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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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契約


135


「あんな悪魔をいつ呼べるように?」

 親しげに(?)ディエゴと話す悪魔を見てマイカは驚いていた。

「それは秘密ですよ」

 やや苦しげにルクスは反応を返した。

「あなた、もしかして……」

 いつもは皮肉や悪口で応酬しているマイカはルクスの異変に気付いた。

「シッ、今はそんな場合ではないでしょう。この場を乗り切れば、もう危険な橋は割らなくて済みます」

 言い切ってルクスはマイカを押し黙らせる。

 確かにこの場を乗り切れば、ディエゴはゲシュタルトを狙うことがなくなる。

 そうすれば貴族になったふたりもゲシュタルトとともにこんな場所に来なくても済む。

 それはマイカにとっても理解できた。だから押し黙るしかない。

 一方で戦闘は激化している。

 ゲシュタルト、グラウス、マリアンはほぼマイカとルクスで守らなければならない。

 ルクスには生傷が増え、マイカも無傷とはいかない。

 だからルクスは多少無理をしてでもグシオンを召喚していた。

 当のルシオンはその「無理」がなんであるかを語らない。

 ディエゴあたりはそれがなんであるか理解しているが、ルクス本人の選択に何も言わない。

 それほどまで大切にしたい何かがあるのだろう。それがわかっているからだ。

 ディエゴたちのもとへと向かわせたグシオンが戻ってくる。

 40匹の小悪魔たちを引き連れて。

 そしてルクスやマイカたちを守り始めた。

 手っ取り早く終わらせたいがために呼んだ悪魔だったが、ディエゴはそれを無下にするようにルクスの元に戻した。

 最初はそう思った。

 いや、違う。それでもすぐに思い直す。

 ディエゴはグシオンの特性を知っていてルクスの元に向かわせたのだ、と気づいた。

「主ニハ近寄ラマセン」

 グシオンが手を向けるだけで、攻撃や分身が逸れていく。

 敵対しているものを友好的なものに逆転させる、というある意味堕術に似た特性をグシオンは持っていた。

「主、右ニ少シ逸レテ下サイ」

 言われた通りにルクスは少しだけ右によけると、元いた場所に【影手裏剣】が飛んできていた。

 過去や未来の知識に精通もしているグシオンはわずかに未来を読むことができた。

 近づく敵や影分身は友好的なものに変化させ、そういう意図がない攻撃などは未来予知で回避してもらう。

 ルクスの召喚した悪魔は防衛にはうってつけの悪魔だった。

 ただし、ルクスの命が保つまでは、という条件つき。

 ルクスは実力に伴わない悪魔との契約で寿命を差し出していた。

 実力が伴っているのなら、主に精神力の消費で召喚できる。

 が例外もある。それが今ルクスの使っている邪道の方法。

 邪教徒が生贄や自らの命を犠牲にして邪神と呼ばれる悪魔を呼び出す儀式と仕組みは同じだ。

 魔召鍵(アプリ)での呼び出しの際に呼び出された悪魔に、条件を提示し、それを伝手により上位の悪魔を呼び出してもらうのである。

 命尽きるのが先か、ジョーカーが倒されるのが先か。

 ルクスだけはそういう類の勝負をしていた。

 もっともルクスは命が尽きないという覚悟をしていた。

 その覚悟があったからこそ、寿命を差し出し、

 その覚悟を受け入れたからこそ、グシオンは召喚に応じていた。

 グシオンにとっては差し出された寿命は些事。

 その覚悟こそを買っていた。

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