない状況だ。

「リーネ、手は出すなじゃんよ」

「はぁ? まあいいけど。それで死んだらかなりあざ笑ってあげるから」

 一対一でわざと第ⅶ世代の実力をジネーゼは確認してみたくなったのだ。

「舐めやがって。後悔して爆ぜろ」

 サンジロウは妙な構えをしていた。

 居合抜きとは違い鞘には収納してないが、手をひねり、腰のあたりで聖剣を構えていた。

 【刻下聖晶】。

 それでも繰り出されたのは聖剣士がよく使う技能だった。

 しかしその構えは空中庭園では知られた構え、東国流だった。

 聖剣士の上級職全剣師になってようやく、東国流の聖剣技は使用可能になるが、その構えを真似する、というより習うことは空中庭園の剣士系複合職の多くが行なっている基礎的な技術だった。

 サンジロウはこのまま上級職になることができれば、すぐにでもステゴ以上の付け焼き刃ではない東国流の聖剣技を使用できることだろう。

 とはいえ、その【刻下聖晶】の威力も生半可なものではない。

 【守鎧】と同等の効果を得て、防御をも強固にしたサンジロウの鋭い一撃が放たれた。

 けれどジネーゼという歴戦の毒使いが何もしていないわけがなかった。

 【弛緩】によって筋力を低下させ、短剣〔見えざる敵パッシーモ〕で弾く。

 鍔迫り合いは得意としないジネーゼだが、相手の膂力を弱め、毒のついた刃で弾くことで、相手の力を軽減しながら、相手の武器をも刃こぼれさえる二段構えだった。

 サンジロウは気づいていないがジネーゼは当たれば勝つ。

 その余裕があるからこそ、冷静に戦況を見極められる。

 実を言えば集団戦になれば、味方に当ててしまうと毒消しがあるにせよ大変な事態になるため、相手が一人ならジネーゼが一人で戦ったほうが安心できるという理由もあった。

 それがリーネにはバレているのをジネーゼが実は知らないという裏話もあるのだが。

 閑話休題。

 短剣で弾いたジネーゼにひるまず、サンジロウはさらに追撃すべく前へと一歩。

 それが実力者にとっても実は怖い。

 怒涛の勢いで押し切る、というのは一対一に限らず意外と立ち向かう相手をひるませる。

 そして聖剣士は意外と勢い任せがしやすい複合職でもある。

 もちろん癒術が使えるため後衛で癒士や魔法士系複合職を守ることもできるが、前線に立ち、聖剣技を駆使するだけで、立ち向かうことに対して優位になる。

 なにせ特定の癒術と同じ効果を自身に付与できるのだ。

 【刻下聖晶】によって得た【守鎧】と同様の効果を【弛緩】では如何様にもできないのだ。

 とはいえ、ジネーゼも新人の暗殺士ではない、二重展開は当たり前にできるぐらいに経験は積んでいる。

 【弛緩】を継続使用しながら【虚脱】を発動。【守鎧】と相殺させ、さらに継続使用することで、【守鎧】を使用していたときよりも脆い肉体へとサンジロウを変えていく。

 ジネーゼの使う暗殺技能は使用し続けることで半永久的に、肉体をもろく弱くさせていく。

 一方で聖剣技は使用後の一定時間のみの効果と使用時間が定まっている。

 さらに今、ジネーゼが展開したように同等以上の反対の効果を持つ技能ですぐに相殺してしまうのだ。

 サンジロウの一歩が前進から後退に変わる。

 ジネーゼはそれでも前進しない。

 サンジロウが怯えや怯みで後退したとは判断しなかった。

 機会を捨てた英断。けれどそれは培われた経験によるものだろう。

 サンジロウの後退は一瞬。

 【東国流・小烏丸】もどきの構えから発動したのは【刻下聖晶】だったが、先程の構えと振りが違うため、まるで別の技能を使っているようにも見える。

 すれすれ、ぎりぎりのところでジネーゼには当たらない。

 際を見定めての回避だった。

 当たると判断しての全力の斬撃で勢いが止まらない。

 そこにまるで風に揺れた柳のように、短剣を当てる。

 料理を食べるときのような食事用短刀や肉叉を押し込むほどの力もいらなかった。

 熟練の域。

 触れたことさえもわからないほどの優しい太刀でサンジロウの頬に一筋の傷ができていた。

 血すらもでない。

 だがそれだけで十分だった。

 サンジロウが震え出し、地面に伏した。

 皮膚から浸透した毒が全身へと巡っていた。

「他にも仲間がいるんじゃん? その仲間を含めて全員、もうアマビエを襲わないって誓うなら解毒してやるじゃん?」

 サンジロウはわずかに首肯。体が動かなすぎてちょっとしか動けなかったのだ。

 もしその動きにジネーゼが気づかなければサンジロウは無念にも死んでしまっていただろうが、ジネーゼは小さな頷きも見逃さなかった。

 瞬く間に【収納】から取り出した解毒剤をサンジロウに飲ませた。

 体の痺れは残ったままだがなんとか立ち上がれる。

「覚えて、いろよっ!!」

 下の痺れを我慢して、サンジロウは逃げ出していく。

「また来ても二の舞じゃんよ!」

 とはいえ痛い目に遭ったので当分は大丈夫だろう。

「来る前にこの状況が収束すればいいけど」

「それなんじゃんけど、ジブン正体分かったかも知れないじゃん」

「どういうこと?」


「疫病の正体――それは……たぶん」

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