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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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終極迷宮編-12 奪命

【捕縛恤・蹣神装衣】によって、sourisの鎧は靄がかかったように蠢いていた。

 憐れみの闇がまるで彼を蜃気楼のようにぼかしていた。

 最下位からの成り上がり無双生活では闇を使用することで死者、敗者を憐れんだことで擬似的に神になると言い伝えられていた。

 それがこの力。欺瞞の神となる力だった。

 一時的に偽物の、贋作の神となり、全体的な能力を底上げる。

 アルルカの速度に対応し、アルルカの剣速を上回って、最初から上回っていた腕力がさらに強化されビッグベンダールがアルルカに襲来。【硬化】したタンタタンがミシミシミシと音を立てる。

 力任せの叩きつけにもともと脆い魔充剣では耐えきれないのだ。

 さすがに壊すわけにはいかない。折れてしまった魔充剣は、鍛冶屋でなければ流石に直せない。できるのは手入れ程度。

 とはいえ、魔充剣の予備がないのも事実だった。【蹣神装衣】したビッグベンダールにあと二回直撃すればもはや持たないだろう。

 初回突入特典には〔不壊属性付与〕も存在していた。そうすれば、通常の鍔迫り合いなどで【硬化】をしなくても魔充剣で打ち合うことも可能だったが、アルルカは選択しなかった。

 打ち合いに競り勝つのではなく、姉の技も使いたいと選択した〔夢の[亦/真]夢〕によって手数で勝つ。

 そう決めていた。

 大振りのビッグベンダールを回避。すんでで回避してアルルカには違和感があった。

 その違和感に心当たりがあったものの、sourisがビッグベンダールで追撃。

 転がるように必死に避けるが、間に合わず太ももを強打。錆びれていたのは僥倖か不幸か。

『ababa mite>あれは痛い』

『zangi lunch 290>想像したくない』

 切断されなかったものの、太ももは痣がわかるほど腫れていた。カジバの馬鹿力状態だからこそ骨折は免れたともいえる。

 痛みを我慢して、猫のように前に飛び出す。

 床板を弾き飛ばすほどの衝撃が背後から襲ってくる。そのまま態勢を崩して転がり勢いのまま立ち上がる。

 振り向けばそこにはビッグベンダールの凶刃が頭上にまで迫っていた。

 【硬化】したタンタタンで受ける、しかできなかった。

 ぎしぃ、り

 なんとか耐えるものの嫌な音がした。

 衝撃で床に足が埋まっていた。両手でタンタタンを支えたにも関わらずその衝撃に耐えられなかったのだ。

 だが、アルルカにはまだ手札が残っている。

 それが使えるのは、アルルカとsourisを襲いくる匕首全てをlaser scissorsが撃ち抜いているからだ。

 かなりの集中力だが、その集中ゆえまだ隙があるとアルルカは判断。

 自分の匕首十一本を全てsourisへと向かわせる。

『laser scissors>4つが限界よ!』

 分かっていたかのようにlaser scissorsのスピカから放たれた光速の弾丸がアルルカの匕首四つを撃ち落とす。

「行けぇえええええええええ」

 らしくない叫び。祈りを届けと言わんばかりに、残りの七本に全てをかける。

『souris>承知してるぜ』

 それはlaser scissorsへの返答だった。

『souris>【捕縛恤・無我鞭遊】』

 ぐるりと体を捻ってまるで体が鞭のように、一回転して匕首を跳ね飛ばす。

『souris>悪いな。手加減していたわけじゃないが、【捕縛恤】は全部同時に出すことだってできるんだぜ』

 それが違和感。

「ですよね」

 アルルカも気づいていた。

 わざとらしすぎるのだ。

 【捕縛恤・蹣神装衣】のあと、大振りのビッグベンダールから【捕縛恤・足手纒射】を放って捕まえることだってできたのにそれをしなかった。

 まるで同時に発動はできない、と言わんばかりに。

 だが、【操剣】もまた視線誘導できるのだ。

 とはいえ、防御しながらでは一本が限界。けれどその一本に全てをかけていた。

 そして、一本だからこそ、

『laser scissors>甘すぎるわよ、アルちゃん』

 読まれていた。

 心臓を狙っていることを。

 laser scissorsの射撃と、その読みは恐ろしすぎた。

 強化ができるアルルカとルルルカに対抗するのがsourisだが、彼の強化を持ってしてもどうしても彼は手数が少なく、強化状態の匕首は流石に防ぎきれない。そのため、パートナーとして選ばれたのがlaser scissorsだった。

 ゲーム自体に備わった補助機能は使用しているもの、その命中率は92%を超える。

 不正を疑われるためPvP系のFTSはもうやりたくないと疑似異世界転生というジャンルに逃げてきたという経歴を持つ彼女はそれでも疑似異世界転生で射撃という道を選択していた。

 その卓越した腕と優れた視線誘導、集中力が彼女の的確な射撃を実現させている。

 必死の一撃を読まれた。いや読まれてしまうことすら分からなければいけなかった。

 どことなくこのふたりよりも姉であるルルルカをどうにかしなければと焦っていたのかもしれない。

 強敵だ。

 今更ながらアルルカは認識を改める。

 【捕縛恤・無我鞭遊】で匕首を払い除けたあと、sourisは予想よりも軽快にアルルカの腹を蹴り、距離を取った。

 肩に背負うようにビッグベンタールを乗せると、腰を落とし構える。

 ビッグベンタールに憐れみの闇が集まっていくのが誰の目から見ても明らかだった。

『souris>【捕縛恤・龍々深苦】』

 立ち上がろうとするアルルカめがけて大きく跳躍。そのまま横に振りかぶる。

 闇が龍の口のように横からアルルカを捕食する。

 瞬間、飛び出してきたのはルルルカだった。


 それは誰しもの想定外。

 匕首を撃ち落としていたlaser scissorsも、アルルカを殺そうとしていたsourisも、避けきれないと反射的に折れてしまいそうな魔充剣で防御していたアルルカにも、そして作戦を立案していたRe:ENCOREにも読めなかった。

 ルルルカは気づいたのだ。

 次元違いの妹の顔を見たくなかったのは、自分が救えなかったという非からだった。

 そうしてまるで姉妹喧嘩するようにルルルカやレシュリーを攻撃していたのは、どことなく自分の次元の妹や憧れの人に許された、と思われたくなかったからだった。

 だからPCに加担するように次元違いのアルルカを狙っていた。

 それでもルルルカは気づいたのだ。

 誰かに妹をもう一度、殺されるのは何よりも許せない。

 同次元の妹を愛していたから、別次元の妹を憎んでいた。

 愛憎は裏表で、しかも一体だ。

 心理的にも嫌いな相手が突然好きになることだってある。

 自分のわがままでさっきまで殺したいと思っていたのに、今はこう思っていた。

 殺させない。

 今度こそ殺させない。

 殺させはしない。

 だから自分の匕首でlaser scissorsを欺いて、sourisとアルルカの間に飛び込んだ。

「姉さん!」

 悲痛なルルルカの声が消えゆく意識の中に響いていた。


『souris>マジか』 

『Adgk;>マジで?』

『candy store>マ?』

『gyangul bichi>どういうこと?』

『Black cat>ここに来て仲直り??』


 【捕縛恤・龍々深苦】の龍がごとく牙が、ルルルカの横腹をえぐり、一気に命を奪っていた。

 即死だった。

「姉さん! ねえさああああああああああああああん!」

 カジバの馬鹿力の効力が消え、元の髪色に戻ったアルルカは項垂れ絶叫した。

 アルルカはルルルカと敵対していても決して命は奪おうと思っていなかった。

 きっと仲直りできる、そう思っていた。

 思っていたのに。


 アルルカにとって二度目の喪失。もう二度と味わいたくない気持ちだった。


 『souris>情けは無用だ』


 振りかぶったビッグベンタールをもう避ける気にはならなかった。喪失感がそうさせていた。


 けれど、


 涙目の中にまるで光のように、人影が映る。


「まだだ」


 蜘蛛の巣の迷宮を駆け抜けて、その英雄はやってくる。


 レシュリー・ライヴだ。


 それだけでルルルカを奮い立たせる。


「僕がいる。もう二度と彼女を失いたくはない」

 

 レシュリーとて同じなのだ。

 ヤマタノオロチの特性に気づけていれば、ルルルカの手助けができた。

 手助けができなかったせいで、ルルルカは耐えきれない力を使ってでもヤマタノオロチを倒したのだ。

 そう決意ししてしまったのだ。


 だからこそ、助ける。


 もう二度と殺させはしない。


 後悔がレシュリーを突き動かす。


 助けれない人はたくさんいた。


 だからこそ、


 「僕が、ルルルカを助けてみせる」


 言い放った。

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