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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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化猫


131


 ふと、ミネーレは違和感を覚えた。

 それは唐突だった。

 突然、お風呂場でいい案を思いつくような、そんな思いつきだ。

 すぐにメモしたり誰かに伝えたりしなければ、忘れてしまいそうな、けれどとてつもない思いつき。

 さっきまで課題としていたものが途端に氷解していく、そんな妙案。

『ねえ!』

「ひゃあ!」

 会話が終わったと思った途端、【念談話】から大声が聞こえきてジネーゼはらしくもない悲鳴を出した。

『いきなり、なんじゃん』

 ジネーゼが悲鳴をあげたことに赤面しつつもミネーレに問いかける。

『ジネーゼちゃんの武器の刃は体をすり抜けたんだよね?』

『そうじゃん。だからどうするか考えるんじゃんか?』

『霊体かもだし』

 ミネーレは言った。『あーしの縄盾〔密偵ダーマン〕は霊体も捕縛できるように縄に特殊な加工がしてあるんだし』

『だからなんじゃん?』

『思い出してほしいし。あーしは縄盾で一度は捕獲しているけど、転移で逃げられているんだし』

『でも自分も爪には当ててたじゃん』

『そこだけ武器なんじゃないの?』

 今まで黙っていたリーネが突っ込む。

『……』

 そこまで答えが到らなかったジネーゼが少し黙る。

『何にせよじゃん、じゃあそれが合ってるかどうか、やってみるじゃん』

『たぶん合ってるよ』

 なんとなくだがリーネは言った。ジネーゼを狙った殺気よりもミネーレを狙った殺気よりも自分を狙った殺気のほうが重みが違うような感じがしていた。

 理由は簡単だ。

 双魔士であるリーネは【魔祓】を使える可能性があるからだ。

 幽体系魔物や骸骨系魔物に抜群の威力があるそれは比較的簡単に覚えれるが、遭遇率が低いゆえに覚える冒険者が少ない魔法のひとつである。積み重ねた経験を利用して技能を覚える冒険者にとって技能は取捨選択しないといけないもので、万が一を考えて覚えるよりも常時使えるものを覚える冒険者のほうが多い。

 けれどこの魔法は上級の冒険者ならばほとんどが覚えている。その頃には積み重ねた経験も多く、取得する際にも微量と感じてしまう程度で覚えられる。

 少し贅沢をしてしまうかのような無駄にならない無駄遣いをする感覚で取得率は多い。その頃には万が一を考えていいほど慢心が命を落とすことが多いからだ。

 だからリーネも当然取得している。

 そしてウルウはそれを懸念している。というよりもジョーカーがそれを懸念して知識として埋め込んでいる。

 霊体による絶対的な物理回避と魔法威力の激減という恩恵。影師たるウルウも回避に優れ、さらに部屋の転移も回避として使える。

 回避特化。そこにいるウルウは猫のお化けと化すことで回避の化物、いや回避の化け猫と化していた。

 ウルウは気づかれた様子もなく、まるで猫を被ったような態度で、ジネーゼたちのほうへと向かってきていた。

『じゃあ、リーネを守るじゃんよ。リーネはよろしく』

『もうやってる』

 そう伝えるリーネは確かに詠唱を始めていた。

 側にはミネーレ。

 ジネーゼとウルウがぶつかる。短い爪から飛び出る長爪。その正体は仕込爪〔長目のガシャーン〕だ。静かな戦場ならガシャーンと伸びる音が聞こえる、鍛冶屋のこだわりが見え隠れする作品だが、よもや改造者に使われているとは思ってもみないだろう。

 すぐに転移。いや【影渡(シャドウシフト)】。影が残っている。

 出てきそうな場所に予想を立てる。

 当たらないと分かっていても短剣を振るう。ウルウは当たっても当たらないと分かっているから牽制にならないかもしれないし、警戒もしないかもしれない。

 それでも振るう。

 影が消えた。

 【影渡(シャドウシフト)】が切れたとは思えなかった。

 無駄に空を切る。

 懸命に探そうとすると声。

「そこっ!」

 声の先、見えるのは縄盾〔密偵ダーマン〕。

 ウルウは【影渡(シャドウシフト)】の途中で、部屋の転移を利用した。

 【影渡(シャドウシフト)】が影を追えることを知っているとジネーゼたちが知っているうえで途中でいなくなれば混乱すると踏んでいた。

 それをミネーレは読んでいたわけではない。

 ただ十全に警戒していた。

 ウルウが転移を使わないわけがないと。

 どういう状況で使ってくるかなんて分かっていない、けれどどういう状況で使われても対応しようと考えていた。

 それがこんなにも早く訪れるとは思ってはみなかったけれどそれでも対応した。

 影からウルウへと戻る頃には縄盾がウルウの体を捕らえていた。

 逃げ出すのはそれでもいい。

 なぜなら、既にリーネは詠唱を終えていた。

 【魔祓】。

 ウルウは転移をしようとしていた、のかもしれない。

 【影渡(シャドウシフト)】は連続使用できず、使えるのは部屋の転移のみ。

 それを使おうとしたのかもしれない。

 けれど、【魔祓】はウルウに届いた。

 表現するなら柔らかい光。

 それがウルウの体を通り過ぎた途端、まるで魂が分離するように青白い光球のようなものがウルウから抜けていった。

 おそらく魔物のゴースト(幽霊)の類だろう。

 それが【魔祓】によって祓われ、ウルウと分離した。

 まだ警戒は解かない。

 分離した、つまり改造が解かれた、と三人は推測した。

 がウルウは動かなかった。

 ウルウは死んでいた。

 あまりの拍子抜けに三人は驚く。

 けれど三人は知らなかった。

 ウルウはゴースト(幽霊)を組み込むためにすでにジョーカーに殺されていたことを。


***


「おら、どうだクソッタレが」

 試作(レプリカ)邪道十二星座(ゾディアーク)を全て叩き潰したディエゴが叫ぶ。

 満身創痍ではなくまだ余裕はあった。

「術中とやらに嵌ってやる。とっとと来い」

 同時にレシュリー・ライヴたちが駆け込んでくる。

「これが術中ってわけじゃないねぇよなあ?」

「当ー然!! ウルウも計画通り倒れたことでーすし、外にいた改造者の血も、試作(レプリカ)邪道十二星座(ゾディアーク)の血も集まーりましーた!!」

 床にあった溝は一箇所に血を集めるためのものだった。

 その中心にはいつの間にかジョーカーがいた。

 ジョーカーの手には13個の髪の毛。ウルウを含めた十二支悪星、13人の遺伝子。

 それらを言葉通り噛み締めて、ジョーカーは自らの首筋に注射器を刺す。

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