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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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特典

136


 グシオンの出現で、地獄師の地獄讃歌によって生み出された地獄に悪魔は存在しないと判明し、また一般人に分類されるゲシュタルトたちの護衛が万全になったということで幸運にも後顧の憂いは断たれた。

 ムジカがこの場ではないにしろ、一緒の戦場にいるということが少なからず効果を及ぼしているかもしれなかった。

「さて、んじゃ当初の狙い通り卯星を狙うが、同時に午星も狙う。地獄があったらあったで面倒臭ェからな」

「僕が午星を」

「はん。なら俺が卯星だ。一瞬で仕留める。遅れるなよ」

「そっちこそ」

 お互いに減らず口を叩きあって、僕とディエゴは並び立つ。

 卯星の体は他の星星と比べて傷だらけではなかった。この短時間で数度自害して再生を繰り返している。自害される前に倒す必要があった。

 一瞬で仕留める。

 言葉通り、ディエゴは一瞬で発動させた【弱火】で卯星を焼失させていた。

 僕も同時に【神速球】で午星を穿っていた。どことなく脆すぎる。

 けれどこれで十四分のニの消失。

 午星の消失で地獄が掻き消える。

 気に食わない地獄の消失にルクスを守っていたグシオンが感嘆。

 同時にディエゴが感心していた。

「そりゃあ新しい技能か。久しぶりに見たぜ。さすが〔双腕〕の錬金術師だな。何を組み合わせやがった? 【剛速球】と【剛速球】、それに速度向上の何か、さしずめ【加速】の魔巻物かなにかか?」

 歴戦の冒険者と言わんばかりの推測はぴしゃりと当たっていた。

「そっちこそ、今なら分かる。あなたの魔法は無詠唱だ。それが初回突入特典というやつですか」

「はは。ランク7でエンドコンテンツの知識を得たんだったな。ご明察だ。俺の初回突入特典は〔詠唱が必要がない幸せ(トリガー・ハッピー)〕。資質者系統の才覚を持つものしか入手ができない、自分に資質がある属性の攻撃階級3、及び援護階級3以下の魔法を無詠唱で唱えることができる」

 種が割れた途端、ディエゴはまるでおしゃべりのうにそう語った。

 早口で詠唱しているという嘘は、ランク7未満の冒険者に説明しても理解できないからだろう。それに早口で言えば確かに詠唱できるのは真実。その技量にランク7未満の冒険者は感嘆、動揺があれど、見せつけられた事実に納得してしまうのだろう。

 とはいえ、すんなりと種を明かしすぎだろう。

「僕の【神速球】はあなたの推測通りですよ」

 ディエゴの素直さにむしろ敬意のようなものを感じてしまい、僕も素直にそう告げる。

「そうかい」

 ディエゴもその心情を察したのか、わずかに笑った。

「さて残りも畳み掛けるぞ。今のお前ならついてこれるだろう」

 ディエゴに統率されることに嫌な気分は感じなかった。

 心底悪い人ではない、と僕はもう理解してしまっていた。

 資質者を殺したのにもきっと明確な理由がある、そう感じてならなかった。

 僕がアリーや他の、大切な人たちを守るために、襲ってきた冒険者を敵と断じて殺したようにディエゴにも理由があるのだ。

 それでもこの戦いが終わったら戦い合わなければならない。

 殺し合わなければならない。

 嫌だ、という気持ちも募っているけれど、それでも僕が守りたいと思うものをみすみす殺されるわけにもいかない。

「足を引っ張るつもりはないよ」

 ディエゴの言葉に意地になるように言い返して、残りの十二支悪星を狙う。

 ディエゴも辰星を【冷風】で凍結させたところだった。

 瞬間、倒したはずの全員が再生する。

 見れば子星が自殺していた。いや、自殺させられていた。

 その効力で全員が再生したのだ。

「ああん? もしかしてどの悪星も能力を共有してやがんのか? 通りで全員が脆いわけだ」

 午星と卯星の脆さにディエゴは疑問に思っていたらしい。

 僕もその疑問は感じていたが、ディエゴは今ので氷解していた。

 同時に僕もディエゴの言葉で謎が解ける。

 丑星の使用する暴力技能の弱点によって全員の防御力がなくなっていたのだ。

 その分、全員の攻撃が致死量まで引き上がっていると見ていい。

 そしていろいろ観察しているうちに消失していた地獄が復活する。

「1、2分ってところか。あの馬野郎が再生して、地獄讃歌が始まるまでは」

「1分36秒だ。ディエゴ、そこらへんは雑だぞ」

 トワイライトが断言する。こちらも歴戦の冒険者といったところで、全員が再生するという事態があっても同様せずに、警戒する技の発動時間を計測していた。

「レシュ、どうすんのよ?」

「僕もいろいろ考えてる。けど全部の能力を共有しているとは考えにくい」

「ほぅ。どういうことだ?」

 感心したようにディエゴが言う。地獄の再出現で仕掛ける機会を失ったアリーたちも近くに集結していた。

「イロスエーサが言ってたけれど午星は耳が悪いというか、天使の歌声が影響がなかった」

「地獄讃歌の返しのひとつに挑戦したが効力がなかった、ってことか」

「それがどう繋がるのよ?」

「午星のその特性を共有しているのなら、他の悪星も地獄の影響を受けないはず」

「確かにその特性を引き継げば全員が地獄の効果に対して無敵だわな」

「現状、午星さん以外は全員地獄の影響を受けている、と判断できますね」

「つまり、引き継いでいるのは一部の特性だけ、ということでござるか?」

「うん。それもあるけれど、もしかしたら引き継げる数に限度があって、数人ごとに違う能力を引き継がせているのかもしれない」

「ややこしいな。つまりだ、十二支悪星がもっている特性を何人かで何個かずつ持っているが、午星の能力だけは引き継いでないってことか。なんでまたそんなことを、って。いや考えてみりゃ分かるか……」

「そうだな。地獄讃歌の影響を受けてない悪星が数人いれば、数人が午星の特性を持っているというのがすぐ分かってしまう。それを避けたかったのだろう」

「数人のみが持っていれば、他の特性も数人が持っていると推測できますし、数人に限定してしまうと、全部の特性は共有できず共有できる特性は限られている、とこちらも推測できるからですね」

「でも今バレたわね」

「ま、下手な小細工だったってことだ」

「上位の魔法でなんとかするのか?」

 トワイライトの視線はリアン、シャアナ、アズミと移り、ディエゴへと戻る。

 〈王血〉の莫大な魔力に、〈炎質〉〈光質〉とそれぞれの属性の最上位才覚に加え、全属性の頂点ともいえる〈全質〉と揃っている。

「できたらいいがな」

 がトワイライトの提案にディエゴは懸念。

「ドゥドドゥのような小細工ばかりの野郎が、上位の魔法に対して無策でいると思うか」

「アジ・ダハーカのように【魔法反射穴】があるということですか」

「いや俺が気になっているのはドゥドドゥ自身の上級職だ」

「そういえばまだ、本人の上位職は分かってない」

「当然、被ってはいねえ」

「死んだとされたときの資料に拠れば吸収師だったか」

「吸収師って確か吸魔士の……」

「ああ。だとしたら魔法が効かない可能性がある」

 吸魔士は魔法士×盗士の複合職で、吸収魔法が扱える。

 吸収師はそれの上位で吸収した魔法を跳ね返すことができる。

 つまり、【魔法反射穴】のみ使える魔法士といったところだろうか。

「それに犬猿雉、いや鳥か……技能やらを無効にする技も使えるんだろ?」

「ええ。それで俺の固有技能も止められました」

「まあ、そっちについてはもしかしたら三人でしか使えないのかもしれないがな」

「その可能性はあるな。とはいえまとめて魔法で殺せなかったら、個別に倒していくしかない」

「で個別に倒していけば卯星の能力に、戌申酉トリオの無効化もあるってことか。下手したらその三人のうち誰かが卯星の能力も引き継いでいる可能性もある。けっ……面倒臭ぇな」

「が面倒臭いだけで倒せるのだろう、ディエゴ?」

 にやにやしながらトワイライトは問う。

「ああ。がこれにはレシュリー・ライヴ。最後の最後、てめぇが踏ん張る必要があるができるのかよ?」

「当然」

「なら、でっけえ魔法を撃つぞ」


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