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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
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報復

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 アジ・ダハーカの左の頭――ふたつの口腔からは【灼熱息吹(ブレイズブレス)】が、中央の頭がもつひとつの口腔からは【猛毒息吹インフェクサオンギフト】を繰り出した。猛毒の息吹は復讐に走る冒険者へと、二重の灼熱の息吹は僕たちのほうへと。

 右の頭を狙っていると気づかれたのだ。でも気づかれたところで目的は変わらない。

 僕たちの側にはその二重の炎を無効化できる【無炎壁(アンチファイア)】を使えるものはいないだろう。リアンならば【減熱壁(ファイアダウン)】ぐらいは使えそうだが、「リアンがいれば」と思うのは贅沢。

 リアンはリアンで民間人の救助に精一杯で余計な気を回させたくない。

 でも策はある。

「凍り尽くせ、レヴェンティ」

 アリーの持つ魔充剣レヴェンティから解放されたのは魔法階級5【氷河帯(フリージングベルト)】。

 氷属性を持つそれが、アジ・ダハーカの炎の息吹にぶつかり、蒸気が辺りをくらませる。

 瞬間、僕は【転移球(テレポーター)】を発動!

 アルとメレイナをアジ・ダハーカの背中へと転移させる。コジロウとネイレスは【氷河帯(フリージングベルト)】がぶつかった頃には俊敏さを活かしてアジ・ダハーカの背中に飛び乗っていた。

 アリーが僕の肩に触れる。意図に気づいた僕はアリーごと転移する。

 蒸気が消滅した頃にはアジ・ダハーカの視界から僕たちは消えていた。とはいえ、アジ・ダハーカは背中に増えた違和感で僕たちがどこにいるのか気づいていた。

 ふと愛好家達の状況を確認してみる。

 【猛毒息吹インフェクサオンギフト】によってトレントと化したギギユが危機に瀕していた。【猛毒息吹インフェクサオンギフト】を完璧に防ぐ術をもたない彼らのためにギギユは御身を犠牲にした。そのギギユが持つ緊縛鎖がアジ・ダハーカの上顎と下顎を拘束。【猛毒息吹インフェクサオンギフト】を物理的に封じる。

 しかしギギユを蝕んでいく毒はもう止めようがない。

 体である樹が腐食してもギギユは変身を解かない。むしろアジ・ダハーカの首を押さえ込み、背中への道を作り出す。死を覚悟しての行動だ。

 それを無駄にはしまいと、全員がなだれ込む。

 「もうやめるんだぞい。撤退するぞい!」

 そのなかでひとり、屈強な男が叫ぶ。でも誰も耳を貸さない。その屈強な男ゴッデリは、それ以上登るのをやめ、他の愛好家たちを見つめる。彼は言葉以上で止めることはしなかった。

 僕たちの気配を感じ取ったアジ・ダハーカは身体を揺すりながらも左頭で愛好家たちを捉えていた。

 ギギユの身体を登るロッテムとハイムめがけて下の口腔から炎が来襲。辛うじて避けたのはハイムだがロッテムは身を呈して、行軍する味方のためにギギユという道を守っていた。

 ハーピィに変貌しているシンシアは宙をはばたいているため被害を免れる。

 が、直後彼女も丸焦げとなって死亡。ロッテムとギギユの献身に驚いてしまったせいで上の口腔から吐き出された炎に気づけなかった。

 無事、背中へと到達できたのはハイムとジシリ隊の計五人。ソレイルを探してみたが僕の視界にはいなかった。

「アンドレ、カンドレ……」

 アルが気づいたように声をあげ、アンドレとカンドレもアルを見据える。

「アルフォード、おめぇもまさかアジ・ダハーカを狙っているんじゃないよな?」

「俺はこのドラゴン自体に興味はない。ただ街を破壊する魔物を放ってはおけないだけだ」

「その程度ならば退けよな。復讐の邪魔だよな!」

「その程度で済む問題ではないだろう。負傷者が出ているんだ」

「関係ないよな。こちらは死者が出ているのよな」

「アンドレ、カンドレ、止すのニャ。互いに意見が食い違ったらどうしようもないニャ」

「姐さん、ならどうするよな?」

「とりあえず、一致するのはこいつを倒さニャきゃニャらニャいってことニャ。だからこうするニャ!」

 復讐に囚われたジシリは、アジ・ダハーカの背中を屠竜大剣〔鼓動するギジマ〕で突き刺す。

溢れ出す虫系魔物(モンスター)をジシリは無視し、走り出す。

「不一致ニャのはキミは街を守ろうとしていることだニャ。だったらアジ・ダハーカだけでニャく、虫どもも倒さニャきゃニャらニャいことだニャ」

 暴挙に出たジシリに従うようにアンドレとカンドレも虫系魔物(モンスター)を無視し、それにジジマルとハイムも続く。彼らの瞳に映るのは復讐の炎。

「くそっ!」

 アルがヒューマノイドマンティスを切り裂き、アジ・ダハーカの傷口が塞がるのを待つ。

「狙うなら右の頭だ!」

 僕は復讐者たちに声を荒げ伝える。復讐者にその意図が分からなくとも、倒せるならなんだっていい。 襲いかかるビックローチを【回転戻球(ヨーヨー)】で破砕。

 邪魔なんだよ、くそっ! 飛び散った緑の血が僕の衣服につく。うへぇ、臭い!

 それでも臭いのを我慢して、虫系魔物(モンスター)を薙ぎ払っていくとやがて傷口が塞がっていく。

「急ごう!」

 復讐に走る五人だけで倒せるとは当然思ってもない僕はアリーたちを促す。アルとアリーが頷いたのが見えた。

「待つでござる。何か来るようでござるよ」

 気配に敏感なコジロウが後方を指す。

「あれは――もしかして……! でもなんで!?」

 ネイレスだけがその正体に気づき、愕然としていた。

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