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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
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暗躍

 15


『やあ。まだ生きているかな、ブラッジーニ・ガルベー?』

 拘束されたブラッジーニ・ガルベーに声が届いた。

 救出者が現れたわけではなかった。

 いつの間にか置いてあった、それとも元から置いてあったのか、机の上の電波(レパシー)送受信機(フォン)から声が流れてくる。

「よう。クソまみれ。お前が全ての黒幕なのか?」

 その声が誰の声なのか理解したブラッジーニは悪態を吐く。

『だとしたらどうする気かね?』

「馬糞でも食わせてやりたい気分だ」

『相変わらず口が悪い』

「そういうテメェは性格が悪い」

『私たち、[十本指ザ・ゴールデンフィンガー]はそういうものだろう? 一本指(ファーストサム)は最強のふりをした死にたがり屋。二本指(セカンドインデックス)は極度のブラコンで三本指(サードミドル)四本指(フォースリング)は誰かに依存しなければ生きていけない落ちこぼれ。愛に気づかぬ間抜け弱虫の六本指(シックスサム)七本指(セブンスインデックス)は死にぞこないの嘘吐きシスコン。八本指(エイスミドル)は正義面した弱虫の嫉妬狂い。九本指(ナインスリング)は素直に言葉にできない不器用女、十本指(テンスリトル)は歪んだ愛しか提供できない臆病者だろう』

「おいおい、性格が破綻していて情報が全てだと思い込んでる五本指(フィフスリトル)が抜けてるぞ」

『それは失敬。しかし五本指(フィフスリトル)はまだまともなほうですよ』

「自画自賛はよしてくれよ、反吐どころか血反吐が出る。情報ジャンキーのクソまみれが。さっさと用件を言えよ。何が目的だ? どうして竜殺し(ドラゴンスレイヤー)を唆して私を誘拐させたんだ? この薄汚い蛆虫さんよ」

『私は全ての情報を把握したい。ただそれだけですよ。なのに死者の名を刻むあの樹は、私よりも早く死者の情報を入手し、挙句、その恩恵を受ける鍛冶屋は私よりも早く死者の情報を消す。ゆえに私は憎い。この街が私は憎い』

 その声には怒気が含まれているようにブラッジーニには聞こえた。

 けれど同時に、くだらないと吐き捨てる。

『今、お前はこの街で何が起きているか分かりますか、ブラッジーニ? この街は、ユグドラ・シィルは四匹のリンドブルムに襲われた挙句、アジ・ダハーカにも襲われているのですよ』

「どういうことだ?」

『どうもこうも、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)がこの街にいると、私が教えてあげたのですよ。ついでに竜討伐愛好家にもアジ・ダハーカが来ると教えてあげました。あいつらは情報を乞うばかりで情報を与えてくれない。不利益ですからね、ここらでお別れしようと思っています。未熟な奴らはきっと全滅してくれます』

「お前、相変わらずグズだな。だが、どうして竜殺し(ドラゴンスレイヤー)はタイミング良くここを選んだ? ここを選ぶ理由はなんだ?」

『冒険者の共同墓地からここは一番近い街。近々、彼にとって大事な人の命日を迎える。彼はその日までに最強の魔物(モンスター)を倒し、最強になったと彼女に宣言したかったのですよ。だから私が唆した途端、あなたを誘拐してこの街へ来た。さらに私が竜族を唆したのです』

「ハハハ、なるほど。だからアジ・ダハーカもいるってわけか。ついでに私が死に解放された毒素たちがこの街の蹂躙し、セフィロトの樹を崩壊へと導く。そういう道筋(シナリオ)か」

『その通り。その通りですよ、ブラッジーニ』

「だが、それは無理だ。バカだろ。考えろ」

『そんな言葉に惑わされるとでも? それよりも、なぜ私が今、あなたとこうして話しているか分かりますか?』

「冥土の土産に自分の計画を教えてやろうっていうわけでもないのだろう?」

『その通りです。ところでもう限界が近いのでしょう、気丈に振舞う必要はないですよ。私の言葉を聞いたらさっさとお逝きなさい』

「最期に聞く声の主がお前とは最低最悪を超える最悪さだ」

『では、その気分のままで死ねるようにいいことを教えてあげましょう』

 一瞬だけ静寂が訪れる。

『ゾンビパウダーの片割れはこの世にもうありませんよ』

 それはブラッジーニにとって絶望の言葉。

 情報ジャンキーのこいつのことだ、本当の可能性が高い。平然とそんなことを思ってしまったブラッジーニの精神力が崩壊していく。

 それでもブラッジーニは一矢報いるために、言葉を紡ぐ。

「なら、私も……ひとつ。お礼にいいことを教えてやる。セフィロトの樹は世界の礎。どんなことをしても、例え最強の魔物(モンスター)を使ったとしても絶対崩壊することはない。お前の計画は達成できない」

『さすが嘘吐きテアラーゼ。だが騙されませんよ』

「残念。私は最初から最期まで正直者だ。下衆野郎」

 通信が途切れたのか、もう電波(レパシー)送受信機(フォン)からは何も聞こえてこない。

「そもそも毒素は最強じゃない。かつては無敵だったってだけだ」

 ブラッジーニはそう呟くと意識を失い、項垂れた。

 彼の体が砂のように崩壊していく。

 願わくば、誰かがアリサージュを救ってくれますように。

 ブラッジーニは死に間際、妹の顔を思い浮かべた――つもりだった。

 けれど最期の最後に思い浮かべたのはネイレスの顔だった。ネイレスはアリサージュによく似ていたな、ブラッジーニはそんなことを想って死んだ。そのおかげなのか最期の表情は安らかだった。

 死を明確にするように六匹の毒素が放たれる。

 ブラッジーニだったものを腐食させ、縛っていた縄を、椅子を電波(レパシー)送受信機(フォン)を、机を腐敗させ、廃屋を溶かし、六匹の毒素は大地に降り立つ。

 途端、自由意志を取り戻した六匹の毒素は争い始めた。

 オゲンがセレンを喰らい、カドミウムがオゲンを喰らい、クラーレがホスゲンとカドミウムを喰らった。そしてボツリヌストキシンがクラーレを喰らう。

 一匹となった毒素00(オリジン)ボツリヌストキシンは気の向くまま移動を開始した。


 ***


「あれは――もしかして……! でもなんで!?」

 竜の姿を象った毒素を見て、ネイレスは愕然としていた。

「なんでボツリヌストキシンがここに? ……ブラジルさんはここにいるってこと?」

 疑問を零すが同時にさらに疑問が生まれた。

 どうしてブラッジーニがここにいるのか? あのボツリヌストキシンは誰が使っているのか?

 長年、付き合っているネイレスにはこんな街中でブラッジーニが毒素を使わないと理解している。

 だとすれば――と最悪の憶測が脳裏を描く。

 しかしその憶測をネイレスはセフィロトの樹に名前が刻まれていないという一点で消し去った。

 となればブラッジーニの心境に何か変化があったのだろうか、疑問は止まらない。

「早くっ!」

 レシュリーもボツリヌストキシンだと理解していた。同時にその脅威も。

 レシュリーの急かす声で状況を把握。ボツリヌストキシンがそこまで迫っていた。

 全員が身を翻し逃走するなかネイレスも思考を中断し、レシュリーに続く。

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