終極迷宮編-16 結果
Re:ENCOREの【神速球】が【蘇甦球】にぶつかるよりも早く、追い抜いたレシュリー・ライヴの【神速球】が、 Re:ENCOREの【神速球】を撃ち抜いた。
それの応酬。
【蘇甦球】の速度を超えるため、決して遅くはない【蘇甦球】の速度が遅々として映っていた。
『laser scissors>すごっ!』
laser scissorsが感心するのも無理はない。
援護球、回復球と違って攻撃球は自分で狙いを定める必要がある。
そう考えると、【蘇甦球】の軌道を読み当てようとしたRe:ENCOREも、その目にも止まらぬ【神速球】に当てたレシュリーもかなりの命中精度を誇る。
laser scissorsは決して百発百中ではない。
それこそレシュリーにはその努力の痕跡が見えた。
擬態は能力値は同じにならない。
Re:ENCOREの能力値でレシュリーの技能を扱えている。
そしてそれが対等に見える。
Re:ENCOREも底知れぬほどの努力をしているのだ。
見惚れている場合ではなかった。
laser scissorsもまた動き出したアルルカの相手をしなければならない。
匕首でRe:ENCOREとその投げた球を狙っているからだ。
sourisはアリーに狙われ続け、カクレミノを使用しているため、対象にならないためには反撃ができない。
だからこそルルルカが動けている。
бeper aдは自衛の手段はあるものの基本的に防装女師はひとりしか使えない。
カクレミノをsourisに使用している以上、コジロウに距離を詰められないように蜘蛛の巣の迷宮を逃げ回り、yoshitaro iidaもбeper aдを逃がすように蜘蛛の巣の迷宮を作り変え、かつコジロウを妨害している。
ひとり人数が少ないはずなのに、それぞれが対応に迫られているせいで、レシュリーの【蘇甦球】に対処できるのはRe:ENCOREしかいない。
その【蘇甦球】もルルルカに迫りつつある。
神速の投げ合いではきりがない。
投げてさえいれば、球は両手で作れるレシュリーと〈双腕〉すら擬態して真似できるRe:ENCORE。
【蘇甦球】を投げている分、レシュリーが有利。
それだけではない。
真似師の【完璧擬態】には当然のことながら時間制限がある。
同じ相手には使えないという制約は存在しないが、次の使用までの再詠唱に時間がかかる。
そうなってしまえばレシュリーの技能は使えない。
もちろん擬態中に習得してしまえば問題ないのだが、
上位の技能ほど習得に時間がかかる。
【速球】ならばものの二回使用で習得できる。【速球】が弱すぎるのではなく、Re:ENCOREのレベルに見合ってないほど簡単な技能だからだ。
【豪速球】では二十回の使用だが【神速球】は五百回の使用が求められる。
これは先に述べた理由とは異なりRe:ENCOREのレベルに見合ってないほど難しいのではなく、それが投球士系の技能ではなく、レシュリーのみが使える固有技能だからだった。
習得はできない。擬態時間と技能の使用回数を計算しても合わないという理由からRe:ENCOREは習得は諦めていた。
それでも、【神速球】の使用は止めない。
打ち止めれば、レシュリーに早さで負けてしまうからだ。
【神速球】の撃ち合い、撃ち落とし合いは先も述べたように【蘇甦球】を破壊できない時点で、Re:ENCOREの負け。
ニヤリとRe:ENCOREは笑う。
『Re:ENCORE>僕の武器はそれだけじゃあない』
ここからがRe:ENCOREの真骨頂。
両手にはひとつずつ【神速球】。
だがそれだけじゃない。
Re:ENCOREの背後から無数の投球技能のもととなる鉄球に素材球が出現。
さらに【転削球】【破裂球】【火炎球】【毒霧球】といった数々が無数に出現していたのだ。
『Re:ENCORE>これを捌き切れるのか?』
レシュリーが自分自身の世界において唯一投球技能を同時にふたつ扱えるのだとしたら、
Re:ENCOREはレシュリーの技能をENCORE Vの世界の定義において使用できる。
つまりレシュリーが二投流だとしても、技能を擬態したRe:ENCOREが二投流とは限らないのだ。
真似師は擬態した職業の技能を一定数使用すれば擬態していなくとも使用できるのだ。
ENCORE Vで頂点まで上り詰めたRe:ENCOREは、ENCORE Ⅰ~Vまでに出てきた職業の技を全て扱える。
ENCORE Ⅲの道具商師は固有技能〔不要不用の無駄遣い〕によって道具を同時に使用することが可能だった。
ENCORE Ⅳの爆採掘師は固有技能〔君のためにボムがいる〕によって爆弾を同時に使用することが可能だった。
ENCORE Vの時限術師は固有技能〔連続弾魔〕によって魔法弾を同時展開することが可能だった。
そしてそれらの覚える固有技能を、Re:ENCOREは習得しているというそんな理由だけで同時に使用ができる。
ENCOREの世界で、鉄球や素材球は道具扱い、そして【転削球】【破裂球】は爆弾扱い、【火炎球】【毒霧球】は魔法弾扱いになる。
それら全てがレシュリーめがけて放たれる。
そして理不尽かも知れないが、この世界の定義において、投球士系の職業は素材球を他の球に変化させられる。
擬態中のRe:ENCOREにもそれは可能だった。
圧倒的物量をもってRe:ENCOREは強襲した。
レシュリーだけを狙えば、レシュリーが集中して全て撃ち落としたかもしれない。
ここがRe:ENCOREがレシュリーと比較しても経験が劣ってないところなのだろう。
投げた球は分散して、アルルカ、アリー、コジロウへと向かっていく。
つまりレシュリーはそちらにも意識を向ける必要があった。
自らに対するレシュリーの処理能力を落としてRe:ENCOREはついにいよいよ、とうとう【蘇甦球】を破壊していた。
『Adgk;>やった』
『lie arrow>すげえ』
『Black cat>おお!』
なのに、だ。
「私、生き返ったなの?」
ルルルカの声が響く。
レシュリーは、他の仲間へと放たれた球の処理を行っていなかった。
コジロウとアリーがその分をカバーして、レシュリーは自らがルルルカのもとへと近づいていた。
Re:ENCOREが囮の【蘇甦球】を破壊するのに夢中になっていた隙きをついて。
レシュリーは近づいてから【蘇甦球】を【造型】して使用していたのだ。
Re:ENCOREは読みが甘かった。自らが擬態した結果、Re:ENCOREは【蘇生球】がどのくらい精神摩耗するか知ってしまっていた。
そしてそれから生み出された【救命救球】、【蘇甦球】がそれ以上摩耗すると想像がついた。
だからこそ、連続使用すれば、自分たちとの戦いの継続すら難しくなると推測してしまった。
けれどもっとレシュリーの人間性を理解していれば、そんなことを関係なく、かなりの無茶をすると理解できたはずだった。
そこまで考えが及ばなかったRe:ENCOREの負けだった。




