終極迷宮編-18 圧倒
『laser scissors>笑えるw』
それはまるで疑似異世界転生で自分たちが行ってきた行為そのものに見えた。
鍛えた技能で圧倒的な蹂躙。
異世界転生を目指す者の多くが転生して好き勝手行きたいと答えた。
それを意趣返しされているようだった。
laser scissorsは半身が消失しながらそう思った。
『laser scissors>私はあなたに誘ってもらったこと、後悔してないから』
laser scissors、という長年、戦ってきたまるで自分の半身のようなキャラクターはこの戦いで消滅する。
けれどlaser scissorsは言った。
言わなければならなかった。
yoshitaro iidaの死が想定外のあっけない死だったとしてもRe:ENCOREは自分のせいだと思ってしまうだろう。
Re:ENCOREとはちょっとの付き合いしかないけれど、なんとなくそういうことを思った。
消える瞬間、laser scissorsは笑った。
『laser scissors>頑張ってね』
Re:ENCOREの背中を押すように。
残った仲間を鼓舞するように。
『souris>うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!』
最初に呼応したのはsourisだった。
この戦いでlaser scissorsとともに戦ってきた、そして強化されたルルルカの攻撃を防ぐのはsourisの仕事だった。
『souris>Re:ENCORE、бeper aд。お前らだけは転生しろ』
laser scissorsを失ったのは自分のせいだと咎めた。
誰のせいでもない、laser scissorsの笑顔はそう訴えているのは分かっていた。
『souris>優しすぎるんだよ』
sourisが守ってくれなかったせいだ、そう咎めてくれたほうがまだすっきりした。
sourisはそういう世界で生きてきた。
<最下位からの成り上がり無双生活>はそういう罵詈雑言が飛び交う世界だった。
<魔法の世界で銃技師無双>はそんなに温かみのある世界だったのか。
チートと呼ばれ続けたのが嫌になって、<魔法の世界で銃技師無双>に逃げたというような噂を聞いたこともあった。いや、どんなものにも妬む者は存在する自分と違うこと、自分よりも優れている者を妬む者からは逃げれないのだ。
だとすれば、laser scissors自身が優しすぎるのだ。
そんな彼女に報いろうとsourisは身勝手に決めた。
異世界転生よりも何よりも、それが一番重要になっていた。
『souris>離れてろ、怪我をするぞ』
【捕縛禁恤・死冕染駆】
<最下位からの成り上がり無双生活>において下剋上をするための禁恤が存在する。
失敗すれば最下層からやり直しになってしまうが、あまりにも差がつきすぎた強さへのの救済措置として存在していた。
sourisはその禁恤を使ってきた者たちを蹂躙してきた。
<最下位からの成り上がり無双生活>の最上位はその禁恤を使う資格を有してないが、異世界転生においては別だ。
この戦いにおいて禁恤は使用できる。
ただし使用して異世界転生に成功した場合は最下層からやり直し、つまりレベル1で転生することになっていた。
だからこそ使用してこなかったが、laser scissorsに報いるために使用していた。
sourisの身体全身を憐れみの闇が包み込み、その闇から紫電が弾けている。
目が赤く染まり、黒煙が昇っていた。
凶悪。
弱者が見れば怖気づきそうな禍々しい姿。その姿に似つかわしく全ての能力が何十倍にも向上していた。
それでもだ、愛剣ビックベンタールがまるで人食魚に突かれているかのように、ルルルカの匕首の圧倒的物量で粉々になるのに、一秒もかからなかった。
『souris>おかしいだろうがよ』
とはいえ、だ。これが異世界転生物の主人公の本質だろう。
今回はsourisは主人公ではなく、主人公にやられる側だが。
疑似異世界転生で、俺TSUEEな気分を味わってきたsourisがしてきた行為を、今まさに一身に受けていた。
転生してきた主人公が強い時代はもう終わりだと訴えているようだった。
変質した特典〔最悪な死を招く因子〕が凶悪すぎる。
それを引き当てたのは、レシュリー・ライヴの献身だろう。
〔出ると最悪な死を招く〕というデメリットしかない特典を持つ、仲間殺しのような仲間さえも見捨てず死から救ったリターンとしては十分すぎる。
ルルルカに手一杯のsourisを尻目にRe:ENCOREとбeper aдがレシュリーたちに追い詰められていくのが分かった。
お前らだけは転生しろ、なんて言っておいて格好が悪すぎた。
すまねえ。ルルルカの猛攻に耐えきれず身体を貫かれたsourisはしばらく虚空を見つめ、消失した。




