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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-9 奥義


***


「動き出した、でありまするな」

 サスガ・マツダイラが雲を眺めながら呟く。

「ああ、ようやくだァ。ようやくぶっ潰せるゥ」

 その隣、ディエゴは嬉々とした声だった。ようやくこれで自分の目的が果たせる、と。

 ディエゴの右腕は義手をはめていた。再生しない、という約束はきちんと守られている。

「とはいえ、トワイライトとの連絡は不通でありまするし、他のふたりも身勝手に動いているでありまするよ」

「関係ねぇ。あいつらだって目的は違わない」

「まあ、そうでありまするなあ。でまずはどうするでありまするか?」

「いきなりキングを、って言いたいところだがァ。厄介な事態になった」

「リアン嬢のことでありまするか?」

「ああ。どうしてクイーンの近くにいやがんだよ」

「それを回避するつもりだったのならば、最初から空中庭園に行くな、と告げておくべきでありましたな」

 苦言を呈した後、サスガは続ける。「だからまずは空中庭園でするか?」

 ふたりは空中庭園へ向かう飛空艇に乗っていた。

「ああ。まずはクイーンを倒す。つかそれよりもジャックはキングを狙っているっていう情報は本当なんだろうなァ?」

「エンドコンテンツの情報を信じれば、でするな。直前の情報でするため、信憑性は高いという判断でするな」

「そうかよ。まあ、何があったのかは知らねぇが同士討ちしてくれるなら都合はいい」

「目下の課題はこれでござるな」

 飛空艇から見えているのは空中庭園を覆う荊。

 この荊棘をどうにかしなければ空中庭園へは侵入できない。

 周囲には、複数の飛空艇が浮かんでいた。

「てめぇならどう対応する?」

「それを某に聞くのでするか。ただ、斬るだけでする」

「だろうな。じゃあ、頼んだ」

 素っ気なくディエゴは言う。

「俺も手伝ってやりたいが、〈炎質〉の嬢さんがどっかの飛空艇にいるらしい。見られてもいいが、余計な問答は避けてぇ」

「まあ良いでするよ。某も故郷の危機、早く駆けつけたいのも真実でする。それにトワイライト殿も連絡が途絶えたのは空中庭園でする。転倒童子の復活もエンドコンテンツの情報に記載があったでするからな、庭園には迅速に入る必要があるでする」

「だから、頼んだ。と言っている」

「ちなみにこれの正体については気づいているでするか?」

「たりめぇだろ。とっとと殺してやれよ」

 この荊棘が何なのか、ディエゴはとっくに察していた。

 察したうえで、殺して救ってやれとサスガに命令を下した。

「承知でする」

 腰に下げた刀の柄に手をかけ、サスガは空中へと飛び出していく。

「奥義」

 鞘から刀、大業物〔明鏡シスイ〕を流れるように抜く。

 サスガ・マツダイラは侍師である。

 特別職にして上級職のその職業は一言で言えば攻撃力特化。

 【分析】によって数値化すると、その殆どを力につぎ込んでいた。

 その特化された力を十全に注ぎ込む技能。

 それが侍師専用の技能、奥義。

 奥義は剣技とは異なり、形式と言うならば走技に似ている。

 一振り、一振りが技能だ。

 走技は当然、足技が主体。奥義は刀を用いるが、それは当たり前の差異。

 決定的な違いは、横薙ぎだろうが縦斬りだろうがどう振るおうが、一振り目であれば呼び名は同じということだ。

 まずは抜いて一振り。

 【寒星(かんせい)歩兵(ふひょう)】。

 まるで小枝をしならせるように力を入れず、鞘から振り抜いた一振り目。それが目の前の荊棘をいとも容易く切り裂いた。

 侵入口としてならそれで事足りる。

 がディエゴは言った。「とっとと殺してやれ」と。

 だからこそ続けてサスガは振るう。

 二振り目は横斬りの【疎星(そせい)変狸(へんり)】。三振り目は縦斬りの【金星(きんせい)驢馬(ろば)】。闘気が衝撃波となり、荊をバラバラに斬っていく。

 まだ終わらない。

 斬って斬って斬っていく。

 十振り目。【彗星・孔雀】。刀の闘気は肥大し巨大化している。

 振るえば振るうほど、その一撃の威力は増していた。

 他の飛空艇に乗っていた冒険者たちもそこにいたシャアナも唖然としていた。

 その十振り目で空を覆っていた荊棘はほぼ消失していた。

 あとは空中庭園の大地を覆う荊棘だけになっていた。

「救ってやれ。でするな」

 ため息一つ。この荊棘の根本が何であるかサスガも分かっている。

 そのディエゴの言葉は受け売りだった。

 ディエゴもまたディオレスに影響を受けた人物だった。

 改造の犠牲者を救う。救うために殺す。

 サスガもそれに逆らうつもりはない。

 けれど犠牲者を殺すことが救うことになるとは思えない。

 サスガはレシュリー寄りの思考を持っていた。

 しかし躊躇うこと、迷うことはなかった。

 十一振り目。【渓月(けいづき)麒麟(きりん)

 それは光速の突きだった。

 向かっていくのは雅京の頂点。塔京。

 クイーンが座っていた改造者で形成された椅子だった。

 一突き。けれどそれは十一振り目の奥義。威力が増大され続けていった、まさに奥義とも呼べる一突きだった。

 貫かれ、特製の椅子は緩やかに死を迎えた。

 偶然、クイーンがいなかったのは果たして偶然だったのだろうか。

 抵抗もなにもない、ただクイーンがお気に入りの家具にするために良いように改造した者たちだった。

 それでも誤算がひとつ。

「危なかったなァ」

 その誤算になんとか対応したディエゴとサスガは空中庭園の大地に降り立つ。

「死んだら、死んだでその生命を糧に荊を再生させるとはなんともクイーンらしい意地悪さだ」

「ただ、出るのが難しいとなると増援は見込めないでするな」

「見込むつもりだったのか」

「手伝いは多い方にこしたことはないでする」

「はっ。随分と弱気だな。俺がいる。お前がいる。トワイライトもここのどっかにいる。余裕だろ」

「ディエゴ殿が負けた子が、こちらに来ていれば戦力になったでするが、彼らはどうしているか分かるでするか?」

「知るかよ。俺とあいつじゃまず階層が違う。大方ァ、なにかあったんだろォ。エンドコンテンツは想定外の想定外と闘う場所だ。死ぬタマには見えなかったが、それでも死ぬことだってある」

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