名乗
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カジバの馬鹿力。それは才覚でもなければ特殊技質でもない、アルルカやルルルカ、エウレカ家に代々継承される呪いのような血筋の力だった。
試してみたい、というのはそれが使いこなせるかどうか試したいということだったのだろう。
ルルルカが命を燃やしてでなければ使いこなせなかった力の条件をアルルカは満たしたのかもしれない。
消えるような神懸った速さでコントンの背後にアルルカは迫る。
「チュ!?」
驚きながらもコントンも反応し、アルルカを確認。けれどできたのはそこまで。
魔癒双剣師へと至ったアルルカの【炎帝】【雲泥水】、それぞれ魔法攻撃階級6の炎と水が交わった魔充剣タンタタンの凶刃はコントンの背中へと切り込んでいた。
「チュチュチュ! チュ!」
それは悲鳴ではなかった。
真っ二つに切り裂いたはずのコントンの姿が消える。
残像だった。
「うちの速度に追いチュくなんて、おみゃーはなんチュー速度チュね」
腰を抜かしてながらも、冷や汗を掻きながらも、それでも余裕があるように、コントンは告げた。
「でもまあ、うちの速度に追いつチュけても勝てないチュ」
「確かにあんな速度に反応できたのは驚きね」
「けど、だとしたらそれが改造された部分ということでござるな」
「おそらくそう思います。余裕がありそうに見えますけど、背中の傷は隠せてません」
指摘されてコントンは背中を少しさすり、バレていた動揺を隠す。
「このまま、押し切りますか?」
「追い込めるとは思うけれど、時間がかかるわ」
「ではどうするでござるか?」
「どうもこうも、こういうときは……」
「こういうときは?」
「あんたに任した」
ポンポンと肩を叩いて、アリーはコントンと向かっていく。
「何か思いついて」
「そういうことでござるか」
何か納得したような顔でコジロウはアリーに続き、アルルカも続いていく。
三人が高速でコントンを追い詰めていく。
「素直に認めるでチュ、おみゃーらは強い。けれど要注意! うちはおみゃーらよりも数段強いでチュ」
その言葉は虚勢とは思えなかった。まだ何かを持っている。そう感じさせる言葉だった。
それを示すようにコントンは剣を一振り。蝙蝠男のような影が三体出現する。
【吸剣・吸孤児鬼】で出現する蝙蝠男は一体。
それが三体出るということは一回の使用で三回使ったことになる仕様ということだ。
コントンは適当に剣撃を繰り出し、【吸剣・吸孤児鬼】の影を増やしていく。
それに対処しながら、アリーもコジロウもアルルカもコントンと高速戦闘を繰り広げていく。
互いが互いに決定打を与えられない。
けれど【吸剣・吸孤児鬼】によって、かすり傷を再生させていくコントンのほうが、長期戦には一日の長がある。
だから僕は出し惜しみはできない。
錬金術師となった僕が新しく使えるのは【超合】、【錬金】のふたつ。
【超合】は【合成】の上位版。道具か投球を3つまで混ぜ合わせることができる。
【錬金】は【合成】の強化版で道具と投球に加え、武器も混ぜ合わせることができる。
今回はコントンが見切れぬほどの速度を必要とする。
なら……
必要な道具を【収納】から取り出して、超合!
「行くぞ!」
【超合】され、神々しく光る球が両手にあった。
原材料は魔巻物と【剛速球】と【剛速球】。魔巻物の中身は【加速】。
三種類の超速度を組み合わせて新技能が誕生する。
【神速球】。
速度によって威力が決まり、なおかつ自身も加速していく球だった。
まるで流れ星のように光の尾を引いて一筋の光がコントンを打ち抜いた。
「ぬなあ!?」
変な悲鳴とともに腹を強打したコントンが吹き飛ぶ。
「何が起きたでチュか?」
誰よりも速く、何よりも速く早く、【神速球】はコントンに重たい一撃を加えていた。
隙は与えない。再び【神速球】を投げていく。
「アリーたちは吸剣の対処を」
全員が首肯するよりも早く、僕は【神速球】を連投していく。
「お」コントンが【神速球】が当たる。
「ま」コントンは避けれない。
「え」一瞬にも満たない時間でまた【神速球】が捉える。
「は」コントンには捉えられない。
「い」何かが飛んでくる、と認識しながらも、
「っ」その速度に対応できず、
「た」なんとか対応しようと模索するが、
「い」その間にまた【神速球】がやってくるのだ。
「だ」一度命中すると収まることのない、猛追に、
「れ」その圧倒的な強さに畏怖しながらも
「だ」コントンは声を絞り出してもう一度問うてきた。
「言わなかったっけ?」
これがトドメの一撃だと教えるように少しだけ、連投から間を上げて投球。
手元から離れても、減速どころか加速する【神速球】がコントンの頭を打ち抜き、身体を地面へと叩きつける。
「僕がレシュリー・ライヴだ」




