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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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提案

142


「本当に戦うしか道はないの?」

 僕は問う。確かに対立していたけれどジョーカーという共有の敵を倒したことで、和解もできるのではないか。

「ねぇよ。甘ったれるな。俺はまだ死ぬわけにはいかねえからな。これでようやく第一歩が踏み出せた」

「それでも……」

「だったらおとなしくしてろ。資質者の三人はあっさりと死ぬ。それだけだ。それで関与はしない」

 協力していたときとは大違い、冷徹な顔で僕を見つめてきた。

 嘘偽りはないようだった。

「分かった。やるよ」

 僕も覚悟してにらみつける。薄っすらと笑ったような気がした。

「トワイライトは手を出すなよ」

「当たり前だ。私は彼女らを殺す意味をもたない。それでもキミが決意して事を成そうとしていることなら理由を知っているだけに止めはしない。私としては気に入らないがね」

 反対の立場ながら、トワイライトさんはディエゴを止めたりはしなかった。

 ディエゴと共通の目的も持つからだろう。

 僕としても戦う覚悟を決めたあとで止められても困るといえば困る。

「私は手伝っていいの?」

 アリーが言う。

「ああ」とディエゴ。

「いや、アリーは見てて」

 僕はそれを拒んだ。

「けど、あんたは精神摩耗しすぎて……」

「だいぶ回復してる。アリーたちが戦ってくれてる間にきちんと対策したよ」

「それでも……」

「一対一で決める」

「勝てるの?」

 アリーが囁く。

「勝つよ」

 断言して、ディエゴに振り返る。

「トワイライト。始めの合図だけ頼む」

「分かった」

「レシュリー・ライヴ。安心しろ、お前が負けてもお前の命だけは取らない」

 僕が殺されないのだとしても、僕が負ければ三人の命が失われる。そちらのほうが屈辱だった。

 明らかな挑発に殺意を出しても、我を忘れないようにして構える。

 僕はディエゴを殺さない、とは言わなかった。

「準備はいいか?」

 トワイライトさんの問いかけにお互いが頷く。

「では、始め」

 まるで試合のような殺し合いの合図が唇から吐き出された。

 手出しはしないで、と告げたアリーの瞳は僕をしっかりと見つめていた。

 僕を信じていてくれている証拠だった。

 それだけで安心できる。

「バカ、余所見しない!」

 アリーの警告。

 合図が終わっているのにアリーの顔をチラ見していた僕へのもの。

 見れば、ディエゴは目の前にいた。

 超高速の体当たりだった。

 ディエゴの〔詠唱が必要がない幸せ(トリガー・ハッピー)〕を用いた【加速】の連続詠唱で自身の速さを高めたものか。

 そう推測している時間すらもなかった。

 そのまま僕へとディエゴは激突する。

 僕の油断が招いた致命傷。

 誰もがそう思ったのだと思う。

 リアンやメレイナの悲鳴が上がった。

 こんなにも早く決着するとは思ってもみなかったのだろう。シッタは驚愕している。

 だけれどアリーは警告を飛ばしながらも、これで終わったとは思っていなかった。

 さすがアリーだ。

 その通り。

 ディエゴが突撃した僕の正体は【粘着身代球(スケープドーラー)】。投げて展開された球は僕が投げる前に想像した姿に象って出現する。

 僕はディエゴの必殺の一撃がこの加速体当たりだということをイチジツさんから聞かされていた。

 だからその対処も用意していたのだ。

「くそが。まあ、対策は練ってるだろうなあ!」

 【粘着身代球】に貼りついてしまったディエゴだが、【弱炎】によって一瞬でその人形を消失させる。 

 【粘着身代球】は【蜘蛛巣球】ふたつと微弱な呪いを防ぐ道具、身代人形(スケープドール)を【超合】して作成したものだ。

 すぐにそれを看破して行動不能から解放されるように動いたのだろう。

 一方僕は直前で【転移球】で移動していた。

 が、眼前に水の槍があった。

 ディエゴが発動していた【吹水】だった。

 気付かれないようにディエゴの背面、上空に移動したにも関わらず、それすらも読まれていた。

 いや身代わりになる何かを用意して、その上で退避するとまで読んでいたのだ。

 さすがに強い。

 急いで【反射球】を投擲。

 近すぎたせいで上に飛ばすだけで精一杯だった。

 が僕も負けじと応戦していた。

 【粘着身代球】の下で爆発が起きる。

 【粘着身代球】を【弱炎】で対処すると推察していた僕の反撃だ。

 【地雷球】。

 【着火補助球】【三秒球】と火薬を混ぜた、近くで使われた炎に反応して爆発する球だった。

 ディエゴが放った【弱炎】で【地雷球】が爆発。

 が威力が弱い。【粘着身代球】の展開と同時に小細工のように設置していたため、必殺の一撃には至らなかった。

 ディエゴもとっさの判断で【冷風】を展開させ、炎はすぐに収まる。

 これが無詠唱の強さ、強みだろう。

 突発的な対処は魔法だと詠唱があるから難しいが、無詠唱だとそれを可能にさせる。

 ずるいと言うのは簡単だけれど、ランク7、そしてエンドコンテンツへと至ったゆえの強さということなのだろう。

 空中から地面へと着地した僕へと追撃は続く。

 休む暇のなく、八色の魔法が飛んでくる。

 余裕のつもりか撹乱のつもりか。

 炎、氷、雷、風、水、土、闇、光。それぞれの属性の攻撃階級1魔法が飛んでくる。

 ランク1の魔法士が使うのよりも段違いの威力。一発が致命傷に近い。

 全ての魔法を【防壁球】で防いでいく。

 先程の【吹水】は咄嗟に【反射球】を使ってしまったけれど、あれは精神摩耗がきつかった。

 とはいえ、僕の精神がどれほど持つのか分からない。ドゥドドゥの戦いで一度は使い切っている。微弱な頭痛が僕に襲いかかる。

 持久戦に持ち込んでは負けだ。

 ディエゴはそう思っていないだろう。魔法を連続で放ちながら距離を詰めてくる。

 隙あらば倒すつもりだ。

 一方で僕は持久戦になっても負け、というディエゴにはない敗北条件がある。

 限られた精神力をぎりぎりまで酷使して勝つ必要があった。

 防戦一方になりながらも僕は考える。ただひたすら。

 光明はどこかにある。僕は自分の持つ手札全てを並べて、考える。

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