終極迷宮編-10 蛛弓
3日目。
Re:ENCOREの推測通り終極迷宮30000000階への突入許可が出た。
「では行ってきます」
Re:ENCOREは動画でそう告げると、それまでに紹介していた仲間4人と終極迷宮へと突入していった。
[終極迷宮 30000000階]
Re:ENCORE<ENCORE V>
бeper aд<防装女師はくっつかない>
yoshitaro iida<陰気逃走>
laser scissors<魔法の世界で銃技師無双>
souris<最下位からの成り上がり無双生活>
VS
レシュリー・ライヴ<10th>
アリテイシア・マーティン<10th>
コジロウ・イサキ<10th>
アルルカ・エウレカ<10th>
ルルルカ・エウレカ<3rd>
突入準備が始まるとPC側のみ、一定の情報が表示される。
突入するPCと敵対するNPCの名前程度だが、NPC側の情報はこれまでの戦いで取得してあるため、
職業が表示されていなくても名前だけでどんな職業なのか判別できる。
Re:ENCOREは5人のNPCの名前を見て安堵する。
この5人が来るであろうと推測して、他の仲間を集めたのだ。
もちろん無理強いしたわけではない、他の仲間たちもそれぞれの事情などもあってこの戦いを承諾してくれたのだ。
〘――Ready?――〙
問われてRe:ENCOREは意志を持って強く頷く。AI認識が反応。
〘――GO!!――〙
周囲が白に埋め尽くされていき、引き込まれるようなぞぞぞぞぞっという悪寒が深く深くRe:ENCOREを終極迷宮へと誘った。
目を開ければそこは終極迷宮。五人のNPCが待ち構えていた。
主導権はこちら。こちらが準備をして動き出さなければNPCは動き出せない。
一方でこの準備をぐずぐずすれば、NPCに観察の時間を与えてしまう。
特にレシュリー・ライヴはその手の観察眼に優れているのが今までの戦いの記録で見と取れた。
『Re:ENCORE>準備を』
準備は手早く。そのための準備を前もってしてきているのだ。
なんの変哲もないただの少年のようにも少女のようにも見えるRe:ENCOREの言葉に呼応して、各々が打ち合わせ通りに準備を進めていく。
『бeper aд>凝集!』
提督のような姿をしていた少年のその言葉に反応して傍らにいた少女が身につけていたものが少年に装着され、少 女自体はбeper aдの後ろへと半透明になって移動。あたかも背後霊だった。
『yoshitaro iida>こっちもチャージ完了。開始と同時に放つよ』
そう語るのは弓矢と蜘蛛が混ざったような異形の姿をしているPCだった。体内を貫通している弓が急激に引き絞られているのがわかる。
『laser scissors>こっちもいけるわよ』
銃を握りしめた少女もそう告げる。彼女のゴーグルには様々な弾道の種類が浮かび上がっていた。
『souris>準備? そんなものないね』
クールに告げた青年の外装はすべて黒ずくめの鎧。けれどその黒鎧はすべて血で錆びていた。それだけで歴戦の猛者を伺わせる。
『Re:ENCORE>ではカウントを!』
『бeper aд>4!』
『yoshitaro iida>3』
『laser scissors>2』
『souris>1』
PCのカウントダウンとともに、動画を見ているPCたちもカウントダウンを合わせる。
迷宮内と外でありえないほどの活気を見せていた。
『Re:ENCORE>GO!!!!!!!!!!!!!!!!』
戦闘が始まる。
規定の位置から動き出したことで、レシュリー・ライヴたちの動作も許可される。
先手は準備をしていた異形の蜘蛛yoshitaro iidaだった。
引き絞られた弓から展開するのは幾重にも分散する蜘蛛の巣だ。
まずはコジロウの動きを封じる。
彼らが事前に打ち合わせた際に共通していた項目がそれだった。
レシュリー・ライヴの投球に、コジロウの撹乱が合わさると何もできない事例が何件もあった。
それを防ぐ一手が、yoshitaro iidaだった。
転生したら異生物になってたので逆恨みして虐殺した件。
陰気逃走を一言で言い表すならこうだろうか。
ただスライムやドラゴンなどの異生物と、yoshitaro iidaが冒険していた疑似異世界転生世界<陰気逃走>の異生物は定義が異なる。
<陰気逃走>の異生物は武器や防具と虫や植物が組み合わさりできている。
斧とトマトを組み合わせた苫東斧、三叉とテントウムシを組み合わせた三叉天道虫然り、その選択した組み合わせが組み合ってさえいればあとは創作自由。
創作した部分で追加の能力が決定される仕様で疑似異世界転生した後は魔王軍となり、身勝手に転生させられたのに異生物になってしまった恨みでその異世界に住む人々を虐殺していく。
そんな疑似異世界転生虐殺アクション<陰気逃走>のトッププレイヤーがyoshitaro iidaだった。
なお、本名ではない。
そういう名前なのに異生物で虐殺していたら面白くない? トッププレイヤーのインタビューの際にyoshitaro iidaは言い放った。
彼が擬似異世界転生で作り出したのは異生物様式:蜘蛛巣弓銃。
蜘蛛とクロスボウガンをかけあわせた異生物だった。
その彼のクロスボウガンから発射されたのは蜘蛛の巣だった。
『candy store>それ、レシュリーのやつのパクリやんwww』
閲覧者が書き込む。あたかも自分がそれを発見して指摘した警察のように。
『Adgk;>分かってないなら黙ってみとけ。陰気逃走の蜘蛛の攻撃は、レシュリーの【蜘蛛巣球】とは一味もふた味も違う。そもそも、【蜘蛛巣球】ってのはな、』
『Black cat>長いから。黙ってみてればいいって』
発射された蜘蛛の巣は空中で停止、はたまた地面に設置、そこかしこまるで闘技場だったその光景を蜘蛛の巣の迷路に変えていく。
もちろん、がちがちの迷路ではなく適度な広さがあり、蜘蛛の巣だが遮蔽物もある。
「コジロウ、触らないほうがいい」
地面を、はたまた壁を蹴り加速するコジロウにレシュリーが注意喚起。
レシュリーの【蜘蛛巣球】もくっつける性質があるが、それと同様の性質は持っていると判断。
『yoshitaro iida>けどそれだけじゃない!』
yoshitaro iidaはその蜘蛛の巣へと足をかける。彼こそがその巣の王なのだ。
レシュリーたちの頭上へと貼り付けた蜘蛛の巣へと後ろから射出された糸が繋がり、一気に上空を制する。
壁を足蹴に加速すれば届く距離のようにも見えるが。巧妙に外壁から届かせないように蜘蛛の巣の壁ができている。
「僕が遠距離でやるよ。みんなは他を」
とはいえコジロウは慎重になってしまう。加速しすぎて蜘蛛の巣にぶつかれば一瞬で捕まる。
何も使わずに向きを変えるにはまだ熟練度が足りなさすぎた。
レシュリーが観察がてらに【火炎球】を投げ放った。
『Black cat>あ、悪手』
『Adgk;>効果がひとつしかない。対して、陰気蜘蛛は見た目は同じなのに効果は特殊。そして逃げる側からは判断不要なんだよ』
『Black cat>見ればわかるよ』
投げ放った【火炎球】は蜘蛛の巣を徐々に燃やしていくと思われた。
だがそうではなかった。
yoshitaro iidaが自らを守るように構築した蜘蛛の巣は不燃、それどころかその炎を利用して蜘蛛の炎巣へとその場の巣を変貌させる。
レシュリーの試しの一手が蜘蛛の巣を変貌させたことになる。
『mibabar>蜘蛛の巣はコジロウ対策って言ってたけれど、レシュリーの投球対策でもあるわけか』
これは勝てるかもしれない、という手順作りに閲覧者たちは興奮し始めていた。




