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tenth  作者: 大友 鎬
第10章 一時の栄光
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沁情切札編-1 半年

1

 レシュリーたちがエンドコンテンツに消えてから半年が経過していた。


 ***


 ニヒードは最底辺にいた。

 具体的にはドゥドドゥ・ジョーカーとレシュリーたちが戦う少し前から、それからにかけての間のことだ。

 課金籤による損失。旧十本指の武器を目玉にしようと目論み失敗。

 そのときの課金石も無駄になり冒険者の怒りを受けて、営業証明書をはく奪された。

 営業証明書がなければ都市で店を構えて営業することはできない。

 十本指の倒し方教えます、と語っていた男が、だ。

 それでも商魂たくましいニヒードは商売を続けていた。

 行商許可証を持っていないため、道すがら売ることも小さな露店で販売することも許可されていない。

 それでも売ることはできる。

 いわゆる闇営業と呼ばれる行為で、都市の許可を得ずに商売することを指していた。

 闇営業とは路地裏などの人目のつかない場所で許可なく露店で営業していることも多い。

 行商許可証を明示していない露店はこの闇営業にあたる。

 裏路地などでは違法なものを売っている場合もあるが、許可証のない露店は一度何か問題を起こして営業証明書をはく奪されたものが、再起を図って行うことが多い。

 ニヒードもかき集めた資金で露店を開いた。

 タピオンと呼ばれる芋を丸めた1cm程度の黒い粉物タピオンボール。それを牛乳(ミルク)に入れた、タピオンミルクと呼ばれる商品を売り出した。

 β時代に一度流行した飲み物の改良版。飲み心地だけではなく見た目にもこだわった一品。

 売り始めてから数日で、タピオンミルクは流行し始めた。一説ではアイドル冒険者として台頭してきたバズールが宣伝したからだとも言われているが真相は定かではない。

 真相がなんであれ、流行し始めたのだけは事実だった。

 原材料タピオンは栄養価が高く安価で、それに目をつけたニヒードはそれを栽培している貴族から大量に入手していた。

 貴族も貴族でタピオンを専属で無償提供するのを条件にタピオンミルクの売り上げの数%を得る契約をしていた。

 その貴族が作ったタピオンは奴隷によって栽培されており、労働費はかからないため、タピオンミルクで得られる売り上げの数%が貴族の懐に入る算段だった。貴族はそれを元手にまた奴隷を購入していき、格安のタピオンが作られていくという負の連鎖に人知れずニヒードは加担しているのだが、ニヒードは見て見ぬふりをしていた。世の中は搾取される側が必ずいるとニヒードは理解していた。

 ニヒードにとってはその原材料タピオンが専属で供給され続けるということが重要だった。

 ほかの商人が真似してもタピオンが手に入らないからだ。

 それですぐに品切れになれば購入しようとしていた者の不満に押しつぶされ自然に淘汰され、ニヒードの露店に客は流れてくる。

 当然、売れ行きをねたみ、行商許可証をないことを指摘されることもあったが露店を畳めば問題はなかった。

 闇営業は半合法的に認められており、露店をすぐに畳めば罰則はないというのは熟練の商人の間では周知されていた。

 むしろ、それでタピオンミルクが飲めなくなることこそ不満が募り、指摘した商人を半殺しにする事件も起こっていた。

 ニヒードは行商許可証や営業証明書などの更新料も払わず、購入者と専属のタピオン業者という後ろ盾を手に入れて、再びのし上がろうとしていた。

 けれどだからこそ、天罰が下ったのかもしれない。

 その日は晴れているはずなのに陰っていた。光をを遮る何かが空に大量にいた。

 インスタフライだった。

 奴らはタピオンミルクに目をつけた。

 白い液体のなかの黒い粒粒。それが奴らの感性には映えて見えるらしかった。

 封印の肉林で同胞が映し出した光景に歓喜し、ゆえに喚起された奴らは我こそは、と映える風景を記憶しにニヒードの露店を強襲した。

 冒険者や貴族に手渡そうとしていたタピオンミルクを複数匹で奪い取り、距離を取って撮影。

 興味がなくなれば地面に放り投げて、あるいはどこかに放置したまま去っていく。

 まさに嵐。害悪の嵐だった。

 地面に落とされたタピオンミルクは、魔物ではないにしろ虫や小動物たちが群がる原因を作り、そこかしこにそれらの糞が撒き散らかされる。

 放置されたタピオンミルクも一度はインスタフライに奪い取られているのだ。

 魔物が触った飲み物なんて飲めるはずもない。ゴミとなったタピオンミルクは放置され、数日もたてばミルクの腐った臭いが充満する。挙句、誰も掃除などしない。気が付けばニヒードの露店の周囲は悪臭と糞に蹂躙されていた。

 飲めなかった冒険者や貴族たちからは不平不満に罵詈雑言。

 後片付けをきっちりとしろ、などとインスタフライに言っても意味がなかった。

 せめてきちんと飲んでくれ、などとインフタフライに言っても意味がなかった。

 奴らはただ映えた風景を撮りたいだけで、後のことも先のことも知りもしないのだ。

 同時にタピオンを供給していた貴族の、奴隷に対する扱いが露呈。貴族はセレオーナら冒険者によって討伐され、供給も断たれてしまう。

 ニヒードが再起をかけた顛末がこの様だった。

 ジョバンニが入ればこの状況もニヒードをも救ったのかもしれない。

 けれどジョバンニは課金籤が一定の終息を迎えると判断すると早々に店じまいし都市を去っていた。

 再起の失敗。

 それがニヒードの再々起と世界の豹変へと繋がっていく。

 

 半年経つ頃には世界にはDLC『経験上昇(レベルアッパー)』が蔓延していた。

 副作用はなく、一錠飲めばレベルが1上がるそれは冒険者にとっては魅力的なものだった。

 それも安価。大量生産に成功し、もはや苦労しなくてもレベルが上がる時代になっていた。

 その功労者がニヒードだった。

 楽して強くなれる、それは意味でニヒードの掲げた十本指の倒し方に通じるものがあった。

 今やニヒードは未来に名を残すと言われるほどの功労者であり、ある意味で努力の怠慢を作り上げた大罪人でもあった。

 けれどニヒードは使用者のことなどどうでもよかった。それによって豹変した時代などどうでもよかった。

 ニヒードは努力せず強くなっていく方法を提供しただけだ。実行するのは使用者の意志。

 使用して起こったことなど、あるいは使用しないで起こったことなど、ニヒードの知ることではない。

 名誉もあまり興味はない、有名になることは当然嬉しいが、商人にとっては何よりも金銭が成功者の証だからだ。

 半年前、再起に失敗したニヒードはタピオンミルクで稼いだ金すら奪われ闇市場に逃亡した。

 有象無象がひしめく闇市場なら人目をかい潜れた。手持ちは少ない。

 それでも再々起を狙うニヒードの目は死んでいなかった。

 誰も注目していない、けれど一発逆転を狙えるような品物。

 それを目利きする。矢先、ふと目に飛び込んでくる紙切れ。

 下手な商人が見ればそれはなるほど落書きか何かが書かれた紙きれだっただろう。

 けれどニヒードにはそれが道具の精製書だと理解できた。下手な商人ではないニヒードには道具精製の知識もあった。

 その紙切れはドゥドドゥが殺されたことで流れてきたDLCの精製方法のひとつだった。

 そのことをニヒードは知らないがそれでもすごいものになると感じ取れた。商人としての勘だろう。

 その後、わずか一か月でニヒードはDLC『経験上昇』を完成させた。

 しかも副作用はない。

 本物のブラギオが苦心してもできなかったことを、ドゥドドゥがわざと副作用ありにしていたことを、ニヒードはいともあっさりと打破していた。

 ニヒードはそこまで精製に精通していたわけではないが、どん底という窮地が圧倒的閃きを産み、ドゥドドゥの精製書からどこをどうすれば副作用が取り除けるかまで至らせた。

「弱い冒険者たちは不安よな。ニヒード動きます」

 そう宣言してからDLCが流通するのは瞬く間だった。

 弱者救済と思っていた冒険者はこぞって買ったが、すぐに値段は高騰。

 値段を釣り上げても、買う人間は買うが、あの言葉はなんだったのかと批判する冒険者も少なからずいた。

 それでもレベルアップによってランクアップも飛躍的に増えた。

 ランク5、6は当たり前になりつつある一方で犯罪率と死亡率が格段に増えていた。

 DLCが買いたくても買えない冒険者は金品を強奪し、成長していくため犯罪率が、DLCによって急激にレベルアップしたものの熟練度、戦闘経験不足で試練が突破できず死んでいくため死亡率が増えたためであった。


 とはいえ、ランクアップが増えた事実は覆せない。

 しかしてそれはニヒードの開発したDLCのみが理由ではなかった。

 もうひとりの功労者がいる。

 世界を悪い意味で豹変させたニヒードが裏あるいは闇の功労者ならば、世界を良い意味で豹変させたのはモココルだろう。

 ランク0の冒険者を支える初心者協会のようなものが大陸にあってもいい、と考えて創立したのが中級冒険者学校、通称中学校。モココルの夢を体現したものだった。

 ランク1~ランク4の冒険者が在籍し、ランク5を卒業試験と定めている。

 そこでは各都市の依頼や適正場所でのレベルアップの指導、試練の攻略情報を開示していた。

 そこで熟練度を高め、戦闘経験を積むことで冒険者の生存率を高めていた。

 当然月謝がかかるため、それを渋ってDLCに頼ったり、他人の手を借りることを良しとしない冒険者がへまを踏んで、死亡率のほうが高いままだったのはモココルにとっては悲劇だろう。

 それでもこの半年で冒険者たちは中学校を経て生長していったのは事実だった。

 なお、中学校ではDLCを原則禁止していたが、未成人が内緒で煙草を吸ってしまうように、中学校を活用しながらDLCを使用していた冒険者も少なからず存在していた。

 劣等感は誰にも存在し、それを隠して強くなるためにそれを選んだのだろうと理解できたモココルは、そんな冒険者たちを見つけても特に罰則は与えなかった。

 そこがモココルの甘さであり、優しさでもあったが、同時に厳しさでもあった。

 中学校は未成人の冒険者に指導しているわけではない。そのため分別はすでに大人である冒険者自身がつけなければならないからだ。

 DLC『経験上昇』の登場と中学校の設立で、冒険者は全体的にランクが上がりやすくなっていた。


 ***


 半年間で台頭するように、十二支悪星を倒した冒険者がランクアップするなか、ジャック・ザ・チョッパーは獄中で異変を感じ取る。

「やれやれ、ついに始まったね」

 待ちに待ったという期待感よりもいよいよとうとうというどこか決意に満ちた呟きだった。

 不朽身であったはずの兎の少女はその異変と同時に赤い閃光を放って呆気なく朽ちた。

 それこそが異変を報せる合図だった。秘密裏にジョーカーに頼み込みある人物が世界に出現した際に報せるように仕組んであったのだ。

 もちろん不朽身の少女との戦闘は仕込みではない。ジャック自身、楽しむために捕らえた少女がそうだったと気づいて驚いているのだ。

 本当は絞殺したかったけれどそれまでに十全に苦絞めたのだから値千金だろう。

 もう二度と考察できないのは残念な限りだったけれど、ジャックにもジャックの目的がある。

「さあ、絞殺しよう。――よ、苦絞めて、狂絞めて苦死ね」

 それは誰への向けての言葉だったろうか。

 周囲に散らばる四つの死体と朽ちて砂となった少女には知る由もなかった。

 恨みを連ねて苦しみを与えるべくジャックは獄中の外へと歩を進めた。

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