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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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朗報


134


「リアン様、その他の人も私の後ろへ」

 トワイライトの誘導に、警戒しつつも従ったのは名前を呼ばれたリアンもだった。

「トワイライトなの……?」

 記憶の中にあるトワイライトはもっと凛々しく、今のように煽情的な姿はしていなかった。

「ええ。トワイライトです。説明は後ほど。ただ、この格好は好き好んでいるわけではありません。端的に言えば呪いです」

「良かった」

 リアンは思わず一言。お姉さんのようだったトワイライトが変わってしまったのではないかと不安になったのだ。

「他の人も生きているんですか?」

「ええ、[四肢]は全員が生きています。リアン様のランクでは説明しても理解できない場所におります」

「生きているんだったら、何も聞きません」

「話はいずれ。今は目の前の敵にご集中を」

 うん、とリアンが返事する頃にはトワイライトの衣装に変化が起きていた。

 今度は豹柄水着だ。

「今日は変化が早いな」

 ぼやくだけでトワイライトは動じないが、そう見せてないだけで内心は恥ずかしさに押しつぶされていた。

 リアンがいるということもあってか姉のような強さを保とうとしていた。

 地獄によってドゥドドゥドゥは接近戦を避け、影のようなものを飛ばしていく。

 それも目にも止まらぬ速さだ。

 なんとかアルが剣で振り払う。距離があるおかげで減速しなんとかついていけている。

「厄介」

 それはイチジツも同様だった。

「【強影分身】と【吸剣・吸孤児鬼】だろう。見分け方は分かるな?」

 アルとイチジツがなんとか持ちこたえているのは、前で戦うトワイライトのおかげだろう。

 トワイライトが上位技を見抜き指示を出す。

 影師たるウルウの猫のような容姿をしている影のが【強影分身】で、吸血鬼のような姿が【吸剣・吸孤児鬼】だろう。

 本来の【強影分身】はウルウそのものを体現できるはずだが、ウルウ自体が継ぎ接ぎのような姿をしている成果、ウルウをかたどった影のような姿をしている。

 しかもそれが本来のウルウの速度を超えて速い。【吸剣・吸孤児鬼】も然り。

「【強影分身】は2種類存在する、気をつけろ」 

 言った側からだった。

 イチジツが剣で受け、少し弾き飛ばされる。

「苦戦必至」

 弾き飛ばされたのはトンショウ(午星)の姿をした影。

「他の改造者の姿も【強影分身】できるのか」

「しかも、その改造者の技能が使える」

 アルの答えにトワイライトが補足する。両手を大きく広げて突撃する【屠龍&鷲木菟】をトンショウ(午星)の姿をした影は使用していた。

 ウルウの影も【影裏剣】を放ってくる。これは影師の通常のスキルだが、その上で【吸剣・吸孤児鬼】も飛んできている。

 他の十二支悪星の影も作り出せるとすれば、攻撃手段は複数に渡る。

「トワイライト、手は足りるか?」

 さらに前では影に応戦するディエゴたちの姿がある。

「さて、どうやって対応するかァ? てめぇだって気づいているんだろう、レシュリー・ライヴ?」


  ***


「うん。あれのことでしょ?」

 指差す方向には肉塊ドゥドドゥドゥの姿。 

塩前奏曲(ラヴァナプレリュード)】を使用した午星と本体であるドゥドドゥドゥ以外の十二支悪星に影響が出ていた。

 継ぎ接ぎだらけの体に凍傷と腐食の効果。あるいはどちらかが発生していた。

「ま、あれを有効利用できりゃいいけど、当然、ドゥドドゥドゥはそれを覆す手段を持ってやがるぞ」

「その覆す手段も覆すよ。でもたぶん卯星が怪しいよ。自害すれば死んでも生き返る改造だ」

「けっ。おそらくビンゴだろうな。最優先はそいつだ。だが問題はまだある。悪魔だ」

「地獄讃歌によって生まれた地獄とともに現れた悪魔ですか。でもそれは……出てこなかったはず」

「たまたまかもしれないし、こういうときのためにあえて出さなかっただけかもしれない。改造の副作用ででなくなったというのは可能性のひとつだ」

 少しディエゴらしくはない、と思った。

 僕がディエゴの何を知っているのか、と言えばそうだけれど、少し慎重すぎる気がした。

「ソレハ、問題アリマセンヨ」

 ディエゴと僕の間に顔を出すように、その誰かは言った。

 人間では決してない顔立ち。

 悪魔だった。

 一気に臨戦体制。

 飛び退きながら武器を構える。

「落チ着キタマエ。私ハ、グシオン(賢明公)。悪魔デスガ……呼ビ出シタノハ、アレデハナイ。彼デスヨ」

 そう言ってグシオンは執事のルクスを指差した。僕たちに少しでも加勢すべく召喚したのだろう。

「肩入れなんざどういうことだ、悪魔」

「身ノ丈ニ合ッテナイノニ、地獄ヲ勝手ニ造形スルノハ気ニ入ラナイ、ト言ッタラ信ジラレルカ?」

「ハハハ」

 ディエゴが豪快に笑った。

「気に入らない、か。むしろ気に入った。信用してやるよ」

「ソレハ有リ難イ。ケレド次ハ敵カモシレマセンヨ」

「それは知ってるよ。ついでだ、教えといてやる」

 ディエゴが僕を指差し、

「そこにいる奴も、この戦いが終わったら、次は敵だ」

「ハハハ、ソレハ面白イ」

 ディエゴとグシオンに変な友情のようなものが芽生えていた。

 何にせよ、召喚された悪魔は僕たちに思わぬ朗報をもたらしていた。

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