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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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終極迷宮編-8 継続

「ふざけんななの!」

 勝利して、次の階層に移動した途端、殺意ととともに数本の匕首が飛んでくる。

「姉さん、もうやめて」

 何度そう言っただろうか。レシュリーたちを守るように弾いて、ルルルカは訴える。

 何度そう言っても、ルルルカにはアルルカの言葉は届かない。

 ルルルカにとって目の前のアルルカはそしてそんなやりとりの間、視界に映るレシュリーですら、別次元の、精巧に作られた偽物のような存在なのだ。

 けれどそれは本物。ルルルカだってこの終極迷宮に入って、世界の仕組みを知ったとき、その可能性を考えた。

 会えるかもしれない、別次元の、自分の次元のではない、ルルルカに、レシュリーに。

 僅かな希望は潜っていくうちに潰えた。

 レシュリーもルルルカもいない。それどころか他の次元の冒険者の話では、自分の次元ではすでに死んでいる、とも聞かされた。

 南の島の戦いで命を落としたとも、ユグドラ・シィルの毒素の戦いで消滅したとも聞かされた。

 自分の次元が一番レシュリーたちが生きていた次元だったのかもしれない。

 そう思えば思うほど力足らずで救えなかった自分が惨めに思えた。

 もうレシュリーもルルルカもどの次元にもいないのだ。

 そう思って数年。

 ぴょい、とふたりが現れた。

 それだけでルルルカの心は壊れた。

 しかも自分だけが死んだ次元で、レシュリーは生き、ルルルカも生きている。

 それが納得がいかなかった。

 それを分かっているか分かっていないのか、同じ次元に生きた仲間のように、接してくるのが許せなかった。

 いや羨ましかった。

 だからこそルルルカは怒っているのだ。

「もう放っておいてなの!」

 全部の匕首を弾かれたルルルカはまるで駄々をこねてお願いを聞いてもらえなかった幼子のように、逃げ出して次の階層へと下りていく。

「待って姉さん」

 追いかけるようにアルルカも下りていく。

「僕たちも……」

 追いかけようと促そうとしたところで

「待って。レシュリー。時間!」

 終極迷宮のところどころにある時間が、予想外の時間を指していた。

「半年……過ぎてる!」

「先程の戦いが予想外に時間経過する階層だったみたいでござるな」

「どうする?」

「どうするも何も、あの子は下に行っちゃったわよ。それにコジロウの例の件もまだ調べてない」

「半年で探す予定でござったが、さすがに上手くはいかなかったでござるな」

「そうだね。半年で帰るとは行ったけど、何もかも決着をつけないと。放ってはおけないね」

 予定を繰り下げてレシュリーたちもまた階層を下っていく。

 世界が窮地に陥っていてもなお、英雄を求めていてもなお、

 それを知らない彼らは次元の違う姉妹を救うため、地下深く潜っていく。

 

 ***


『異世界転生はじめました』  

 まるでラーメン屋が冷やし中華を始めたようにPCの世界でその言葉が爆発的に増えたのは、異世界がある、と判明してからだった。

 正確には異世界は8Gのインターネットを介することでゲームと繋げることができ、そのゲームのキャラクターとして異世界へと入り込むことが可能だった。

 自身を包み込みプログラムさせるカプセル装置に入り、そこで自分をデータ化、キャラクターと同化することで異世界転生することが可能となった。

 さらに異世界研究は進み、異世界は自動で成長し、ある程度の侵入者を阻むことも判明した。

 言うなれば難易度。そしてこの難易度が特Sに設定されたのがtenthと呼ばれる異世界だった。もともとはC程度だったが、PC世界における異世界転生法が定まってない頃に10次元あったうちの2つが蹂躙されたことで爆発的に難易度が上がり、特Sに定められてから、誰一人として異世界転生に成功していない。

 難易度は難しいが、挑戦者は絶えなかった。

 Re:sporterチームのSNSが炎上するなか、チャンスは自分で作るものだと数十年間育て続けた自分のキャラクターを投入して一世一代の大勝負に出ようとしている若者がいた。

「突入」

 その若者がレシュリーの初回突入特典がなんであるのか、暴くのに一役買うのを、今はどちらの世界の誰も知らない。

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