沁情切札編-5 死刃
まるで力を誇示するようにベベジーはパレコたちと対峙し、そしてパレコ以外の冒険者を圧倒的な力で倒した今、まるで優越感に浸るように対面していた。
半年前まではおそらくベベジーが劣等生でパレコたちが優等生だった。
けれど情勢が変わり、世界が変わり、環境が変わり、立場は逆転した。
今や努力をすることこそがおかしな世界に成り変わっていた。
戦闘によって経験を積む努力、何度も同じ技を使って熟練度を上げる努力。
それらはもはや不要とベベジーは主張した。
今必要なのはいかに早くDLCを使っていかに早くレベルを上げて、いかに早くランクを上げるか。
ニヒードが常に供給してくれるという特権を得たベベジー他、王の配下はその必要な工程をいつでも行える立場にいた。
その立場をもってベベジーはパレコを追いつめていた。
未熟な太刀筋、危ない立ち回りがベベジーには何度もあった。
パレコ自身が隙を見せてしまったこともあったのにベベジーはそこを詰めて好機としなかった。
そんな未熟さがあるにも関わらずベベジーのほうが圧倒的優勢。
レベル差だけでない、勢いのような何かをベベジーは持っていた。
それらがパレコの今までの経験の上を行く。
パレコはあれに似ていると思い出す。
自分が不釣り合いな簡単な依頼を請け負って、自分に見合ってない弱い魔物を倒すときのようだと。
あのとき、パレコは技能を使わず力業で魔物を倒し切った。
経験を積んだ技能などいらないと言わんばかりに。
ベベジーもそれだ、パレコを時代遅れの弱者だと本能で感じ取っているのだ。
だから多少危ない立ち回りでも難なく倒せると分かっているのだ。
屈辱だった。
危なげなさがありながらも余裕があるように見えるペペジーに足してパレコ自身は必死だった。
余裕などない。
生き残るために必死。
今まで積み上げてきた経験を否定されないために必死だった。
ここまで到達するために何年も苦労してきた。
その苦労をベベジーは数百錠の薬を飲むだけで追い越した。
時代の潮流を否定するように、頑なに飲まなかったのはパレコ自身だ。
飲んでしまえば今までの自分を否定してしまいそうだったから。
その結果、パレコにいよいよとうとうベベジーの凶刃が到達する。
「死ねっ!」
胸にまで到達した凶刃は確かに言葉通り死を意味していた。
が一筋縄では終わらせはしない。
今まで積み上げてきたものがあったからこそパレコにとっては大いなる一撃だった。
【瞬閃】。
流派に属さなくても全ての剣士が使える剣技。
パレコが密かに研鑽を続けてきた熟練の技能。
それがパレコの絶命寸前にベベジーの左腕を斬り飛ばす。
癒術によって治療すれば切断された腕は修復可能だ。
だからベベジーにとってみれば窮鼠が猫を噛む未満の些事でしかない。
仮にも名も知れた冒険者であるパレコにその程度の評価しかできないベベジーは、どんなに強くなってもベベジーでしかないことを証明していた。
パレコの最期の一撃はベベジーという冒険者の格を確かに示していた。
***
一方で超新生デンジャラスベジタブルは壊滅の危機にあった。
とりあえずベベジーの配下の彼らもまた別の旧世代の冒険者を襲うように指示されていた。
相手は旧世代のひとり。よぼよぼのじじい。こっちは同じランク4でもレベルは上限値。しかも四人がかり。負けるはずがないと高を括った。
昨今のランク4界隈で有名なβ時代から生きる老獪。
ゲン・ミナクモ。
レシュリー・ライヴたちが消えた半年間でようやくランク3から4になったゲンは、β時代にランク3になって以来、今の今までランク3のまま生きていた。
それは超新生デンジャラスベジタブルたち第ⅶ世代から見れば、完全なる旧世代、時代遅れでしかない。
実力のある自分たちが討伐するにはうってつけだと考えたのだ。
「クソジジイが」
対峙した結果、一瞬で感電させれたオ・レンジィが死に間際にぼやく。
驚くべくほどの技のキレだった。
有名な集配社が建て直しを練っている今、情報の伝達速度は遅い。
もしゲンに挑む冒険者と彼の情報を知る集配員が出会っていれば、きっとこう警告していただろう。
「彼には近づくな」
ランク3であった頃のゲンでもその警告は変わらない。
数少ない死刃流の使い手。
たった四種類しかない死刃流だが、伝承者たちは口々に言う。
「死刃とは四神である」と。
オ・レンジィ他ふたりの死を見たアップ・ルルーは怖気づく。
上段に刀を構えるゲンの後ろに火の鳥を見えた。
幻影、ではなかった。ゲンから迸る闘気がそれを象っていた。
アップは後ずさる。
その火の鳥からも火花のように飛び散る闘気が、あたかも生きているかのように踊っていた。
「【死刃流・――
冷たく鋭く、厳格な声が周囲に響く。
その場に斃れる三人の冒険者の死体の凄惨なさまに風も恐れをなしてか吹くのをやめていた。
ただただ無音の風情に、えんえんと、あるいは炎々と闘気の火の鳥が生命を輝かせていく。
――朱雀】」
振り下ろされると同時に火の鳥がアップの身体を包み込む。
「うわああああああああああああああああ」
叫ぶことしかできなかった。
三人が死んだ時点でアップの戦意はとっくに失われていた。同ランク、レベルも下の相手に恐れをなしていた。
ゲンに慈悲はない。
もとより襲ってきたのは超新生デンジャラスベジタブルのほうだ。
一瞬にしてアップは焼殺された。
死刃とは四神である。
けれどその四神は死を齎す。
β時代から死刃流を使い続けているゲンの刃はすでに必殺の刃に変貌していた。
もし目撃者がいたら、ゲンの姿に震えあがったことだろう。
全員が一太刀でやられていた。
ゆらりと柳のようにゲンはその場を去っていくなか、気まぐれに親指で錠剤を弾いて口で入れた。
それはDLC『経験上昇』だった。
超新生デンジャラスベジタブルたちの情報収集の脆弱さが露呈していた。
情報弱者である彼らはそもそもランク3だったゲンがランク4になった理由がこのDLCにあることを知らない。
ゲンはレベル上げには興味がなく、手早くレベルが上がるのならばと簡単にDLCに手を出していた。
技能を極めることには拘るがレベル上げにはまったく興味がなかったため、変なプライドなど毛頭ないのだ。もっともゲンの頭には毛など残ってなかったが。
ともかく、そういう理由でゲンは旧世代ではなく、ある意味でDLCを使う第ⅶ世代とも呼べた。
それを知りも知らない無残な死体がその場に虚しく置き去りにされていた。




