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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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終極迷宮編-19 分岐

『laser scissors>私はあなたに誘ってもらったこと、後悔してないから』

『souris>Re:ENCORE、бeper aд。お前らだけは転生しろ』


 Re:ENCOREは涙する。

 Re:ENCOREはふたりを誘った側だった。

 断ってもいい立場だった。

 この転生はRe:ENCOREのわがままだったから。

 それでもこのふたりは、Re:ENCOREに対して理解を示してくれた。


 異世界転生こそが僕のふたりへの恩返しだ。


『Re:ENCORE>бeper aд。一緒に転生するよ』


 鼓舞するように告げた瞬間、бeper aдは上半身が消失していた。

 Re:ENCOREへのアリーの攻撃を避けるためにカクレミノを使用していたため、自分自身を守る術はなかった。


『бeper aд>楽しかっ――』

 言葉が途中で途切れる。最期にメッセージを残そうとしたのだろう。

 数瞬のうちにカクレミノも悲しげに消える。

 бeper aдは勧誘したときに一番文句を言ってた。

 Re:ENCOREがなぜ異世界転生に挑戦するのか本当の理由を告げたときも、ぶつくさと文句を言っていた。

 それでも、最終的には自分の利益になると判断してбeper aдはこうして付き合ってくれている。

 Re:ENCOREはбeper aдの人間味が好きで好きでたまらなかった。

 yoshitaro iidaだけはリアルの姿を知っている。

 久しぶりに連絡を取ったときRe:ENCOREのことを懐かしみ、理由を話すと快諾してくれた。



『Re:ENCORE>ああ』

 Re:ENCOREは泣いていた。

 仲間はもういない。

 疑似異世界転生のなかではなく、自分で声をかけて、協力を申し出た、真の仲間。

 彼らは当然死んだわけではない。PCは、各々が作り出した分身でNPCたちと戦うのだから。

 それでも喪失感はあった。

 <ENCORE V>がサービス終了となり、Re:ENCOREというキャラは消える。

 その喪失感よりも確実にくるものがある。

 

『Re:ENCORE>僕はひとりでも負けない』


 Re:ENCOREの動画の視聴者たちは、半ば諦めていた。

 それでも半ば。残りは期待だった。

 Re:ENCOREが何かをしてくれるのではないか。

 そういう期待。

 【完璧擬態】は使用可能になっていた。


 けれどただの【完璧擬態】ではない、【分身】を使用してから【完璧擬態】。

 <ENCORE V>の世界にも忍者は存在し、プレイヤーの意思に伴って、人数を増やせる。

 五人のRe:ENCOREが【完璧擬態】をして、それぞれのNPCに化ける。

 一人目のRe:ENCOREがレシュリーに

 二人目のRe:ENCOREがアリーに

 三人目のRe:ENCOREがコジロウに

 四人目のRe:ENCOREがルルルカに

 五人目のRe:ENCOREがアルルカに


『Black cat>いけ!』

『lie arrow>やったれ!!』

『Candy store>負けるな!』

『Black cat>がんばれ!』


 熱い声援を受けて、五人のRe:ENCOREが立ち向かっていく。

 なぜ、最初からこれを使わなかったのかには理由がある。

 制限時間がより短く、負担も半端がない。

 きっと本来の自分にも負荷がかかる。

 この世界でのPCでの高負荷は脳内に負荷がかかってしまう。


 それでもいい。どうせ僕は。

 

 Re:ENCOREは仲間の想いを背負って、世界への侵入を阻むNPCに最後の戦いを挑み――





 そして儚く散った。


 その日、Re:ENCOREの動画は300万回再生を超え莫大な利益を上げたが、なぜRe:ENCOREが異世界転生を目論んだのか本当の理由は誰からも語られることはなかった。

 以降、Re:ENCOREのチャンネルの更新はない。

 それもまた様々な憶測を呼んだ。


 ****



 Winnerという文字に僕は安堵する。

 今まで一番の強敵だった。

 それでもルルルカを助けれたり、それが影響で強力な特典を手に入れたりと幸運な一面もあった。

 休憩のように地面にへたり込む。

 みんなそうだったのか、まるで円になるように座っていた。

「で、どうするのよ? 進むか、帰るか? 半年とっくに経ってるわよ」

「でもコジロウのこと、まだそんなに分かってないよ」

「それなら簡単でござる。拙者は進めばよいでござるよ」

「でもコジロウひとりじゃ……」

「あたしがいるの」

「なら私も進みます」

「けどさ」

「あれ、レシュは私とふたり旅は嫌なの?」

 アリーが意地悪そうな顔で見てくる。

「大歓迎だけど」

「つってもあんた、余計なことに首突っ込むからふたりで過ごす時間なんてそんなにないんでしょうけど」

「こうして拙者らがいるところでいちゃつけてる時点で大丈夫でござる」

「だまんなさい」

 アリーの凄みにアルルカは苦笑して、ルルルカは頬を膨らませていた。

「じゃあ、僕とアリーは戻る。三人は進む。それでいいかな?」

「「「異議なし」なの」でござるな」

「まるで南の島のときのようだね。ここでまた分岐点だ」

「けどいつか合流するのでござるよ」

「もちろん、コジロウのことが分かったら手伝うよ」


 そう言って僕たちはまたそれぞれの分岐路を進んでいく。

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