終極迷宮編-11 憐闇
「そんな効果もあるのか」
レシュリーは感心する。
「アルルカはお姉さんを頼む」
ルルルカは相変わらずレシュリーたちと敵対している。
この部屋に入ってすぐ距離をとってこちらに牙を向けている。
地下に潜るにつれ、敵が強力になっていくが、レシュリーたちが<10th>のルルルカに初めて会う前、姉さんはああいう意固地さを持っていたとアルルカは懐かしげに口元を緩めていた。
あの意固地さもルルルカ・エウレカの個性なのだろう。
なにかきっかけがあれば、たぶん姉さんとも和解できる。この階層に来るまでに語ったアルルカは、なんであれルルルカという姉を信じていた。
この階層でもルルルカの相手はアルルカだ。
「コジロウは辿り着けそう?」
「あの蜘蛛をどうにかしないと無理そうでござるな」
ただ、そんなふたりもPCの脅威は迫る。
異形の蜘蛛は彼女らふたりを孤立させるように巣を張っていた。
そこに現れたのが……
『laser scissors>ここまでは予定通りね』
『souris>あとはあのNPCがどう動くかだな』
『laser scissors>ルルちゃんね』
『souris>ルル……? まあ、なんだ。その通りだ』
誰のことか一瞬迷ったsourisだったがlaser scissorsがルルルカを見ているのをみて理解する。
NPCのルルルカがまだ敵対しているのはRe:ENCOREたちにとってはありがたいことだった。
この階層に来る前に和解していたら、準備していたものが大幅にずれてしまう。
アルルカはsouris“たち”に任せる。
Re:ENCOREに言われた言葉を思い出す。
『souris>行くぞ。支援は頼む』
『laser scissors>任せて』
sourisはアルルカとルルルカの戦闘に横槍を入れるように突撃していく。
十一本の匕首と百十一本の匕首が入り乱れる戦いの様子を以前、動画を見ていたsourisは少し恐れおののく。
百十一本もの匕首を十一本の匕首が圧倒している。
それでも……やってやるよ。
意を決して飛び込んでいく。
ルルルカとアルルカ、両者の匕首が血で錆びれた彼の黒鎧と黒兜にぶつかるがびくともしない。
すべてを弾き飛ばした彼の姿は彼を知っているものなら、畏怖を覚えて当然だった。
とはいえ、彼を知らないふたりはそう思うことはない。
「邪魔なのね」
『souris>おう。邪魔するぜ』
とはいえ、sourisはルルルカを攻撃するつもりはない。あくまで狙いはアルルカ。
レシュリーがコジロウ、アリー、そしてアルルカとの連携を得意とするなら、このアルルカという少女は、単独でも相当な強さを持っている。
それほどまでに恵まれた才覚なのだ。下手をすれば個人的な戦闘力は、ここにいる中で一番高い。
だからこそ、自分に声がかかったのだろう。
Re:ENCOREからの勧誘は飽いていた自分には都合が良かった。データが消えるというリスクはあるがサブ垢(同じゲームで違うキャラクター)を持っている人間は少なくない。
sourisもそうだった。
だからそのリスクは恐れずにsourisはアルルカに向かっていく。
持っているのは大剣。
かつてそれを振り回している主人公に憧れたから使っている。理由はシンプル。
それを盾のように構えて、アルルカへと突撃。
跳躍して躱そうとしたアルルカへと振り上げて、切り上げ。
それを魔充剣タンタタンで弾き、その反動でさらに跳躍。
『souris>【硬化】か』
もしかしたら叩き折れると判断していたsourisだが、やはりそう上手くはいかない。
『souris>【捕縛恤・足手纒射】』
避けられたのを見て、すぐに発動。持っている大剣、暗黒大剣ビッグベンダール。こちらももはや切れ味がない血で錆びた黒剣が闇に覆われていく。
最下位からの成り上がり無双生活は、最下層から塔の上層を目指して戦い抜いてい疑似異世界転生物である。その上層を目指すも半ば死んだ者たちの憐れみが闇となった。それこそが黒剣を覆った闇の正体、憐れみの闇であった。
その闇がビッグベンダールから伸び、逃げ切れたはずのアルルカの足を絡め取り地面へと叩きつける。
「くっ!」
受け身を咄嗟に取ったアルルカだったが、集中していた意識が途切れて、操っていた匕首が一時的操作不能。
何度も何度も叩きつけられるアルルカを狙って、sourisごとルルルカの匕首が殺到。
『souris>効くかよ!』
『laser scissors>油断しないで! 様子がおかしい』
ひとりで圧倒していたため、laser scissorsはルルルカの様子を窺っていた。
アルルカの匕首が操作不能になったために、総攻撃をしかけたルルルカだったがその髪の毛の色は水色に染まっており、うっすらと淡い闘気のようなものが見えていた。
『mibabar>噂に聞くあれか』
『Adgk;>あれだな。よもや見れるとは』
『candy store>あれってなんです?』
『Adgk;>なんにもしらないんだな、お前』
『ababa mite>何も知らないほうが楽しめません?』
『D・kucudo>○○・エウレカって人が使える特殊能力だろ。昔、使ったNPCがいてチート、チート、言うてたね』
『Adgk;>そうだ。あれに苦戦して俺は転生を諦めた』
『candy store>うそっぽ』
『Black cat>まあまあ。とりあえず未定要素』
『Black cat>ミス。見ていようよ』
『candy store>未定要素、草www』
動画の閲覧者が言うようにそれはエウレカ一族だけが使える能力だった。
カジバの馬鹿力。
ランク7未満で使用すれば命すら落とすその技はすでにランク7に至ったアルルカ、ルルルカならば使用後、絶命せずに扱える。
とはいえ、使用後は途方もなく疲労困憊し精神摩耗も激しい。
それをルルルカは好機と見て使用した。
『laser scissors>軌道計測終了。行って!!』
今までの匕首ではない、そう判断したlaser scissorsの魔法銃ピナカが火を吹く。魔法の世界で銃技師無双の魔法銃技師である彼女は魔法銃の装填された球の魔法属性と弾道を自在に設定することができた。
視線誘導が優れていた彼女は疑似異世界転生FPSである魔法の世界で銃技師無双の世界でトッププレイヤーになった。
そんな彼女はピナカから発射されたひとつの魔法弾を発射後に複数の弾丸に分散。その数、百十一。それら全てを補助眼鏡の力を借りつつ、sourisに迫る匕首に向けて視線で誘導させていく。
『laser scissors>全部は無理だったわ。やっぱりさっきまでのじゃない!』
計算通りならば、百十一発に分かれた弾丸で全てを弾き飛ばせたはずだった。だからこその警告。
『souris>承知。【捕縛恤・無我鞭遊】』
ビッグベンダールから発せられる憐れみの闇がsourisに向かっていた匕首全てを弾き飛ばそうとするが、そのうち一本の匕首だけがsourisの漆黒の鎧を貫いていた。
『souris>確かにさっきのとは違うな』
先程までなら突き刺さらなかった。
『laser scissors>妹さんを倒せるならルルちゃん、こっち諸共って感じだわ』
『souris>関係ない。いけるだろ』
『laser scissors>油断しないで、アルちゃんのほうが向かってきてるわ』
『souris>分かってる!』
とはいえsourisは油断していた。先程までのアルルカだと思っていたのだ。
髪の色を見て気づく。
こちらも水色。カジバの馬鹿力を発動していた。タンタタンを危うくながら回避。
『souris>Re:ENCOREもこれを見越していたと思うか?』
『laser scissors>たぶんね』
『souris>これ俺じゃなきゃ対応できないもんなあ』
『laser scissors>そういうこと。援護はするからお願いね』
まるで緊張を解すような会話をして、sourisが憐れみの闇に覆われていく。
『souris>【捕縛恤・蹣神装衣】』
最下位からの成り上がり無双生活という疑似異世界転生オンラインRPGの暗黒剣闘士である彼の真骨頂こそがこれだった。
強化には強化を。
なにかの教典のようにRe:ENCOREは対策をきちんと講じていた。




