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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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術中

128


 表門を守る改造者にして復讐者たちの数は多い。

 それでもレシュリーたちを中へと通せたように、格が違っていた。

 キョウコウを倒したムジカはその後、ネイレス、メレイナとともにランク4に至っている。

 ランク5になることもできたが、レシュリーの要請を受けて集合したのはランクに固執していないという理由がある。

 それぞれがいい機会だから、という理由でランクを上げているだけだ。

 低ランクながらムジカ、メレイナは激戦をこなしていくことで少しずつ成長していた。

 セリージュもランク6に至り、ランク1から大草原で過ごしたネイレスは言わずもがな。

 それにシッタ。レシュリーの良き仲間として成長し、伴侶としてフィスレを得て、さらに固有技能も得ている。

 頭が採掘機となった男がシッタの手によって地面に押し付けられ、【舌なめずり】によって加速。

【舌劍絶命〈ノの型〉】→【舌劍絶命〈十の筋道〉】→【舌劍絶命〈口の包囲〉】の連携で有象無象を撒き散らしていく。

「なぜ、俺たちの復讐を邪魔をするッ!」

 薄れゆく意識のなか、改造者が絶叫。

「こんなものに頼る時点でろくなもんじゃねえだろ」

 シッタは吐き捨てて【舌なめずり】。【舌劍絶命〈舌の機銃〉】で蹂躙していく。

 すぐに手に入る力でも復讐はできるのだろう。

 けれどそんなもので復讐をしたところでなんになるのだろうか。

 雷牙団はある意味で復讐を終えた者のはぐれるしかなかった者の居場所ではあったが彼らも彼らなりの悩みを抱えており、しかもすでに壊滅していた。

 今は復讐のために改造した者の居場所はなく、こうしてその機会を与えてくれた悪の秘密組織を守るための駒として利用されている。

 セリージュたちも改造者の慟哭を聞きながら、それでも倒していた。

 メレイナは封獣士で、魔物に対して絶対的な強さを持つ一方、対人戦においては基本職程度の力しか発揮できない。

 それでもメレイナの身近には最強の見本があった。

 レシュリーだ。度重なる戦いを共に経験してきたメレイナはレシュリーの動きを観察していた。

 それはレベルアップのための経験値にはなりえないが、自分自身の経験となり、血と肉になっていた。

 〈双腕〉のレシュリーのようなふたつの球を同時に投げるような戦いはできないが、それでもその投げ方、投球士系複合職としての仲間との気の遣い方、援護の仕方は勉強になっていた。

 メレイナが詠唱中のムジカを援護しながら、セリージュを適切な場所に転移もさせていく。

 【転移球】の転移先は見極めることができるが、改造に頼る冒険者の大半がそんな知識すらも知らない。

 突然現れたセリージュに動揺を隠せず、何もできないまま斬り伏せられていく。

 それ以上にネイレスの速度に翻弄されている。シッタも【舌なめずり】を経て目に見えぬ速さだが、それと同等、それ以上に速いネイエスの速度は目には見えない。瞬きをしただけで数m後ろにいたネイレスが眼前におり、驚いている頃には斬りつけられていく。

 魔法士系複合職であるムジカの詠唱を阻止に動きたい、改造者の冒険者たちもネイレスとシッタの速さに戸惑い、セリージュの強襲に苦戦し、メレイナの援護に距離を詰められないでいる。

「やばい」

 じりじりと後退した改造者がいつの間にか後ろにいた他の改造者にぶつかり気づく。

 改造者たちは一点に誘導されていた。

 そうしてムジカの魔法が発動する。

「もう逃げられない」

 悪の秘密組織ジョーカーの壊滅を阻止するために集まった改造者は、命を賭して阻止しようとしていたにもかかわらず、圧倒的な強さの前に敗北を自覚して嘆いた。

「くそ、そんな力があれば……」

 復讐も簡単だった、とでも言いたいのだろうか。

 安易な力を選択したのは自分であるはずなのに、

 恨んで、羨んで、改造者たちは消し飛んだ。


***


 ヤギの頭を持つ女が爆散し、水瓶に足が生えた異形が斬り伏せられる。

 それぞれがディエゴとトワイライトの戦果だった。トワイライトは兎の尻尾がついた肩出補正防具(ボディスーツ)に兎耳、網タイツと俗にいうバニーガールの衣装に呪いのよって変貌していた。

 試作(レプリカ)邪道十二星座(ゾディアーク)の個々の強さはランク5相当。

 ランク7へと無理矢理到らせた十二支悪星のようにランク7にすることも可能のはずなのにそうさせてないのにはなにか理由があるとディエゴは推測していた。その認識はトワイライトも一緒だ。

 ディレイソルもディエゴたちよりも時間がかかるが半魚人を倒したところだった。

「随分と余裕だなァ、オイィ!」

「いえいえ、これでーも随分と焦っていーるのですよ。あなたがーたは強いでーすからねえー」

 試作(レプリカ)邪道十二星座(ゾディアーク)の強さはディエゴたちには余裕だった。

 そんな相手では足止め程度にしかならないはずなのに、ジョーカーは焦りもなくどこか余裕の表情でただ見ているだけだ。

 何かを企んでいるという憶測が確信に変わる。床には溝が彫られており、どこへと続いているようだった。

「チッ」

 あることに思い至り至り、思わず舌打ち。

「ディエゴ、もしかするとこれは……」

「なん(?)なんですか?」

「ああ、面倒臭ぇことこのうえないが、ジョーカーの術中に嵌まるしかねえだろうよ」

 獅子そのものの試作(レプリカ)邪道十二星座(ゾディアーク)を叩き潰してディエゴは答える。

「そのうえで叩き潰す、か?」

「そうなるな」

「では、嵌まるとするか」

「そーちらも随分と余裕ではないでーすか」

「こっちは手詰まりだから、そっちの手の内全部出させる寸法だよォ。言わせんな」

「ヒッヒ、そーれでは敗戦必至なーのでは?」

「確かに(?)」

「ディレイソル。疑問系でも敵に同意すんなァ。まあそうしたくなる気持ちもわかるが、こいつを倒すにはこの試作どもが邪魔すぎるがこの試作を倒すと、このクソヤロウの術中に嵌まる。どっちかしかねえなら嵌まるほうがまだマシなんだよ」

「なーんのこーとでーすか?」

 とぼけるジョーカーだったが、

「冷や汗が出てるぜェ?」

 指摘されて思わず、頬を触る。

「嘘だァ」

「図星らしいな」

「わーかーぞーうーがああああああああ!!」

 一本取られて、このときばかりは表情を崩した。

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