処遇
144
「どうして、止めたっ!」
「キミという人柄は少しばかりしか知らないが、どうにも残酷になるな」
僕とは対極的にトワイライトさんは冷静だった。
いよいよとうとうトドメを刺せるという段階で僕の興奮を遮られて僕は激情していた。
「もう勝負はついた」
「まだついていない」
「いや、もうディエゴの負けだ。命を取るまでもない。こいつは約束は守る人間だ」
信用できない、とは言えなかった。
ジョーカーを倒すという目的を達するまで、確かにディエゴは僕たちに手を出さなかった。
それが信用の証と確かになっていた。
僕の興奮は収まっていく。
「それでも……」
「キミが納得が行くかは分からないけれど責任は取らせる」
そう言ってトワイライトさんはディエゴの右腕を肩から切断。
血が爆ぜるように流れ、トワイライトさんは右腕を粉々に、跡形もなく切り刻んだ。
「リアン。ディエゴを治療しておいてくれ。どうだ、これで利き腕の失ったディエゴは本来の力を発揮できない。そのうえでもう資質者は殺させない。それでもキミはディエゴを殺さないと安心できないか?」
「決めていいのは僕じゃない。シャアナとアズミさんだ」
一瞥するとシャアナはなぜだかぶるりと震えた。
「ボクは……」
意を決して何かを言おうとしたシャアナを止めたのはアズミだった。
判断に迷うシャアナに首を振り、代わりにこう答えた。
「それだけで十分です」
シャアナはまだ何か言おうとしたが、アズミの答えたあとには何も言ってこなかった。
「だそうだ。これでキミが殺す理由はなくなった」
「分かったよ。でも約束は守ってよ」
「ああ。私たちは一旦、エンドコンテンツに戻るとするよ」
トワイライトが治療されたディエゴを担ごうとすると
「余計なことすんなぁ」
むくりとディエゴが起き上がる。リアンの治療があったにしろ、再生が早すぎた。
「おい、そこの」
そうしてディエゴはシャアナと向き合い、
「俺を殺してぇんだろ?」
率直に問うた。
シャアナは静かに、けれどディエゴを見据えて、頷いた。
「なら、エンドコンテンツまで追ってこい。俺はいつでも戦ってやる」
そう言ってディエゴはトワイライトさんを急かしてその場を去っていく。
「ここはきっちり破壊しとけよ」
それだけを言い残して。
***
「良かったな」
一足先に外に出たふたり。
トワイライトは安心げにディエゴに告げる。
「何がだよ?」
「私たちがいなくてもこの世界は大丈夫だ」
「どうだかな。まだ三人も残ってる」
「それも含めてだ。私たち[四肢]やディエゴでなくても対応できる」
「だとしても俺たちがやらなきゃなんねえだろ」
それでもディエゴの顔は強者を認めたように笑顔だった。
「ただ、その大義のためとは言え、今回はやはり暴挙だと思うがな、私は」
「より良い世界のためだ」
「リアンのためだろう。王族が強くなることをあいつは許さない」
「さてね」
ディエゴは素直には認めなかった。
「待って(?) 待ってください(?)」
そんなふたりを追いかけてきたのはひとりの青年だった。
「相変わらずお前は疑問形だなあ」
ディレイソルだった。
「ってか、そうだ。お前何してたんだぁ?」
「言われたとおり(?)後衛の方、守ってましたよ。一斉に攻撃するときに(?)復讐のチャンスだって思いました。でも怖くて何も(?)できませんでしたよ」
「ハハハ」
「何がおかしいんですか」
「それが普通だよ。お前はレベルは高いがランク1。あっちはランク7。言葉通り格が違う。他の奴らだって少なからず恐怖は感じてたはずだ。お前ほどじゃあねぇけどな」
「でも(?)ありがとうございます(?)」
「礼を言われるようなことはしてねぇよ。お前の気が少しでも晴れれば、と思っただけだ。自分の村を滅ぼした敵の親玉。それを勝手に、しかも事情を知ってるやつが自分の見てないところで倒したら腹が立つだろ」
「ええ。でもちょっとだけ(?)悔しいです」
ディレイソルの流す涙には様々な感情が渦巻いていた。
「だったら強くなれよ」
それだけ告げてディレイソルとディエゴは別れた。
***
ジョーカーの秘密基地。廃城クリンタを破壊するため重要そうな資料を集めていた僕達はコジロウによく似た女性の写真を見つけていた。
「デュラハンと対峙したときに、この顔になったことがあるでござる」
悲しげな表情でコジロウは告げる。
ある程度の事情はコジロウから聞いていた。
このコジロウによく似た謎の女性の原因でコジロウは弟子二人を失っていた。
「確かあんた、幼い頃の記憶がないのよね。これ関係あるんじゃないの?」
「だとしたら拙者は改造されている、ってことでござるか?」
「ならあんたはディオに殺されてる」
「でもディオレスなら何が知っててもおかしくない」
「それはそうでござるな。拙者がディオレスに引き取られた意味もそこにあるのかもしれないでござる」
「でもだとしてもどうするのよ?」
さっきからめぼしい資料を漁るものの、資料自体が少なく、しかも独特すぎるジョーカーの文字は解読できない。
「行こう。エンドコンテンツへ」
「どんな危険があるのかわからないのよ」
「でもエンドコンテンツがどんなところかは頭に植え付けられてる。そこならコジロウに関する情報も手に入れられるはず」
「さっきから何を?」
ランク7に達してないアル達には理解できてないのだろう。
「これから僕達はある場所に行こうと思ってる。けどそこはアル達は行けないし、僕達の存在はディエゴみたいにこの世界から消えると思う。たぶん半年ぐらい。もっと遅くなるかもしれないし早くなるかもしれない」
「それでもすることがある。心配しなくていい、そういうことですね」
「そう。それまでに追いつけ、とは言わない。でも強くなれ」
まだ僕だって強いとは言い切れない、それほど自信があるとは言えない。
それでも僕は言った。
「後は頼んだ」
廃城クリンタを破壊し、資料を全て消滅させた僕達は
アル達と別れてエンドコンテンツへと向かう。




