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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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課題


130


「――ッ!」

 リーネが唾を飲む。

 上から瞬間で現れたウルウの爪先を反射で避ける。

 一歩遅く、とっさに防御しようとした左腕の防具が避け、肌が露出。

 血が流れていた。

「うっざっ!」

 金剛杖〔供養するアーゲンベルド〕で咄嗟に反撃。

 がすぐに転移。

「うっざっ!」

 激情にかられるようにリーネは上を向いていた。

 無意識だった。

 上にはウルウの姿。

 視線が合う。

 はっ、となったように気づく。

 一度さがるとジネーゼとミネーレが前に出た。

「ごめんだし」

「ほんと、いい迷惑」

「あ、これ怒ってるわけじゃないじゃん」

 ミネーレが謝罪することはない、そう伝えたくてリーネは言ったつもりだが、

 その伝えた方では確実に厭味になってしまうからジネーゼがフォローした形になる。

「そういうのいいのから、ジネーゼ。それより、種が分かったかも」

「どういうことじゃん?」

「確証を得たわけじゃないけど、どう見ても不自然」

「なら話してみてほしいし。打開策になるかもしれないし」

『ならこっちのほうが便利じゃん』

【念談話】だった。ウルウはすでにこちらに向かってきている。

 悠長に話している暇はない。

『簡潔に言うからよく聞いて』

 仏頂にそう言って、至極簡潔にリーネは伝える。

『なるほど。確かにそうかもしれないじゃん』

 ウルルの動きを思い出してジネーゼは納得。ミネーレも頷いていた。

『ってか、ジネーゼもさっさと決めてきてよ。レシュリーと一緒に戦えるからって浮ついて油断してる』

『し、してないじゃん』

『してる。そういうのいらないから。当ててきて』

 リーネの指摘は的を得ていた。

 同時にミネーレも反省する。憧れのアロンドが一緒に戦った、生ける英雄レシュリーとともに戦っている。目的を共にしている。それがすこぶる嬉しかった。

 どこか浮ついた気持ちがあった。

 あーしも気合を入れ直さないと駄目だし。  

 頬に両手でぱちんと入れるつもりが、盾で両手を持っていたことを忘れていた。

 かなりの強打が両頬に入って涙目になってしまう。

 けれどこれで気合は入れ直した。

 やってくるウルウの爪先を盾で弾く。

 瞬間転移。

 確かめるように目線は上。

「ビンゴじゃんッ!」

 転移したウルウは上空に出る。

 ウルウの行動を見返してみるとそうだった。緊急的な回避の類は全て上空。

 特定の場所ではないが今までの傾向からある程度の予測もでき、かつウルウにも分かっていないのか、認識確認のためのラグが生まれる。

 そこを突く。

 いや突いていた。

 短剣〔見えざる敵パッシーモ〕はウルウへと確かに、確実に絶対に届いたはずだった。

 が刺さった感触はなかった。

「ニャア!」

 あざとく笑って、そのままウルルは爪先を伸ばす。

 必殺の距離。

「フギャウ!」

 直後、ウルウは地面に叩きつけられる。

 足に絡んだ縄盾〔密偵ダーマン〕を思いっきり地面に叩きつけられたのだ。

 がすぐさま転移。

「だからわかってるって!」

 リーネが金剛杖をすでに振り上げていた。

 上空のどこか。

 そして室内は狭い。

 限定的条件なら、なんとなく場所はわかっていた。

 ここまでの冒険での経験なら十分にある。

 避けられない距離。

 がウルウは宙で体を捻る。

 軟体かと思わせるほどの捻りを見せて回避。

「ジネーゼ!」

 がそれこそが狙い。

 今度こそ当たるはずのその毒刃は命中した。

 がすり抜ける。

 どころかふわっ、っとまるで黒い霧のようになって移動する。

 けれどそれは今までとは違う。黒霧が形つくっていた。

影渡(シャドウシフト)】。

 影師の影法だった。

「だるっ」

 リーネが思わず呟く。

「ってか、当ててんのに効いてないじゃん」

「毒無効ってこと?」

「【強影分身】とも思ったけど影っぽく消えてないじゃん。消えるどころか当たったのに当たってないわけじゃん」

「ジネーゼの表現はあれとして次はそれを解くってことね。メンド」

「でもでもリーネちゃんが推測した転移のトリックは確定って感じだし。だから、【影渡(シャドウシフト)】使ったわけだし」

「じゃんよ。さすがリーネ」

「うっさい」

「あ、これはあーしにもわかった。照れてるんだし」

「うっさい」

 褒められてリーネは毒づきながらも頬を赤く染めていた。

 リーネはウルウが何度も上空から現れているのに気づいた。

 それが自分が狙われ、応戦したことで決定的になった。

 おそらくウルウが転移系の改造をされているのではなく、この部屋自体に何らかの仕組みがあり、ウルウへの攻撃などに対して転移系の仕組みが働くのだと推測を立て、それは当たった。

 さすが改造の本家本元、悪の秘密組織というべきか。

 部屋にも改造が施されていたのだ。

 ただそれを看破したところで、まだ課題は残っていた。

 ランク7。

 上級職・影師。

 それも課題といえば課題。

 それよりなにより。

 攻撃に当たらない。

 それこそが一番の課題。

 難題だった。

 未だ余裕にも見える表情のウルウが、少しばかり退屈そうに「にゃあ」と鳴いた。

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