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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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終極迷宮編-15 隠蓑

【蘇生球】は残り3球。


「僕の能力を真似したのか」

 レシュリーはRe:ENCOREが【豪速球】を放ったのを見てその能力を看破する。

 同時にsourisが【蘇生球】のひとつを叩き落とす。

 sourisはアリーの【三剣刎慄(トリアングラム)】に狙われていた。

 そしてその【三剣刎慄(トリアングラム)】は初回突入特典〔全ての難門を(モントリ)通り抜ける(オール)〕によって単体攻撃、単体技能の使用の際に、障害を全て無視できる。

 sourisの屈強な肉体も自身が操る憐れみの闇でさえも防御に使用することができない。

 だが、sourisは無傷。

 今まで防御不可能と言われていた【三剣刎慄(トリアングラム)】をsourisは攻略せしめていた。


『Adgk;>すごい』

『candy store>どうやった』

『Tomas>僕はわかった。防女だ』

『infostreet>бeper aдの能力か!』


 観戦者が言う通り、sourisが避けたわけでも防御したわけでもなかった。

 それはある意味で初回突入特典〔全ての難門を(モントリ)通り抜ける(オール)〕の裏をかいたような形だった。

 〔全ての難門を(モントリ)通り抜ける(オール)〕は”単体攻撃、単体技能の使用の際”にという条件がある。

 Re:ENCOREはそれに注目していた。

 単体攻撃、単体技能の使用ということはつまり、対象者を設定する必要がある。

 だからこそ疑似異世界転生系オンライン<防装女師はくっつかない>のトッププレイヤーたるбeper aдをアリー攻略の要として勧誘したのだ。

 <防装女師はくっつかない>は防装女師という防具が女人化された世界に転生した主人公となってパートナーの防装女師を最硬の高みに導いていく物語だ。

 その中で、主人公は彼女たちを育成しながら彼女たちを凝集して戦っていく。凝集とはすなわち、防具となった彼女たちを身に着けることだ。

 その防装女師のひとり、カクレミノをбeper aдはsourisに凝集した。

 カクレミノはその名の通り、隠れ蓑がモデル。入手確率がかなり低く、そのときのガチャはクズガチャと呼ばれ、手に入れた者は高順位が定位置となったため運営に批判が集中した代物だった。

 結果、sourisは存在を消した。つまりそれは対象の消失。

 対象を設定しなければ〔全ての難門を(モントリ)通り抜ける(オール)〕は発動しない。

 そして同時にその特典を用いていた【三剣刎慄(トリアングラム)】も対象を見失ってしまい不発に終わったのだ。

 それだけではない。

 今まではあり得ない速度で、sourisのビッグベンダールがアリーを吹き飛ばしていた。

「アリー!!」

 予想外の速度で吹き飛ばされるも、

「大丈夫よ。目の前に集中しなさい」

 ぎりぎり防御が間に合ったアリーは傷を負いながらも立ち上がる。レシュリーが片手で展開した【防壁球】も多少は役に立っていた。

「何かしらの追加効果でござろうか」

「あの人の能力か」

 レシュリーはбeper aдに向かって【神速球】を片手で放った。

 その通りだった。防装女師カクレミノのモデルは隠れ蓑。純粋に隠れるだけの能力だが、そもそもこれはPCたちの世界に伝わる叙事詩に登場するマントが由来だった。

 そのマントは身を包むか手に持つと姿が見えなくなり十二人分の力を得ることができる。

 つまりsourisに凝集されたカクレミノはsourisの姿を消すだけではなく使用者の十二人分の力を使用者に与えていた。

 先程、アリーへと振るった力は十二人分のちからが込められていたのだ。

「彼は拙者が」

 超高速でコジロウがбeper aдへと向かっていく。

『Re:ENCORE>yoshitaro!』

『yoshitaro iida>コジロウは対応する!それよりも蘇生させるな』

 コジロウを抑えるのは異形の蜘蛛yoshitaro iidaの役目だ。しっかりと対応してくる。

 それでも【蘇生球】は到達していた。

 レシュリーたちの順応が早いのだ。真似されたことによる動揺も、カクレミノによる対象外し、攻撃力上昇も瞬時に対応してくる。

 その対応の速さがRe:ENCOREを翻弄していた。目の前の出来事に対応していたら後ろから不意打ちをされたそんな気分だった。集中しすぎて、周囲を俯瞰できていない。

 覚悟した分だけ集中力が増してどこか冷静に見えていないのかもしれない。

 それにレシュリーの真似は手札を増やしすぎた。

 【三秒球】に【手球】、何に使えばいいか分からない球が多すぎるのだ。

 選択肢の多さが時として人を迷わせることもある。

 だからこそ、レシュリーの投げたふたつの【蘇生球】はルルルカに到達していた。


 しかし不発。

 二発ともに不発。


『candy store>でしょうね』

『Black cat>まあそうだよねえ』


 観戦者の嘲笑が草となって、大草原を作り出していた。

 成功するはずがない。

 むしろRe:ENCOREが必死に防ごうとしていることさえも、嘲笑しているものまでいた。

 Re:ENCOREのNPCを尊敬する発言が気にいらなかったものたちだろう。

 戦っているものと観ているものの温度差に隔たりが出てくるのは仕方のないことだ。


 それでも、二発とも不発になったにも関わらず、

 レシュリー・ライヴが悲観していないのはRe:ENCOREにもわかっていた。


 それどころか、


『Re:ENCORE>レシュリー・ライヴを止めろ!』


 違和感に背中を押されるようにRe:ENCOREは叫んでいた。


 何かが違う? 何が違う? 何が違う???



 必死にその違和感を探し始める。

 

『Re:ENCORE>早く!』

 

 見つけて叫んだ。自身もレシュリーへと走り出していた。

 けれどもう遅い。

 〈双腕〉であるレシュリー・ライヴが片手しか使ってなかった、などという違和感に今更気づいても遅い。

 レシュリーは片手間で【超合】していたのだ。


 【蘇生球】×【蘇生球】×回復錠剤


 救いたいという想いを込めてそれは生成される。


 【救命救球】。


 レシュリーの精神摩耗の相当なものだった。 

 【蘇生球】を四つ投げたうえに、摩耗の激しい【蘇生球】を【超合】に使用したのだ。

「あのバカ!」

 また無謀なことをした、とアリーが怒りを顕にしていた。

 いつものことだが度が過ぎているのだ。


 それでもレシュリーは止まらない。

 その度をさらに超える。

 

 【救命救球】×【救命救球】×精神安定剤


 先程作ったばかりの【救命救球】をさらに混ぜ合わせた。

 超ド級の度を超えた瞬間であった。

 成功しない可能性だってある。


 それでも、レシュリーは挑戦する。

 【蘇生球】で蘇生する可能性よりも、新しく技能を作り出す可能性のほうが高いのだから。


 そうして生成される。


 【蘇甦球】


 【蘇生球】と比べてどのぐらいの確率で生き返るのかは情報にはなかった。

 もちろん作った本人だって正確な確率を知らない。

 それでも予感があった。

 きっと生き返る。


 レシュリーは叫び立ち向かってきたRe:ENCOREを尻目に【蘇甦球】を投げ放つ。

 負荷に負荷を重ねて、救ってみせると希望を乗せて。


『Re:ENCORE>止める。僕が止めてみせる』


 レシュリー・ライヴの技能を擬態(コピー)したRe:ENCOREもまた【神速球】で立ち向かう。

 負荷に負荷を重ねて、止めて見せると絶望を見せつけるように。


 【蘇甦球】が希望となるか、絶望となるか――まだ分からなかった。

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