愛娘
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「死ねぇ……死ねえ……死ねええええ……」
叩き潰した頭はもう再生できないほど潰れていた。
それでもドゥドドゥは恨み言を吐く。
「死ねぇ……」
ドゥドドゥの恨みの炎は消えない。
「死……」
それでも生命は停止する。
「……」
やがてドゥドドゥは死んだ。
改造の始祖であるはずのドゥドドゥにとってレシュリー・ライヴへの復讐は愚行だった。
十二支悪星のような戦士に冒険者を作り変えていけば、自然と世界征服だってできた。
悪の秘密組織として秘密裏に、時には表立って冒険者をそそのかし、ときには改造屋を増やすように改造をそそのかして、徐々に悪さを広げていくだけで良かった。
ハンソンやリゾネットのような不幸な冒険者がどんどん生まれ、オンリーロンリーやリュリューシュ、セイダーやバハ、ソレイルに負けて改造屋になった不幸な冒険者がどんどん生まれるはずだった。弱さにくじけた冒険者がどんどん異形化し、曖昧な改造で自滅を繰り返す世界が広がるはずだった。
それでもドゥドドゥは十二支悪星を悪目立ちさせてレシュリー・ライヴへと復讐を選択した。
それほどまでにヴェリナという少女が大切だったのだ。
レシュリー・ライヴにとっては立ちふさがった敵のひとりでしかない。
しかも名乗りもしなかった彼女の名前は認識すらされていなかった。
あの改造屋がヴェリナという名前である、と説明されて認識した。
ひどい言い方をすればそのとき立ちはだかっただけの「敵A」だった。
そんな「敵A」の復讐をかつて王族を滅ぼした仲間のひとりであるドゥドドゥがその力を使ってなお、成し遂げようとしていたのだ。
本当はヴェリナとドゥドドゥに血の繋がりはない。
それでもヴェリナとドゥドドゥには確かな絆があった。
ドゥドドゥと初めて出会ったとき、ヴェリナは死にかけていた。
生んだ親が子どもを殺しかけるというのはほん数年前までには多々あることだった。
飢饉の時期。親が飢えをしのぐために健康な子どもの臓器を売買するということが平然と起きていた。
ドゥドドゥはその日、身勝手に子どもの臓器を売り払った父親に復讐するために、改造を依頼してきた母親の改造を行った帰りだった。
その母親も復讐のための改造するために、他人の子どもの臓器を売り払うという狂気ぶりだったでそれもドゥドドゥを楽しませる要因のひとつだったのだけれど。
だからだったのかもしれない。
そんな陽気な気分でいたからかもしれない。
森の奥にある廃棄場に子どもが捨てられたのを見て気分を害した。
「ごめんね」
母親の呟いた言葉に嘘のような、空っぽの感情があるような気がした。
害した、だけでドゥドドゥは無言で母親を切り刻んだ。
改造に使うための道具は常に白衣に持ち歩いていた。
「生ーきたいでーすか?」
死んでいるかもしれない少女に問いかけた。
少女はうっすらと意識があった。
頷いたのか頷いていないのか、分からない反応。
それでもドゥドドゥは少女をその場で改造し始める。
少女は飢饉の時期、親に臓器売買された被害者だった。
手元には大人の臓器。先程切り刻んだ母親の臓器だった。
大きさも当然合わないが、無理やり小さく、合わないものは代替品で組み合わせていく。
そうして少女は生き永らえた。
ある意味で最初の改造人間。
レッドガンのように体力増強や魔力増加するための強化臓器ではない。
ただの少女の母親の臓器。
無理やりつなぎ合わせただけ。
それでも少女は生き永らえた。
それがヴェリナだった。
行く宛のないヴェリナは、廃城クリンタではない別の隠れ家で順調に成長していった。
ドゥドドゥは放任主義だったが、それでも改造を勝手に覚えて、勝手に学んで、順調に歪んでいった。改造するのが当たり前、そう刷り込まれた。
改造がおかしなことであることは原点回帰の島で気づかされた。
それでもヴェリナは改造が罪であるとは思わなかった。
ヴェリナにとって改造はごく自然のもので、それがなければヴェリナはただただ親に殺されて死ぬだけだった。
改造を否定することは、親に裏切られて死ぬのが正しかったと肯定するようなものだった。
ドゥドドゥは特に何も言わなかった。
ただ命を救っただけで、恩義を感じてほしくなかったのかもしれない。
それでもドゥドドゥの仕事は秘密裏に人々を救う仕事だとヴェリナは思っていた。
だから自分の培った改造で、改造屋として冒険者たちに改造を施した。救いを施した。
一方でドゥドドゥに救われたことを誰にも話さなかった。
だからドゥドドゥとの繋がりは誰も知らない。隠れ家にいたときにいた他の改造屋もドゥドドゥに技術を教わろうとした小娘程度にしか見ていなかった。
そうやって力をつけて、改造の技術を身につけると決めた。恩返しするとヴェリナは決意した。
しばらくしてヴェリナはレシュリー・ライヴに殺された。
人を弄び、さんざん殺してきたドゥドドゥにとって、その死は他愛もない死であるはずだった。
けれど、まるで自分の欠片のひとつを失ったかのような喪失感が確かにあった。
たぶんそれが世界改変のようにドゥドドゥの世界が変わった瞬間だろう。
「ヒャーハハッハ、ヒャーハッハッハッハ、ヒャーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
狂ったように笑うドゥドドゥの目には確かに涙があった。
自分のような喋り方を真似して自分のように改造屋を目指した。
そこには血の繋がりはなくとも父娘の絆があったのだろう。
ドゥドドゥは失ってからそれに気づいた。
ヴェリナという少女が確かに愛娘であったことを。
愛娘の復讐を誓ったドゥドドゥは、それでもその復讐を果たせずに死んだ。
***
ドゥドドゥが何を想っていたか知らないディエゴは、息絶えたドゥドドゥの顔を蹴飛ばす。
悪の所業、死への冒涜にも見える。
けれどディエゴにとってもドゥドドゥは復讐の対象のひとり。
これからが始まりでもあった。
「決着をつけるぞ。レシュリー・ライヴ!」
自分の目的のためにディエゴは再度、レシュリーと敵対する。




